10/16 目撃☆稲荷山先輩の疑惑?
「芦屋先輩、入ると奥行きないからバレちゃいますよ」
背後からそっと声を掛ける。
びくりと緊張する芦屋先輩。
しとしとと雨が降る。
「日生君。でも、稲荷山君の……」
少し頬を染めてもごつく芦屋先輩。
「この奥が噂の場所なんですよー」
「え? ここなの?」
雨が傘を打つ。
「うん。奥に祭壇みたいな場所があってお供えをするとそこに失くしものが置かれるんだって」
「えぇ?」
不審げな先輩。
「かえってくるのはすぐじゃなくて、ある程度経ってからお供えした場所に置かれてるんだって。誰も見たことはないけど、蛇の這いずった跡が残ってたって噂もあるんだ。かえってきてなくても、二回目のお供えでかえってきたりね」
むっつりと黙り込む芦屋先輩。
「足りないから、かえってこない?」
「たぶん。でも、かえってくるのは海で無くしたモノってだけで望んだモノとは限らないんだって」
かえってきた有名どころは婚約指輪。よくあるところでシュシュや髪飾り。時計とかの小物が多い。
「もし妖怪が返してくれたんだとしたら、それはもう良くないものかもしれない」
「モノだから、関係ないんじゃあ?」
「甘いよ。人を害するのが妖怪だよ? それがどう働くかなんてわからないじゃない」
「うーん。そりゃそうかも?」
「でしょう?」
同意を得れたとふわりと嬉しそうに笑う芦屋先輩。
「じゃあ、その妖怪を倒してもそのかえってきたモノが害をなすものとして残るかも。なんだ。ちょっとこわいかも?」
「心配しないで。そういうのはね、大元が居なくなれば時間で無害化したり、消えちゃったり、本来あるように戻っちゃうケースが多いし、なによりちゃんと退治するから! 大丈夫だよ?」
不安を解消させようとばかりに力を込めて説得してくる芦屋先輩。
キラキラと自信たっぷりに笑う。
「なくなったモノなんだから、なくなる?」
「そうだよ。妖怪がくれたモノが無害とは思えないよ」
「ふぅん。あ。稲荷山先輩出てきた」
「え」
木立の影に傘を広げて駄弁っていた俺と芦屋先輩の目に映ったのは、贈り物っぽい包みを持ったにーちゃんが稲荷山先輩にキスする姿だった。
スキンシップ派なにーちゃんは時々、日本ではそういう挨拶が一般的でないという常識が抜ける。
俺でも、涼維や妹達以外にはやらない。
横で芦屋先輩が赤くなって「稲荷山君が」と繰り返していた。
「満月の次の日にはお供えがなくなってたり、何か置かれてることが多いんだって」
「夜だね!」
◇
「隆維、なんでいたの?」
洞窟内で千秋兄の問いかけを受ける。
緑と赤が主体のラッピングをされた包み。
その前で鎮兄を抑え込む千秋兄。
みられたかったんだろーか?
趣味にとやかく文句はつけないけどさ。
「芦屋先輩に聞かれたくない話題だろ。引き止めてただけ」
「引き止めることが可能なネタを振る舞えたのかぁ」
鎮兄。
「この洞窟の最近の噂」
二人が顔を見合わせる。
「うろなにきた頃、四人でそれっぽくここを整備したけど、実際は何もないし、あるわけがないだろう?」
千秋兄が呆れた感じで言ってくる。
「そう言えば、失せ物見つける海の蛇の話は隆維が振ってきたんだったなー」
鎮兄が服をはたきながら起き上がる。
「おじさんも隆維も蛇、好きだよな」
ぽふりと頭に手を置かれ撫でられる。
「ほんとにねー。鎮も言えないと思うけどねー」
飼い蛇サマンサちゃんと相性の良くない千秋兄が包みをぎゅっと抱き込みつつ、感想を述べる。
「うん。どうなるかなぁ」
うまく、いくかなぁ
引き続きお借りしております。




