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12/1 旧水族館

「なんかさー、鎮のやついいように使われてね?」

「あー、そうかもね。カモられているわけじゃないからいいとは思うけどさ。で、高校進学すんの?」

「千秋。現状で俺に逃げ道があるとでも?」

「んー、ムリ、かな。いいんじゃない? ミホも行くし。鎮が書類抜けないかチェックしてたから勝手に出されて、登校してないのがバレたら迎えに来られそうだよな。うん。やりそう」

「のんびり怖いこと言ってんじゃねぇよ」

 謎のおっさんのキャッチセールスから数日、鬼小梅の結婚式の翌日、俺はなぜか旧水族館で朝飯を食うことになっていた。

 必要資料は中学に顔を出したら、連絡が通ってて体育の木下、鬼小梅の手下が準備していた。

 ミホは素直に喜んでいたな。


「旧小梅先生に心配かけたくないんだろー? 大人しく流されてれば?」

「めんどい」

「まぁ、やる気ないんなら好きにすれば? 俺、お前がどう野垂れ死のうが破滅しようが気にならないしねぇ」

 千秋は興味なさげに綺麗に作ったプレートのオムレツを食べている。

「すげー言い草。らしいけどさ」

 ちらりと俺を見てつまらなさそうな表情でコーヒーに口をつける。

「そう言えばさ。最近ちらっと思い出したんだけどさ」

「なにを?」

 しぶしぶと促す言葉を紡ぐ。弟妹が大画面でアニメ視聴中だからゆえの無愛想さだ。あと、ここが居住エリアの居間だからのせいもありそうだ。

「鍋島だよ。鍋島サツキ。…………フォークをこっちに向けて狙いをつけようとすんな」

「…………で?」

「俺さ、あの女嫌いだったんだわ」

 沈黙。

 もてあそばれているフォーク。地味に感情を篭らせない眼差しの底に妙な熱がある。

「待て。素で目ェ狙おうとしただろ。いいじゃねぇか。実は惚れてたとかって言うわけじゃねぇんだからっ」

「………で?」

「それだけだぜ?」

 首を傾げて見せると苛立った表情で睨まれた。

「ほら、あの女、強かったからさ」

「…………」

「ガキの頃なんか白い髪のチビいたぶったりとかしてたのも知ってんだよ。途中からこの町に来た千秋はしらねぇだろ?」

「……………」

「俺たちとは違うって目が言ってるんだよな。気に入らなかったな」

 『俺達』とつるむようなことはなかった。

 『悪戯』も『遊び』も一緒にやったと話している奴はいなかった。

 気に入らないことに『鍋島サツキ』は『強く』て『生意気』で『仲間』じゃなかった。

「……健はなんだかんだ言って面倒見はいい方だから気になったんだろ」

「あの女、バカのくせに頭は良くてさ。そこもムカつく要因」

「いや、勉強してみればよかっただろ?」

 ようやく千秋が少し笑う。

「かっこ悪いじゃねーか」

「成績悪い方がカッコいいとは思わないから俺にはわかんないね」

「悪の秘密結社とか怪人とか平気でやれる身内がいるのにわからないとっ!?」

「知らないの。悪の組織だって学歴に能力重視なんだよ? 綺麗な犯罪には法律や手法についての知識が必須だしね、学歴はなくとも知識は必要かな」

「えっと、悪かった。俺が全面的に悪かった。んじゃそういうことで、その醤油入りドリンクを俺の前に置かないでくれ」

 まだ、ぴりぴりしてるけど、少しは話ができるようになってきたんだろうな。


「有坂ー。制服の予備持ってきたから袖通してみろよー」

 ココに俺を拉致って来た本人、鎮が荷物をもって現れた。


 うろな高校定時制は昼と同じ制服を採用している。

 登校時ジャケット着用する。その一点を最悪守っていればいいらしい。

 仕事終わり直行組には制服着用義務はきついだろうという配慮だ。俺やミホはともかく年齢によってはかなりきついんじゃないかと思う。

「梨沙さんが言ってたけどさ。卒業生から使ってないジャケットとか少し集めて格安配布とかもあるんだってさ」

 支給されるっていう制服は夏冬一組ずつだ。

 予備やサイズが変わった場合は自腹。

 鎮のジャケットは少しゆったりぎみに着れた。

「多分、隆維・涼維は新しく制服作るしさ、そんなに破損してたりもしないし使ってー」

 と言うか新品同然だろ。

「女にもこういう気配りして泣かせてんのかね」

「大丈夫。ほら。鎮はロリだから大人の女性に興味がないんだ」

 からかうように千秋が乗ってくる。

「ロリじゃねぇ。別に泣かせてないし」

 不服そうに訴えてくる鎮。

「やっぱり胸はでかい方がいいよな。触り心地がいいし」

「サイズってだけじゃ一概に言えないよね。最近のブラって色々だし」

 ……千秋はノリがいい。

 こういう話題千秋は結構好きな方だしなー。

 鎮の方はむっとした表情でそっぽを向く。

 きっと睨まれた。

「言いつけてやる」

 ?

「リッカさんに」

「は?」

 何で今の俺の金づる、もといみつぎちゃんの名前がここで出てくるっ!?

 たしかにリッカちゃん二六才はAカップ!

「だいたい、ミホちゃんだって不安になるだろ?」

 えーっと、千秋ー?

 視線はさりげなく逸らされる。

「そうだね、歪んだ関係は清算しといたほうがいいんじゃないかな?」

 ぽそっと綺麗事を呟く千秋。

 しかし、ミホもリッカちゃんも等しく金づる。

 まぁ、情と言う意味ではミホに軍配はあがる。

「職業斡旋だってあるんだろう?」

 俺以上にパンフを読み込んだ鎮が言うんならそうなんだろう。



 ん?


「って、俺にまともに勤労しろと?!」



「ちゃんとまっとうな収入を得れないと、きっと潤さんみたいに三回も求婚プロポーズを断られる人生が待ってるんだよ?」

「鎮、それ絶対収入関係ない」

 千秋の突っ込みに俺も頷いた。

「あ、やっぱり?」

 鎮も原因は別にあると思っていたらしい。


話題にて

サツキさん、清水司さん、おかりしております。

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