8/20 ビーチ喫煙コーナーの月見
喫煙スペースで一服。
唐突にかかってきた電話。
ノートを開いてデータを確認する。
「引継ぎ抜けはないはずなんだがなぁ」
顧客管理も裏情報管理もファイル取り扱いマニュアルの説明は終わらせてあるはずだ。
この有給休暇にはいる前におおまかな挨拶回りも終わらせたし。
9月度末までは会社に所属していることはいるから相談ぐらい受け付けるがねぇ。
なにせ久喜様はいないからやる気が出ないね。
久喜様が盛り上げた会社だ。
落ち目になるのは忍びない。
いや、まぁね。
久喜様がおられないなら、ぱっと潰しちゃうかとも考えたが、それは久喜様が望まれないだろうしなぁ。
あー。
いっそ死での国までお供したかったなー。
そのままホテルに戻るつもりが海の家で水分補給と一服。
「総督。暗いトコでなにパソコンいじってんの」
責める口調の子ガラス。
「仕事、だな」
「緊急?」
「指示は出した」
軽く笑って天を示す子ガラス。
「満月には一日足りないけどさー。月見しよーよ。仕事はひと段落着いたんだろ? 後任に任せときゃいーじゃん。それに明日はサイコー満月ライブだよ? 月に海に音楽。お盆は終わってるけど、心が残ってるんならきっと一緒に過ごせるんじゃね?」
「誰の受け売りかな?」
軽く舌を出して笑う子ガラス。
「山犬寺って言うお寺のご住職の受け売り。死んだ人を懐かしむのはいいけど、悲しみに引きずられると心安らかな場所に旅立てないから、共にいて幸せだったことを懐かしみましょうって」
本当に受け売りだったか。
「だからさー。楽しいときに死んじゃった大好きな人を思い出すんだ。おんなじように楽しいことを味わって欲しいから。もう、大好きだったって以外は表情も顔も覚えてないけどねー」
「えーっとさ、総督もさ、死んじゃった人。心配させて引き留めちゃダメだと思うな」
ふむ。
「つまり心配させていいのは生きている者だけということだな」
「うん。そぅって、それもまずいじゃん!! 総督だっていい年の大人だろ?!」
満月前夜子ガラスが吼える。
いい年になると素直に子供の意見を聞くことはできないのだよ。
あといい時間なのだから騒ぐな。
携帯灰皿に灰を落とす。
「青空のもと輝く太陽に大地。光を映す海と空。渚に汐の音が響く。
夏を彩り、千の秋を越え鎮めるは太陽に住まう大烏。
暁を知り、さかえ、静まり我が救いの運命か。」
か。
「なにそれ?」
「ん~? この海の家の構成員の名前は~?」
「ひかりさん、むつみねぇ、あみねぇ、そらねぇに、あれ? なぎさちゃんにうしおちゃん……」
ぽんと手を打つ。
「すげぇ。名前だけで海全体のイメージが広がるって」
「ミアは「わたしの」の意でノアがノアの箱舟を意図しているなら「救い」でなくとも「導き」か。ミラは「運命」の意味と「未来」の両方とも取れるな」
この夏に追加されたミラに沙夜香。
さて名の意味と響きでどうまとめられるかねぇ
うろなビーチの二大有名一家。
「青空家」に「日生家」
青空に日が生まれるってどんだけ夏だってはじめて知ったときは笑ったな。
まぁ、新年初日の出でもいいんだろうが。
どっちにしろめでたい感じだよなぁ。
月が
海にさえるなぁ




