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12/6 噛み合わないココロ

「先輩! 宇美ちゃんってマジかわいいですね! デート、お茶飲んで映画行って晩飯って超シンプルデートでも、にっこり笑って気遣ってくれて。仕事にも理解があるし、話が合うって重要かなって思いましたよ。え? 見た映画? 洋物コメディですよー。何は無くとも緊張を解いてもらわなくっちゃはじまるものもはじまらないじゃないっすか」

 後輩の猪口が元気にはしゃいでいる。

 うちに時々手伝いに来るうちに『宇美ちゃんってマジタイプ』とか言い出して、手伝いを要請したら五回に四回こいつが来る。

 まぁ、俺より若いしなぁ。

 フットワークも軽い。

 真面目で、浮気とかができるタイプでもない。

 宇美はキツイところもあると教えても『ご褒美ですね!』ってどうもわからん反応をされた。

『時に可愛く時に冷たく、甘えてくれたり怒ってくれたり、可愛いってことでしょう?』


 そーいうもんか?



「宇美が緊張ねぇ」

「そりゃ慣れない男とのデートは、緊張すると思いますよ」

 仕方なさげに苦笑をもらす猪口。

「ウチで何度も顔を合わせてたろう?」

「いやいやいや。先輩! そういうのと恋愛対象としてデートするんじゃ大違いですよ!」


 そういうもんか?



「と、言うわけで」


 ん?


「雇ってください! 宇美ちゃんとの接点が欲しいんですー。クリスマスを共に過ごせるくらいのおつきあいにまで発展させたいんです!」

「それ、無理」

「え?」

「残念ながらうちの経営状態ではもう一人獣医を雇う人件費の余裕はない。臨時手伝いの日当を払うのがせいぜいだな」

 がっくりと肩を落とす猪口。

「今年は出かけたりしないしなぁ」

 去年は旧水族館(あきくんとこ)でサンタになってたが今年は要望はないようだし。

 ケーキ食いながら急患待ち待機かな?



「ところで、思い切って、聞くんですが」

 真剣な眼差しに首を傾げる。

「先輩は宇美ちゃんってどう思ってるんです?」

 はぁ?

「かわいい隣の子。かなぁ。生まれる前から知ってるし、だから、泣かすような真似は許す気は無いぞー」

「あはは。泣かしたとしたらぼくも絶対泣いてますね!」

「んー?」

「ほら、嬉し泣きとかもあるじゃないですか!」




 ◇◇



 戸津先輩の前でデート報告がてら宇美ちゃんを褒めたおす。

 先輩はどこか不思議そうな微笑ましげな表情でこっちを見てくる。

 なんだろう。

 獣医としてはものすごくかっこいい先輩だと思ってるのに。

 宇美ちゃんのあの一途な愛に気がついてないってなんだろう。

 有り得ないよな。

 いっそこのまま気がつかないままなら宇美ちゃん、こっちに落ちてこないかなぁとか思っちまう。


 手伝いに行ってはじめて『隣の宇美』ちゃんに会った時、彼女は大学生で。

 どこか背伸びしている様子が好ましく思った。

 そしてその視線の先には先輩がいた。今も変わらずにその視線の先は先輩で。


 生まれる前から知っている相手。


 もしかしてかなりハードル高かったりするのか?


 泣かしたら許さないって、



 絶対ぼくより先輩が宇美ちゃん泣かしてるよ。





 宇美ちゃんからの一途な愛を当たり前にスルーする先輩なんか爆発してしまえ。






 ちくしょう。


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