10/19 文化祭二日目。
ちらりと村瀬さんと視線が合う。
「私、鍋島さんにあまり興味も接点もなかったし、退学しちゃってたんだなぁって感じよね」
包丁でフルーツカットを続ける。
「幼馴染って、思い込みが強いから、見てるようで、見てなかったりするんだと思う」
調理場の外できゃあきゃあ騒ぐ声が聞こえる。
「あー。その」
「別にいいんじゃない? 誰かに言ったりしないし、でも、カットが少し、ね。包丁使うカット物はがんばるから揚げ物はよろしくね。熱いし助かっちゃうな」
「もちろん。がんばるよ」
これってつまりバレてるよなぁ。
胡乱な視線が突き刺さる。
手早く焼き上げたクレープ生地にサンド用のフルーツとクリームを飾りこむ。
何枚か準備してある紙で巻いたら出来上がり。
「梅原先生。食事に問題がないようでしたらビタミンもちゃんと取れるフルーツのクレープです」
笑顔が気持ち引きつりそうだ。
「貰おう」
受け取りつつ、向けられる困ったような表情が痛い。
「心配事が多いと思いますけど、先生は体のことを一番に考えてくださいね」
ため息。
仕方がないと言わんばかりのため息。
「赤ちゃん達とても楽しみです。あ、赤ちゃん達の分もクレープ焼きましょうか?」
小梅先生を騙せるとは思ってなかったけど一発かよ。
そうやって見抜かれて視線をおくられるとマジ痛い。
ぁー。なんかいろんな意味で泣きそう。
その後他にも気づいたっポイ方にクレープを貢ぎ、後片付けの頃には精根尽き果てました。
店じまい後、掲示物やらを見に行く部員を送り出し、後片付けをする。
千秋が最後に残るのは普通のことで誰も疑問に思わない。
『味がわからないのが戻らない』
困惑する千秋に何も言ってやれなくて。
渋る千秋に文化祭で入れ替わることを提案した。
実際に気がついた人物は少ない。
調理場に引き篭もってたしね。
『大丈夫』
そうは思えないのにそう言って笑う。
まぁ、にゃんこからだという鍋を抱きしめて『最初に何を作ろうかなぁ』と言ってる姿にはいささか引くけど。
窓の外はうす雲越しの夕暮れに赤く染まっている。
学内に広まるうわさが痛い。
町中でかすかに聞こえるうわさが痛い。
わけのわからないことが重なる現状が痛い。
「大丈夫」
そんなわけがないのに。
「だめ、だなぁ」
じゃれて、怒らせて、
『千秋が下の名前で呼ぶから俺は呼び方を変えるの。千秋が妬いちゃうだろ』そう言った時の照れっぷりを楽しんで。
「ああー。もう。にゃんこには当たりロシアンだな」
コップに当たりジュースを注ぐ。
一呼吸、ほの赤い外を眺めつつコップを掲げる。
「いもうとになると思ってた。そこまでいかなかったのかも知れないけれど、俺の中ではもう家族だったんだ。家族として、友人として、君が死んでしまって悲しい。でも、にゃんこは悲しみに沈む俺達を見てたら怒ると思うんだ。千秋はまだ暗い場所から立てない。つーか立つ気がなさげだし、それで自縛霊にでもできるんならやりそーだからサクッと成仏しといてよ」
ひとしきりコメントしてコップを煽る。
「……まっず」
あー。まずさのあまりに泣けるわー。
千秋にも持って帰ってやるかー。
どーせ味わかんないって言ってんだし、ちょうどいいだろ。
梅原先生
鍋島サツキさんお借りしています。
鎮は簡単に泣くなぁ。




