12/6 夜。手紙を書こう
夕食の席で隆維がいきなり言い出した。
「サンタさんへの感謝の手紙」
「会えない人への手紙」
を書こうと。
小梅先生の結婚式での手紙の読み上げに影響を受けたのかもしれない。
それにしても今日は芹香も隆維も唐突だ。
放課後に芹香と行った天然石ショップ『無限回廊』
空ねぇのバイト先で、芹香は海ねぇに聞いて知っていたらしい。
ちょっといいかなって思ったものもあったけど、空ねぇの目に止まったことのあるっていうかバイト先にあった物をプレゼントするっていうのはちょっとなぁ。
明日のツリー飾りつけにいきなり誘ったり、二十五日俺が予定ないの暴露したり、暴走が激しかった。
本当に二人とも唐突に暴走する。
のあは「産んでくれたおかあさん」に書くと言って笑う。
みあはのあに便乗。
ミラちゃんは笑ってお手紙は苦手だ。と終わらせた。
千秋は少し考えて「セシリアママかな」と呟く。
俺も便乗して頷く。
芹香の父親の前妻。
優しくていい匂いがしていた。
「それと母さんの両親」
千秋がそう言った時、少し母さんの表情がこわばった気がした。
便箋に文字を綴る。
泣いていたら抱きしめてくれて、撫でてくれた。
人はそれぞれに違うものなのだから、出来ることと出来ないことは違うものなのだと撫でてくれた。
千秋は臆することなく、いろんなところへ行って遊ぶ。
気がつくと知らない友達を増やして何処かに駆けていく。
そう置いて行かれて少し拗ねているとセシリアママはそう言っておでこにキスをしてくれた。
もう、セシリアママの顔が思い出せない。
思い出の中の記憶は優しくて甘い印象だけ。あ。母さんに『誰?』って言っちゃったの思い出した。
やっべー。
『今も変わらない愛を。大好きなセシリアママに』
書く内容なんてこのぐらい。
思いついて明るい色の封筒に手を伸ばす。
芹香と選んだ便箋がかぶってお互いに笑う。
便箋に何も書かずに封筒に入れる。
いつかは伝えたいと思えることをかけるかもしれない。ただ、それは今じゃなくて。
もう一枚便箋を取る。
『波織姉さん。
今、飛鳥ちゃんと同じ町で暮らしています』
報告だけ書く。
セシリアママも波織姉さんもいない人。
どこに届くはずもない手紙。
千秋を見ればつまらなさげな表情で封筒を閉じていた。
空ちゃん、海ちゃんお名前借りてます。




