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8/4 『セイ』の空気


朝の四時半にも関わらず、準備された朝食をいただく。

炊き立てご飯。大根の味噌汁。ベーコン、ジャガイモにんじんを混ぜてあるオムレツ。

結構ボリュームがある。

田村さんは料理上手だ。

「ごちそうさまでした」

「お粗末さまでした」

ベージュのワンピースにデニムエプロン、髪はまだ首の辺りでひとつに縛っているだけ。

食べ終わった後の食器はかたづけていく。

「後片付けはやりますよ?」

「いつもと行動を変えるのは苦手なの。それより仲直りの仕方でも考えて頂戴」

そう言って田村さんは笑う。

自宅にいるより上げ膳、据え膳だ。

初日は比較的仲良く構ってくれるライフセーバーのおねぇさんのところに泊まった。

いつもなら戸津アニマルクリニックに泊めてもらうんだが、今はホームステイの女の子がいるので遠慮。

どうしようかと思っていると田村さんに遭遇した。

「家出少年捕獲ー」

少し酒のにおいのする田村さんの連れに首を絞められ捕獲された。

申し訳なさそうに笑っている田村さん。

笑ってないで止めてください。


そのまま田村さんちに連行され、宿泊の流れになった。

酔っ払いは風峰かざみねうるうさん。どうやら田村さんの恋人らしい。

「田村さん、風峰さんは?」

五時にもなってない早朝だがまだ会っていない。

「ああ。仕事に行ってるわ」

フルーツジュースが目の前に置かれる。

「見かけたことないかしら? 潤は犬の散歩をしてる日生くんを見知ってたみたいだけど?」

少し考える。



「新聞配達のにーさん」



正解らしく、田村さんが笑う。


「仲直りできなかったら家に泊まりに来たらいいからね」

いや、恋人の邪魔するなんて。

「でないと、きっと潤が迎えに。……ね」


ナニそれ気まずい。

「ね」じゃねぇよ。田村さん。


冗談で「おかーさん行ってきます」といったらまんざらでもない表情をされた。ちょっと罪悪感が。





ビーチに向かうにはまだ早い時間。

ぶらりと散策する。




かすかに聞こえた気合をはく音に気をとられ、近寄った。






ピン




っと張り詰めた空気。








キリキリと引き締められる空気。










精神を集中させる独特の空気。














飲まれて身動きが取れない。










嫌いじゃない空気。












『ハッ』













吐き出される声と共に勢い良く空気を割る音が続く。





同時にはたりと気がつく。


よそ様の道場の外で立ち止まってボーっとしてるって俺、不審者じゃね?

スマホの時計表示を見ると思わぬ時間が過ぎていてあわてる。


すこし、ほんの少し、名残惜しい気もしたがラジオ体操に遅れるのはまずい。




蝉の声が響き始める中、「いつもどおり」を維持するために俺は走り出した。





名前は出ておりませんが藤堂さんの朝稽古をつかわせていただきました。

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