10/12 天井
目を開けたら知らない天井。
ぼんやりとそんなラノベのお約束を思い浮かべる。
「ああ、気がついたのか」
あれ?
「誰でしたっけ?」
ぴきりとコップを差し出す態勢だった賀川さんが固まる。
「冗談ですよ。賀川さん」
表情がマジだったので、即取り下げる。
軽い冗談だったのに。
ちょっと「知らない天井ゴッコ」してみようかって思っただけだったんだけどなぁ。
「ほら、とりあえず飲んで」
体を起こして差し出されたコップを受け取る。
冗談は言ってみたけれど、事態がよくわからないで戸惑っていると、軽く笑われる。
「のぼせたみたいだよ。雪姫さんや葉子さんが心配しているから起きたって伝えてくるよ」
そう言っていなくなる賀川さん。
雪姫さん。
ああ、一緒にきて葉子さんが濡れている物を着てるだなんてと怒って、体を温めに行けって命じてきてなんだか逆らえないままお風呂へ入ったのまでは、憶えている。
工務店のおっちゃんのとこかぁ。
コップの水を飲む。
『路上で17時50分頃、焼死体で……』
スッと流れて行く記憶。
耳鳴りがする。
飲み込めない。
気持ち悪い。
「千秋くん」
流し込む。
「ちゃんと水分はとっておかないと」
コップを見て困ったように言う賀川さん。
二口分は減った水。
どうやって飲もう。
飲めるはずだよね。
コップから視線が外せない。
ポンと賀川さんが肩に手を置いてくる。
置かれて賀川さんがいたことを思い出した。
「無理しなくて良いから」
コップの水を飲む。
急に湧き上がった苛立ちを抑える。
「何だかちょっとぼーっとしているみたいです」
大丈夫。ちゃんと飲めた。
「心配、かけちゃいました?」
置かれてる手を払いたい。
イヤだ。
視線を合わせると妙に陰りのある伺うような眼差し。
「賀川さん。いつまで抑えてるんですか?」
「お昼食べてないだろう?」
手が外されてそんな話題が振られる。
おひる?
そう言えば、お昼すぎてたっけ?
今日も鎮は宗一郎君にカレー作ったのかな?
確かそんなことを言ってた気がする。
カレーの時は味わうように食べるのがゆっくりめになるって言ってたけど、本当にカレー好きでそうな気がしないんだけどなー。
「千秋くん」
呼びかけられる。
そうだ。
お昼だ。
「食べてないかも。ちょっと休憩してた時に雪姫さんに会って」
あー。
「もしかしたら、空腹で思考がまわってないのかもー?」
「そうか」
賀川さんが起きるように促す。
「軽く食べるものを準備してくれてるから、行こうか」
やわらかな口調が耳障りで。
耳鳴りが止まない。
小さな雑音が止まない。
「はい。なんだか迷惑を掛けちゃってますね」
「動けないようならこっちに運びますよぅ」
いつの間にか、雪姫さんが部屋を覗き込んでいた。
「大丈夫。動けます」
■◇
用意されていた昼食を何とか食べる。
味がわからない。
食感がおかしい。
気持ち悪い。
「ごちそうさまでした」
心配そうな視線を感じる。
うまくできてない?
どこかおかしい?
いつも通り振る舞えてない?
賀川さんだってそんなに知ってる人なわけじゃない。
工務店のおっちゃんたちとだって接点は少ない。好奇心たっぷりに作業するおっちゃんやお兄さん達につきまとっていた隆維や芹香を安全圏に引き離したり、近づかないように監視したりしてたくらいだ。
そのくらいの関連性。
雪姫さんの手が僕の手を掴む。
「ムリはよくないです」
無理はしてないと応じようとして、
食べたものをすべてもどした。
気持ちが悪い。
雪姫さん賀川さん葉子さんお借りしております。
ああ、汚してしまって申し訳ないです。
問題がありましたらお知らせください。
もうしばらく同日ないでお借りしています。




