うろな高校料理部
六月七日金曜日雨
日生千秋16歳うろな高校二年。料理部所属。
今日作ったのはホットサンド。
チキンとピーマンパプリカ。炒めたそれらをチーズと一緒にパンに挟んで焼く。
とろけたチーズと野菜のバランスが重要。
目前には鍋島サツキ。
「ピーマン大丈夫?」
できるだけ独特の青臭さは消してるけれどピーマンを苦手視する人は多い。
「だいじょうぶにゃ」
視線はホットサンドに釘付け。作り手冥利だと思う。
「どうぞ。召し上がれ」
嬉々として食べ始める鍋島さんにお冷を継ぎ足しながら僕は提案する。
「コンテスト出てくれると嬉しいな。仮申し込みだけでドタキャンOK。もちろん、料理の試食はその件とは別件だから気にしないで」
「考えとくにゃ。次はもう少しボリュームのあるものがいいにゃ」
食べ終えて、満足げな鍋島さん。次のリクエストがあるんなら評価はいいほうだろう。
「えー。お菓子にしようかと思ってたんだけど?」
「両方作るといいにゃ」
「鍋島さん。試食は一種類でよろしく」
「わかったにゃ。片方は持ち帰りようだにゃ」
仕方ないなと思う。
「まだ、サンド残ってるにゃ。まだ食べれるにゃよ?」
ちらちらとサンドを見る鍋島さん。
「これは差し入れ先決まってるからダメ」
そう言いつつ、ランチボックスにサンドをつめる。
しばらく見つめられていたが、さっと切り替えた鍋島さんは「次を楽しみにしてるにゃ」と言って去っていった。
ランチボックスを作った後は使った調理器具を洗って、後片付け。
料理部のほかの部員と作ったフィナンシェを軽くラッピングしてボックスに添える。
ガスの元栓を閉じ、戸締り確認。
手提げにボックスとフィナンシェを入れて調理室を閉じる。
「ガス元栓、窓鍵、照明OK。ロック完了」
指差し確認を終え、引き抜いた鍵を持って職員室に向かう。
「田中先生。戸締り終わりましたー」
田中先生はとっつきやすい方ではないがまじめなイイ先生だ。
「ご苦労様」
鍵を受け取りながら小さく笑ってくれる。
「それと、今日の作品です。試食お願いします」
夜遅くまでがんばってて大変な先生には差し入れを。
「あら。ありがとう」
「先生。」
「参加する気はありませんよ」
言い出す前に切られた。
「確かにイベントに力を注ぐのはいいですが、あまり強引に勧誘していると注意しないといけませんからね」
「すみません」
「ボランティアであるライフセーバーの方々のテンションを上げ、地元を盛り上げるイベント。でしたね」
ハイ。去年そう言いましたね。確か。
「最近は基本の美人コンテスト本選の他、ペットと一緒とかミセスの部とか、お遊び要素も増えてるんです」
「そうなんですか」
僕は頷く。
「先生。実は僕ら兄弟が必死に参加者を集めているのには理由があるんです」
言ってしまおう。うん。それがいい。
「理由?」
先生が心配そうに見てくる。
「はい。基本、運営してるのは主夫で時間のあるおじさんなんですが」
先生は頷く。
僕らのことも含めて日生の家の学校関係のイベントに参加するのはすべておじさんだ。
かあさんもおばさんもほぼ仕事に集中している。
「妙に要領のいい人で時間が余ると僕らを巻き込んだ体力必須系のプチイベントを乱立させるんです」
尊敬してるし、いい人なのは間違いないが、常識人かと言われると首を傾げざるを得ない。
「はぁ」
「前回はうろな町外周をどのくらいの時間で走りきれるか。でした」
ああ。本当に死ぬかと思ったイベント。
「今回、登山を含めたトライアスロンっぽいものを企画しかけてるらしくて、美女コン事前参加者が多ければその企画を阻止できるんじゃないかと。甘い考えでしょうか?」
ひとつ息を吐く。
「つまり、盛り上げることも大事だと思ってますが、現状、イベント回避のためにがんばってる状況なんです。褒められた状況じゃないですよね」
まぁ、実際情けないよね。
ぁー
「すみません。話を聞いてくださってありがとうございました。失礼します」
職員室を出る際、妙に考え込んでるっぽい田中先生に一言おくっておく。
「食べてくださいねー。感想待ってますー」
まじめな先生に余計な心配をかけてしまったことになってそうなのがちょっと後悔。
すこし、勧誘控えた方がいいかなぁ。
田中先生
鍋島サツキちゃん
お借りしましたー




