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Never look at the sun  作者: てんすけ
1/7

Cambiamento

――――――――引き金。







――――――――それはさまざまな暗示を含んでいる。







――――――――あるときは“キッカケ”であり。







――――――――あるときは“要因”であり。







――――――――そしてあるときは“始まり”を暗示する。







――――――――でも。







――――――――俺達にとって。







――――――――俺にとって。







――――――――もっと単純で。







――――――――直接的なもので。







―――――――それ以外。








―――――――俺にとって何の意味も持たない。







―――――――些細な物だ。







―――――――ためらいなど何も感じない。














ドンッ・・・―――――――。














一発の銃声が屋敷の中で木霊する。




その銃声は屋敷の中で叫び声を上げ、駆け巡る。




その音に驚いて、いっせいに飛び立つ鳥の羽音が辺りに広がり。











そして、消えてなくなった。


後には何も残らない。


ただ、より一層。














静寂が濃くなった。













その部屋には。


一人の少年が。







ただその場に立ち尽くしている。



それだけだ。









「・・・・ターゲット抹殺確認。」

茶色の髪にグレーの瞳の青年は、静かにトランシーバーに告げた。




「よくやった。・・・エリオットと共に速やかに撤収しろ。いまそっちに隠蔽班を向かわせる。」

芯のある低い声がそう答える。




「・・・はい。」

青年はそう答えると、トランシーバーを胸ポケットにしまい、目を閉じて深呼吸した。




青年がいる部屋の中は荒れ放題でいたるとこに家具やガラスの破片が散乱している。




「・・・・・・・・。」

青年は散乱した部屋を見渡し、部屋の奥で血だまりにうつ伏せになったまま動かない男の姿をただ黙って見つめている。




窓から月の光がわずかながら差しこみ、薄暗い部屋を一層不気味に彩る。




「・・・・・・・静かだな。」

青年は半分雲に隠れている月を見上げながら静かに呟く。







ギィ・・・・。

すると青年の後ろの古びた木製の扉がゆっくりと開いた。




「・・・・誰だ。」

青年はゆっくりと振り返り、扉の周辺に広がる暗闇に意識を集中させた。




コツ・・・・コツ・・・・コツ。




フローリングの床を革靴の底で叩く音が近づいてくる。





次第に足音の主の姿を月の光が淡く照らし出して行く。






やがてその足音は青年の近くで止まった。






現れたのはまだ13歳くらいの幼い少年の姿だった。




その少年は銀色の髪に黒い瞳で、着ているスーツは少し着崩れていて、何かを終えた後なのか表情からはすこし疲労感が窺える。






「・・・エリオットか。」

青年は少し安心したように言う。





青年の前に現れたその少年はゆっくりと口を開いた。


「・・・・アルバート・・・もう終わったの?」




「ああ・・・・見てのとおりだ。」




「・・・こっちも片付いたから、終わったんならさっさと帰ろうよ。僕もう、眠たいんだからさ。」

少し小柄な少年は、目を眠そうに擦りながら言う。




「ああ、わかってる。でも・・・ちょっと待ってくれないか。」

そう言ってアルバートはエリオットに背を向け、再び横になったまま動かない男に視線を向けた。




「ん?・・どういうこと?・・・いいから早く戻ろうよ。教官に怒られちゃうよ?」

エリオットはそう言いながらアルバートの近くに歩み寄った




「・・・・・・そうだな・・・・・。」

アルバートは露骨に生返事する。




「もう・・・ちゃんと聞いてよ。・・・て、まーたこんなもの眺めてるの?」




「・・ああ。」




「・・・・ねぇ、アルバート・・・・。・・・もう動かないんだから見たって何にも起こらないんじゃない?」

エリオットは死体に視線を落とし、呆れた様子で言った。




「・・・・・・わかってる・・・・。」

アルバートは漫然と死体を見つめ続けながら言う。




アルバートはエリオットの呼びかけをよそに、胸ポケットからタバコを一本取り出し、口にくわえた。




シュボッ。




アルバートはまだ生々しく残る硝煙の臭いをかき消すかのように、タバコの煙をあたりに散らす。




