10/18 アヤカシ
「居た」
少女の声が聞こえた。
夜の祠は果実と花の甘い匂い。
不釣り合いな娘。
もう一人の少女がキーホルダーを握り締めて呆然と乱入してきた少女を見上げる。
「なに? なんなの?」
「大丈夫だよっ! 妖怪は退治するから!」
「ぇ? ちょっと待ちなさいよ! 私が返してもらったモノが海に還っちゃうじゃない! そんなのダメよっ」
退治すると、入ってきた少女は取りすがって止める少女を哀れむように見下ろす。
「騙されてるんだよ」
失礼な話だ。
わたしは騙してなどいない。
かえす時に支払った対価を返して欲しくば、殺せば良い。そうすれば、取り戻した失せ物は海に還り、支払った対価は正しく還る。
幾つかの情報を伏せて正しく教えている。
わたしは、誰にも正しい殺し方を教える。
そこまでしてほしいもの。
そこまでして願うものがあるんならそうすればいい。
----お前は何を望む?----
----他者の望みを踏み躙って----
----何を、望む?----
「妖怪の、殲滅」
----哀れな娘。----
----時は満ちぬがよいだろう----
----破棄の行使を認めよう----
権利の行使の代行者と認めよう。
「認められなくても!」
圧倒的な力。
わたしから失われていく力に応じて正しい返還がおこなわれる。
呆然とした少女の手からキーホルダーが消える。
「そん、な」
パタリと意識を手放す少女。
陰陽師の少女は呼吸を整え、わたしが消えた跡を調べる。
萎れた花の残骸。腐った果実。湿気ったスナック菓子。
「下見にきてみて良かった。日生君も危ない目に合わせずに済んだし、この人も少しかわいそうかもしれないけど、犠牲にならずに済んだものね!」
花開くように笑う。
新月の日まで眠ろう。
芦屋さんに活躍頂いております。




