10/11 触発された過去
「おちつけばぁ」
軽く隆維が言う。
焼死体で発見された『鍋島サツキ』は千秋兄が惚れているヒトで。
それを殺めたのは『力の強い術師』ぴりぴりと感じるのは警告。
こわくてこわくてたまらない。
「だって」
「大丈夫。すぐ事態ははっきりすると思うから」
隆維がそう言ってぎゅうっと抱きしめてくれる。
「俺たち、部屋に戻るねー」
飛び出していった千秋兄。
無造作に転がるケイタイにはひっきりなしに着信が入っている。
追いかけようとした鎮兄を止めたのは父さん。
それを確認した隆維は部屋へ戻ろうと促す。
「りゅうい」
ぽんぽんと背中を撫でられる。
「もう子供じゃないだろう?」
「隆維?」
「あの術師は人じゃないものを滅していってる。あってるか?」
言われて頷く。
「じゃあ大丈夫。だって俺たちは人間だもの」
「でも」
優しく頬を撫でられる。
「もし失うことがあるとしてもソレはかつて失われたもので不当に取り返したものをあるべき場所に返すだけのことなんだよ?」
抱きしめてくる手は暖かい。
体を流れる脈に鼓動。
じわりと寒気が這い上がる。
「そのこわいと言う感情は本当に涼維が感じてるもの?」
隆維が問うように聞いてくる。
冷たくて暗い場所。響く大きな音。海の匂い。
あの日、失われたものはなんだった?