「そういえばさ、前から思ってたんだけど・・・・アルバートって成人だったっけ?」

エリオットは疑いのまなざしでアルバートを見つめる。




「・・・いつ生まれたかも知らない俺が、自分の年を知ってるわけないだろ。」




「え〜・・・だからってタバコなんて吸っていいの?」




「・・・さあな・・・・・教官がくれるんだ・・・、吸ってもいいってことなんだろ・・。」




「ふーん・・・ねぇ、じゃあ僕にも一本くれない?」




「バカいうな。俺はともかくお前はどう見ても未成年だろ。・・・それに、そんなにもう本数が無いんだ、好きでもないやつにあげるなんてもったいないことできるか。」




「ふんだ、ケチッ!」

ふてくされた様子でエリオットは言った。




「・・・・・・。」




「・・・・・・・。」




「・・・・・・・。」




しばらく二人は黙っていた。

















「悪いな・・・いつも待たせて。」

アルバートは何気なくそう口にした。




「そう思うんだったら早く帰ろうよ・・・。・・・・またそうやって考え事してんの?」

呆れた様子でエリオットは聞く。




「ああ・・。」




「・・・前から思ってたんだけど、いつも何を考えてるのさ?」




「ああ・・・・いや・・・・・こうして自分が殺した人間を眺めていれば俺でもなにか感じるものがあるかってな・・・。」




「あそ・・・。」

エリオットは溜息をつく。



「・・・・。」



「・・・それで?収穫はあったの?」



「・・・いや。・・・何も。・・・・引き金を引いたらこうなった。ただそれだけだ。・・・結局、俺には目の前の結果しか見えないな・・・。」



「・・・そりゃそうだよ。僕なんかそんな風に思ったことだってないよ。」

エリオットは気だるそうに言う。



「・・・・・・。」

アルバートは窓から見える月を見上げ、少し月に焦点ををあわせ、すぐに死体に視線を向けた。



「アルバート。・・・・いい加減、早くしないと教官に怒られるよ?」

エリオットは両腕を組みながら言う。



「そうか・・・。」



「〜〜っ!!もー早く帰ろうよ!・・僕、疲れたー!!」

エリオットはジダンダ踏んで駄々をこねた。



「・・・・・・わかったよ・・・それもそうだな。もう・・・・こうしていても何もなさそうだ・・・・帰るか。」

アルバートをそういうと、持っていた携帯用の吸殻入れにタバコの吸殻を押し込み、死体に背を向け歩き始めた。



「ポイ捨てはしないんだね。」

エリオットはからかうように言う。




「・・・・これも教官のからの教えだ。」




「ふ〜ん・・・まぁいいや・・・やっと帰る気になったことだし。」

エリオットは両手を広げわざとオーバーなリアクションを取った。




そうして二人は部屋の外へと出ると扉を静かに閉め、建物の出口へと歩き出した。









―――――――――――――そう。







―――――――――――――これが俺たちの日常。








―――――――――――――そして、これが全てあり。







―――――――――――――それ以上でもなく。







―――――――――――――それ以下でもない。







―――――――――――――極めて機械的で。







―――――――――――――単純で。







―――――――――――――感情の薄い。




―――――――――――――そんな日常だ。




「・・・・・・・・?」

ふとアルバートは不審そうな表情をし、足を止めた。




「・・・・どうしたの?」

エリオットは不思議そうにアルバートを見つめる。




「・・・いや、・・・いま物音がしなかったか?」

様子をうかがうようにアルバートは周囲を見渡す。




「そう?僕は聞こえなかったけど・・・。」




「・・・・いま、足音が聞こえたような気がしたんだが。」




「気のせいじゃない?・・・最近アルバート、ボーっとしてるし」




「悪かったな、ボーっとしてて。」




「だって本当のことだし〜。大丈夫だよ、気のせい気のせい。」




「・・・・・・そうか、・・・なら俺の気のせいかもな。」




そう言って、アルバートが再び歩き出そうとしたときだった。









―――――――ガシャンッ!!





「!!」

アルバートは突然ガラスのようなものが割れる音がして、素早く後ろと振り返った。




「い、今の音はっ!?」

エリオットも不意をつかれて一瞬戸惑う。




「向こうかっ!」

アルバートは叫ぶと、地面を蹴った。



――――――――――ヒュッ!!




アルバートは先ほどまでいた部屋の扉に向かって猛然と走り、扉を蹴破った。




――――――――――ドカンッ!!








