10/5 昼過ぎ
ミホ。接触します
「小梅センセー。久しぶりー」
ぱちくりと驚いている小梅センセー。
こじんまりしたきれいなお庭付きの一軒家。
普段の行動範囲からそれほどはなれてないからすぐ見つかった。
「ミホか」
「えへへー。しずちゃんが小梅センセーがお嫁さんでお母さんになるって言ってたから様子見にきちゃったー」
小梅センセーが少し照れくさげにはにかむ。
「やーん。小梅センセーがかわいいーー」
「大人をからかうな」
「あー。お土産ー」
ラッピングした袋を渡す。
「ん? ああ」
微妙な表情をする小梅センセー。
わかってるなぁ。
「はーい。いつもどーり過剰包装でーす。えへへ。がんばっちゃった」
あ。
「そのうさぎさんかわいー」
「妊婦うさぎだな。それよりこれはいったい何重に包んであるんだ?」
「えー忘れちゃったぁ。お母さんになったらもらえるんだよねーー? ミホもそのうさぎさん、早く欲しいなー。健はイラナイって言うんだよねー」
小梅センセーの動きが止まったのに気がついてキーホルダーから小梅センセーへと視線を動かす。
「高校、やめたんだったな」
「うーん。めんどくさくなっちゃった。健もしずちゃんもいないし」
えーっと、お母さんになったトコなんだから心配させちゃダメだよね。
「会おうと思ったからねー、ちゃーんと禁煙だってしてるんだよ! なんと、二週間目なの♪ おかあさんにタバコの影響はゲンキンだよね。えーっとふくりゅうえん? しずちゃんが言ってたんだけど、なんだっけ?」
「それ以前に未成年は吸っちゃいかん!!」
えー。
何で怒るのー?
「興奮しちゃダメだよぉ? 赤ちゃんがびっくりしちゃう」
うーん。
「怒らせちゃうみたいだから帰るねー」
「ミホ」
出て行こうとしたら呼ばれた。
「はーい」
「ありがとうな」
ちょっと照れくさい。もしかしたらお互い様かな?
「へへ。あのねー。小梅センセー。おめでとー」
あーー。なんかはずかしー。
ばたばた走って遠ざかる。
途中でいきなりバランスを崩す。
「きゃう」
周囲を見回して誰もいなくて安心する。
「はずかしー」
折れたヒール。
少しはなれたところに転がる携帯。
携帯を拾い上げ、道の端に座り込む。
壊れていないかを確認する。
しずちゃんに『転んじゃって足が痛いの』とメールを打つ。
あんまり待つことなく着信がある。
『どこ』
そっけないメール。
電信柱の丁番を映す。
「うさぎさん、ミホも欲しかったなぁ」
後は迎えに来てくれるのを待つだけ。
小梅センセー、そろそろ辿り着いたかなぁ。
一枚ずつ丁寧に開けてるんだろうなぁ。
かわいいよねー。
「座り込んで、どうかしたのかい?」
上からかけられた声に驚いて顔を上げる。若いお兄さん。
「ヒール折れちゃってぇ。休んでるだけなのぉ。お迎えきてくれるからだいじょうぶぅ。ありがとー」
握っていた携帯が震える。珍しく電話だ。
あー。開封終わったんだ。
「もしもしー。ミホでーす」
『過剰包装過ぎだーーー』
やーん。そこまで怒らなくてもー。
ぱちくりと目を瞬かせてるお兄さんに頭を下げる。
「たいきょーに悪いですぅー」
あははと笑いがこぼれる。
お土産は靴箱サイズまでがんばって包装を重ねた安産祈願のお守りと携帯のアドレス、おめでとうございますといつでもお手伝いに呼んでねのコメント付きメッセージカード。
「ちゃあんと登録してくださいねー。あ、ミホの電話番号着拒否したら泣いちゃうー」
機械苦手な小梅センセーならありそー。
あれ?
お兄さんがまだいる?
「ミホちゃん、って、あれ? 清水先生?」
知り合い?
軽く挨拶しあってる二人。
学校のセンセーかぁ。
「じゃあセンセーまったねー」
携帯をポケットに落とし込む。
「しずちゃーん、足いたーい。おぶってー」
「あー。もう。はいはい」
「胸の感触に興奮しちゃダメだよー」
「するかっ」
それはそれでどーかだよぉ。
「あー、ミホちゃん」
「んぁ?」
「清水先生、うろな中の先生ね」
あー。弟ーズが今年から中学だもんね。それでかぁ。
「卒業生ですぅー」
「で、小梅先生の旦那さん」
え?
見直す。
もう、上から下まで。
「こんにちは」
「小梅センセーが新任教師をろーらくするこあくまにジョブチェンジっ?!」
びっくりだぁ。
清水夫妻お借りしました。




