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続投うろな高校料理部

女子部員メイン回

「力任せじゃなくてそっと、な。軽くでいいから」


 こん


「落ち着いてそっと割れるのに任せてボールの範囲から外さない」


「あ」


 殻が落ちた。


「だいじょーぶ。あとですくえばイイから。はい。卵が綺麗に割れましたー」

 落ち着かせるように耳元で囁かれる甘い声。慌てないよう上から添えられた手の温もり。


 ついぼぅっと言いなりになってると、明るくボールの中を見るよう促される。




 ぉー



 ボールの中を一欠片の殻と共に泳ぐ卵。


 いつものように潰れた涙卵じゃなく綺麗に黄身が盛り上がったおひさまだ。



「先輩! 私にもできましたっ! 黄身を破壊することなく、卵が割れましたっ」



 興奮のあまり、手の中で殻が砕けた。




 すごい快挙だ!





 嬉しい!





「コツがわかれば何とかなるさー。後は数こなせばねー」


 先輩が満足そうに頷く。






 というか、



「料理できたんですねっ! 鎮先輩!」


 まるで小さな子供にむかうような説明でイラついたのは、棚に上げておこう。


 放課後、菊花先輩に連行されてきた鎮先輩。

 てっきり雑用手伝い要員かと思ったら、私の調理スキルアップ要員だったらしい。

「んー。千秋みたいに凝ったものは作れないけどねー。人並みには?」

 首をかしげて笑われる。

 それってつまりー。

「私は人以下ですかっ! 菊花先輩! 鎮先輩が暴言を吐きます!!」

 私の不満の叫びには一切取り合わず、笑って手を振られる。

「あー。菊花ちゃん、そろそろ行くわー」

「今日も妹さんのお勉強会?」

「おう。チビどものオヤツも用意しねぇとな。四年ぶりぐらいだぜ。おやつ作りなんてさー。まったく千秋の奴どこうろついてんだかー」

「四年前千秋もおんなじこと言ってたよ。あんた達ってそーゆー行動パターンおんなじよねー」

 からからと笑う菊花先輩。

 少し照れたように鎮先輩は笑って。

「ありがとな。菊花ちゃん」



 先輩達には見事に恋愛感情がない。

 一見、お似合いなのになー。

 菊花先輩って千秋先輩とも鎮先輩とも仲がいいしどちらかと付き合ってるのかとも思うけど、笑って『ありえない』って言われるだけ。

 千秋先輩には鍋島先輩の存在があるっていうのもあるとは思うけど。

 千秋先輩は奥手で、鎮先輩は軽すぎるから?

 って聞いたら、麻衣子先輩込みで笑われた。



 ◆


「麻衣子ちゃん、鎮君もお料理できたんだね」

「あー。愛子は高校からうろなにきたもんねー」

「中学に上がるまでおやつ作りは鎮の役割でねー、千秋と遊ぶときによく用意してくれたのよー」

 麻衣子ちゃんが頷き、菊花ちゃんが補足してくれる。

 そう私は高校からうろなの町に住み始めた。

 もともと長期休みには海や、山と自然あふれるうろなの祖父母のところへ預けられていたものだけど。

 祖父母はうろなの商店街で和菓子屋を営んでいる。

 祖父の手が作り出す和菓子は魔法のようでいつまででも見ていられるようだった。

 商店街では何人か歳の近い子供もいて、長期休みの間だけしかいない私でもよく遊びに入れてくれた。

 菊花ちゃんと麻衣子ちゃんがその筆頭だ。

 子供達だけで無茶をしようとするとどこからともなく直澄さんのお兄さんが颯爽と現れて助けてくれたり、叱ってくれたりしたものだ。

 その時、千秋君はいなかったと思う。

「千秋はよくいっつー連れて商店街まで遊びに来てたからねー」

「紬ちゃんと麻衣子と逸見君千秋と菊花、時々、直澄にぃや重ちゃんがまじってねー、楽しかったなー」

「紬ちゃんといっつーが二人で一歩下がって見守ってて麻衣と重ちゃんが提案、こそこそ悪巧むのが千秋と直澄にぃで。私はついて回るだけだったなー」

 空々しく言う菊花ちゃん。

 たぶん、実行犯の一人だよね。

 早川君を見ると目を見開いて菊花ちゃんを注視してるし。

「鎮くんは?」

 菊花ちゃんと麻衣子ちゃんが顔を見合わせる。

「鎮に会ったのは中学に上がってからかな。『シズ』としか聞いてなかったし。双子で驚いたくらい」

「そう思うと見かけてたのかもとは思うけどね。小学校が北と南でべつだったし」

 少し、今と二人とも印象違わない?

 首をかしげていると思い当たったのか苦笑される。

「なんかねー、中学入ってから鎮の方が反抗期?ぽくなって千秋がフォローに回らなきゃダメになっちゃって今の印象に至るって感じ」

「中学入ってからは、千秋大人しくなったもんねー。表面上は」

 顔を見合わせた菊花ちゃんと麻衣子ちゃんが笑いあう。

「でも!」

「ねー!驚きだったよね!」

「千秋の鍋島さんへの態度!」

「普段、こっそり遊んでさよならで終らせる千秋と思えない反応!」

 きゃっきゃとはしゃぐ二人。

 こっそり遊んで?


「本気だったのかなぁ」

「うーん。どうなんだろうねぇ」

 幼馴染なだけに、心配は本当なんだろうと思う。

 他に本命がいるだけでなく、千秋くんのそういう行動が対象外になる要因なんだなと感じる。幼馴染ゆえに対象外。そんな印象。

 鎮くんの事はあんまりよく知らない感がある。

 でも、千秋くんの片割れ印象が強いんだろうなと思う。



名前だけですが、

鍋島サツキ嬢

高原直澄氏お借りしております。

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