「・・・・。」

アルバートは辺りを見渡すが人影らしきものは見当たらない。




アルバートはすぐさま窓まで走り寄り、外の様子をうかがった。




窓の外には当たり一面雑木林が広がっていて、建物らしきものはひとつも無い。




―――――ガサガサッ・・。



目の前に広がっている森の奥で、木々が確かに揺れている。




その木々の揺れは確実に屋敷から離れようとしていた。




「・・!!まだ生き残りがいたのかっ!」

アルバートはそう言うと勢いよく窓の外に飛び出した。



――――――――――ヒュッ!






「ち、ちょ!ここ四階・・・って降りちゃった。」

エリオットはそう言いながら、窓に駆け寄り身を乗り出した。









空を切りながらアルバートの体は猛烈な勢いで地面が迫る。




ズダンッ!!




激しい着地音とともに、アルバートは地面に着地した。




「・・・そっちかっ!」

アルバートは相手の進行方向を確認すると、怯みもせずに森の奥へと猛スピードで走っていく。




「・・・・無用な心配だったかな。」

上からその様子を見ていたエリオットはそう言って軽い溜息をつくと、ポケットからトランシーバーを取り出した。




「・・・もしもし?アリエーテさん?なんかまだ生き残りがいたみたい。

・・・・うん・・・うん・・・・あ、大丈夫、いまアルバートが追って森の中に入ってったからさ。

だからさ、処理班にあとで森に来るように言っておいてよ。

・・・・うん・・・・うん、わかった。それじゃあ、またあとで。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

そう言ってエリオットはトランシーバーを切ると、視線を前に戻す。




「・・・。」

少年は静まり返った雑木林の暗闇の奥をじっと見つめている。




アルバートが去った後の雑木林はもう物音ひとつせず、不気味なほど静まり返っている。




「・・・・まったく・・・いつもおいしい役持ってっちゃうんだから。」

エリオットはそう言って溜息をついた。

























―――――――ザッザッザッザッザッザッザッザッ・・・。





アルバートは猛然と暗い森の中を灯りも持たずに駆けていた。




雑木林の中は落ち葉が地面を覆い、いたるところに細かい起伏があるので油断すればあっという間に足を取られかねない。




アルバートの前を走る一人の男は、追っ手から何とか逃れようと必死の形相で走っている。




「・・・・逃がすか。」

アルバートは懐から拳銃を取り出すと、走りながら安全装置を解除した。




「・・ハッ・・ハッ・・ハッ・・ハッ・・ハッ・・ハッ・・・。」

男は後ろを振り向く余裕もなく息も絶え絶えで、次第にスピードが落ちてきている。




おまけに、辺りは何処もかしこも同じ風景をしていて、男は一体自分が何処を走っているのかすらわからないような様子だった。




だが、そんなことにお構いなしにアルバートは走るスピードを維持したまま、銃の引き金を引くとそれを男の方に向けた。








――――――――ドンッ!!





