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十一月十日の夕方

うろな町の外

「うっとおしいなぁ」

 三春叔父が絵を眺めがらタブレットを操作する爺さんに軽く視線を送り、呟く。そして爺さんはそれを歯牙にもかけず流す。

「三春、なんか摘むもの」

「恭」

 たらい回され、仕方なく俺がソファから立ち上がる。

「その絵はお前のじゃないな」

「自分のかいたものなんかなんで眺めなきゃいけないの」

 キッチンで準備してる間にそんなかろうじて成り立っている会話が聞こえる。決して友好的ではない。

 爺さんが新しく購入した恋詩ヶ崎の別宅。

「人と猫、か。ゆえりがお前みたいだと言っていたな」

「よいの ゆきひめ」

「んー?」

「この絵を描いた画家の名前。それなりに賞とかもとってるし、絵から受ける空気は好き」

 賞とかは三春叔父さんは気にしない。

 それでも、その絵を描いた人物には興味を持って調べたのだろうと知れる。

「そうかー。嫌いじゃない感じではあるな」

 しばらくの静かな時間。

「ところでなんでココに買ったの?」

 叔父さんが爺さんに尋ねる。

「なんとなくだなー。うろな小谷の方も悩んだんだが。久喜様は海がお好きだったからな。海にすぐ行ける場所がいいと思っただけだ。釣りも好きだし、刺身もうまい」

「下手の横好きの癖に」

「腕、折ってやろうか?」

「いらない」



 穏やかでない爺さんと叔父さんの親子の会話を聞きながらイクラとアボカドのわさび醤油あえと牛肉と青梗菜の炒め物を小鉢に盛り、昼の残りのりんごと鶏肉の炊き込みご飯を小さなおにぎりにしてしまう。白飯がいいとか言われた時用に塩握りも並べる。緑茶も添えてお盆に載せる。

 まぁ爺さんの釣りは魚相手だと釣れないことが多い。海草とかは時々釣ってるみたいだけど。

「おまたせ」

「刺身はなしか」

「その辺は食べに行ってくれないと。作っても文句言われるのが目に見えてるのにちょっと嫌だし」

「精進しろ」

 箸を片手に一言をつけてくる。


「わぁーぅう」

 足元から黒犬の声が聞こえる。

「恭」

 爺さんが犬を指す。

「トロ、ドッグフード開けるからおいで」

「わぁう!」




 俺は山辺恭一郎。

 むこうの部屋で不穏な会話をしていたのは祖父と父親の弟。

 家族間の仲が総じて悪いというわけではなく、俺は祖父とも叔父ともそれなりの関係を築いている。と、思う。

 弟と妹が二人ずついる。

 下の弟とはあまり仲はよくないが父さんや叔父さん達ほど兄弟仲が悪いわけではない。

 爺さんのところは兄弟仲はバランスが取れてると自慢される。

 というか、爺さんが恐怖支配してる気もしないわけじゃないけど。



 山辺の家は『誰か』に仕えることに誇りというか、意義を求める家だ。

 祖父なんかは典型的な『主持ち』

 久喜様という『主』を見つけて好き放題狂信的とも言える忠誠を捧げた。

 久喜様が関われば、息子や孫は犬猫並みの価値も見出さない。

 だから、下の弟が、本人に不満がないとは言え、久喜様の孫である柊子さんが欲しがるままに婚約させるという、今の時代に合わなさげな行為も辞さなかったりする。

 ただ、山辺家うちの家系としては珍しくもないというか、当たり前と捉えられる。

 そこまで心酔できる『主』を見つけたのかと親族会では羨ましがられたり。

 たぶん、次の親族会には俺じゃなく、弟が出ることを期待されている。

 弟の現住所はこの近くだと思うんだけど、現在禁止令が有効なのであえて探してはいない。

 

 先日久しぶりに会って堪能したし。

 まぁ、『しずめ先輩』とやらが絡むとかなりないがしろにされそうな予感がしてぞくぞくする。


 自分に自信を持てないように丁寧に仕込んだ。

 俺にだけ信用と信頼を向けれるように丁寧に他に知人以上を作らせなかった。

 孤立していけるように。

 俺にだけ依存するように。

 そのためなら弟本人であろうとその周りにいる者であろうと多少の怪我ぐらいかまわないと思っていたから。

 かなり成功していた。

 敗因は階段から落としたときに祖父が偶然目撃したことだろうと思う。

 それでも、弟は俺を庇った。

 悪いのは自分だと。我ながらうまく仕込んだと思う。

 そんな弟が他に執着すると言うのは悔しいだけかと思ったらそうでもなかった。

『先輩、とっちゃいやだからね?』

 と、上目遣いされた時、もう、なんでも協力しようと思った。 

 もう、その先輩とやらなんかは俺は興味ないよ。


「ああ、もう、かわいかったなー」

「わぁーう」

 犬の不満そうな声。

 俺はえさを皿にうつし、むさぼる犬を眺める。


「町のアイドルの結婚かぁ」

「天音が世話になってるし、関わりはあるから、この裏プランに協力するつもり」

「では、私も協力するか。楽しそうだな。セイレーンは歌わないかな?」


「しらない。ああ、恭、明日は学校だろう? 送っていくか?」


「ううん。ありがとう三春叔父さん、そろそろ帰るよ。お爺様もまた」

「ああ。またな」


 家を出る前に飾られている絵を眺める。


 夕焼けの赤の中、蒼くてきらきらしててきれいな絵。


「お爺様、また来ます」


雪姫ちゃんから頂いた『絵』

清水先生結婚ネタについて触れております

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