「アがぁァッ!!」




けたたましい銃声が森に響き渡り、アルバートの前を歩いていた男は叫び声を上げて脚を抱え込みながら倒れた。




アルバートの放った銃弾が男の右ひざをピンポイントで貫通したのだ。




「ぅぁあぅぅ・・・・!!」

男は額から汗を滲ませながら、必死に痛みをこらえている。




男の膝からは骨の一部が皮膚から突き出し、夥しい量の血が流れ出ている。




「・・・・・・・。」

アルバートは顔色ひとつ変えずに男のほうへ近づいた。




「ぐっ・・・・!」

男は激痛を必死に堪えなが、近づいてくるアルバートの方を見つめている。




「・・・・・・。」

男の姿を少しの間見下ろすと、胸ポケットから写真を何枚か取り出した。




「・・・・・・・違う・・・・これも・・・・これも・・・。」

アルバートはなにやら男の顔と写真を見比べているようだった。




「・・・・・ぅ・・・・!」

男はアルバートの行動に戸惑ってはいるが、痛みをこらえるので精一杯のようであった。




しばらく、アルバートは持っている写真と男の顔を交互に見つめ、それを繰り返した。




「これも違うな・・・・ん?」

その時写真を見比べるアルバートの手が止まった。




「なんだこれ・・・・・あ・・・・なんだ、一枚重なってたのか。」




アルバートの取り出した写真のうちの一枚にもう一枚の別の写真がピッタリと張り付いていたのだ。




「・・・あったな・・・この男だな・・・・・・・よし、確認終了。」

そう言って、アルバートは写真を戻すと、拳銃からマガジンを取り出しそれをポケットにしまった。




「・・・・・・。」

男はアルバートがマガジンを仕舞うのを見て、一瞬ほっとした表情を浮かべた。











ガチャ。






「?・・・・・・・!!」

安堵の表情を浮かべていた男の顔が一瞬で凍りつく。



アルバートは銃を仕舞おうとしたのではなく、新しいマガジンを拳銃に装填しようとしていたのだ。




「・・・何を驚いているんだ?・・・まさか、俺が見逃すとでも?」

アルバートは無表情のままそう言って、引き金を引くと男に銃口を向けた。




「ぁぁッ!・・・ひぃぃっ!!」

男は思わず声を漏らした。




「・・・・・・。」












ドンッ!・・・・・・・・・・・・ドンッドンッ!!










人気の無い薄暗い森の中で三発の銃声が響き渡り、辺りの木々からいっせいに鳥が飛びだした。




しかし、一瞬の銃声はあっという間に周囲に溶け込み消えてなくなった。




そして、そこに残ったのは頭と胸から血を流したままピクリとも動かない男と、それをただ呆然と眺める青年の姿があるだけだ。




「・・・・・・・。」

アルバートの額にはベットリと男の返り血が纏わりついていた。




「・・・・・・今度こそ任務完了だな。」

拳銃を仕舞いながらポツリと呟いた。




そう口にする青年の表情からは一分の乱れも窺えない。






「・・・・・それにしても、派手に血がついちまったな・・・。」

アルバートはそう言って、額についた返り血を手でぬぐった。




「・・・・・・・。」




木々の間から差し込む月の光がうっすらと青年の額に付着した鮮血を照らし出す。




「・・・・・・。」

アルバートが手についた血をじっと見つめた。
















その時だった。











――――――――――――――――――・・・に。



「!?」

突然、人の声のようなものが聞こえた。




アルバートは咄嗟に周囲を見回すが人の気配らしき物はしない。




それと同時に激しい耳鳴りと貧血のような感覚がアルバートを襲い、思わずアルバートはその場に膝を着いた。




――――――――――――――――――・・そ。・・・・れには・・・。




「ッ!!・・・・な、なんだ!?・・・っ・・・!?」

強烈な頭痛がアルバートの頭に駆け巡り、アルバートは思わず額を押さえた。







―――――――――――――――――――。








―――――――――――――・・・・・。







―――――――・・・・・・・・・・・・。














「・・・・・・・っ。」

アルバートは額を押さえ、必死に頭痛が治まるのを待っている。





しばらくして、耳鳴りと頭痛がゆっくりと治まってきた。




「くっ・・・・・・・・・・。」

アルバートは額に手を当てたままゆっくりと立ち上がった。




「・・・・今のは・・・一体・・・・。」

アルバートは呆然と立ち尽くし、返り血のついた手のひらを見つめた。





そして、しばらくすると原因不明の耳鳴りと頭痛は完全に消えてしまった。





「・・・あの声は・・・なんだったんだ・・・?」

アルバートはそう呟きながら、先ほどまで眺めていた手のひらについた鮮血を見つめた。








しばらく、アルバートはその場にただ呆然と立ち尽くしていた。




辺りの暗闇がアルバートを包んだ。













「・・・・おーい!!・・・アルバート!!」



不意に後ろのほうから声が聞こえた。



「・・・!」

アルバートは声がする方を素早く振り返り、暗闇に目を凝らした。




「おい、アルバートだろ!?・・・俺だよ!・・・大丈夫か!?」

中年の男性らしき声がアルバートに近づいてきた。




アルバートはこの声に聞き覚えがあった。




「・・・・ゴルドーニさんですか?」

アルバートは確認するようにその男に問いかける。




「そうだ、俺だよ。」

その声の主はそう答えると、暗闇の中から声の主と思われる男と数人の男がアルバートの前に姿を現した。




現れた声の主は清掃員のような格好をして、肥満気味でいかにも中年らしい顔をしている。




「・・・・処理班ってのも大変ですね・・・こんな森の中まで。」




「なぁーに、お互い様だろ?」




「・・・よくここだとわかりましたね。・・・見つけてもらえるまで一時間はかかると思いましたよ。」




「そりゃわかるさ。お前が持ってるそのトランシーバーには発信装置がついてるからな。何処にいようと、それさえ持ってればコンピューターであっという間に居場所が特定できるのさ。」




「・・・なるほど・・知りませんでしたよ。ところでこれは・・・ルキアーノさんの指示ですか?」




「ああ。・・・エリオットの坊主がアリエーテさんに連絡してな。それを彼女がルキアーノさん伝えたらしい。」




「・・・そうですか。」




「ああ。・・・・ん?・・・・アルバート・・・お前なんか顔色悪いぞ?・・・・どこか撃たれたのか?」

ゴルドーニは心配そうにアルバートを見つめる。




「あ・・・いえ。見ての通りかすり傷ひとつありませんよ。」

アルバートは両手を広げて見せた。




「じゃあ、その額についている血はお前さんのじゃないのか?」




「ああ・・・これですか?返り血ですよ。・・・下手に動くから狙いが外れたんですよ。」




「そうか。ならいいんだ。・・・とりあえずこれで顔拭けよ。」

そう言って、ゴルドーニはポケットからハンカチを取り出した。




「いいんですか?・・・このハンカチ二度と使えなくなりますよ?」




「いいってことよ。第一、そんな格好じゃ車に乗れねぇだろ?」




「・・・・わかりました。・・・では、お言葉に甘えさせてもらいます。」

アルバートはそう言って、ハンカチで額についた血を綺麗にふき取った。




「よし。・・・それじゃあ、もうルキアーノさんが車で待っているそうだから、さっさと帰りな。ここはオレに任せておけよ。」




「わかりました。ではお先に失礼します。」

アルバートは深く頭を下げると、その場をあとにした。



数人の男達が死体処理のためやって到着し、その男達とアルバートは無言ですれ違った。




















アルバートは元来た道を進み、しばらくして先ほどの屋敷にたどり着いた。




庭にはエリオットの姿があり、もう待ちくたびれた様子でアルバートの顔を恨めしいように見つめていた。




「も〜!遅いよ!僕、もう眠くて眠くて死にそうだったんだよ!?」




「それは悪かったな。」




「全然、悪いって顔してないし〜。」



「・・・そうか?・・・これでも謝罪の気持ちを込めたつもりなんだけどな。」



「・・アルバートは感情を表に出さな過ぎるんだよ。いっつも何考えてるのかわかんないような顔してるもん。」




「・・・ほっとけ。」




「・・・・今回はアルバートにしちゃ、ちょっと遅かったよね?・・・なんか、アクシデントでもあったの?」

エリオットは不思議そうにアルバートの顔を覗きこむ。




「・・・ああ・・・まぁ・・・ちょっとな。」

アルバートはそれを避けるかのように視線を逸らした。




「・・・ん?・・・やっぱりなんかあったの?」




「いや・・・別に。」




「ふ〜ん・・・・まぁ、いいや。そんなことより早く帰ろう〜。」




「・・・そうだな。」




二人が庭から建物の正面口の外に出ると、既に到着していた隠蔽班の連中がまさに建物内に入ろうとしているところだった。




「・・・・ああいう仕事って面倒くさそうだよね。」

エリオットは連中を見つめながら言う。




「ああ・・・そうだな。」

アルバートは連中には見向きもせずに答えた。









だだっ広い田舎の道路を、二人は黙々歩く。




周りには人が住んでいるような建物はほとんどなく、水はけのよい土壌を利用したブドウ畑だけがぽつぽつとあるくらいだった。




静まりかえる辺りをぼんやりと月の光が照らした。













しばらくして、二人は一台の車の前にたどり着いた。




「・・やっと着いた〜帰れるぅ〜。」

エリオットは深い溜息をついて言った。




「・・・・・・。」

アルバートは黙ったままその車に近づいた。








・・・コン・・コン。

青年が車に近づき窓をノックした。




ガチャ・・・。




車のドアがゆっくりと開き、中から若い男女が姿を現した。




男性のほうは、身長は180cm前半くらいで、少し筋肉質な感じだが、どこか紳士的な雰囲気を漂わせている。




女性のほうは、肩にかかる程度の黒髪のロングヘアーで、一見どこにでもいそうなOLのような服装をしていた。




「任務お疲れ、アルバート。・・・怪我はなかったか?」

男性は青年に気さくに話しかける。




「ルキアーノさん。・・・はい、特に負傷もなく、任務完了しました。」

アルバートは丁寧でゆっくりとした口調で答えた。




「そうかそうか。・・それはなによりだ。」

男はそう言って笑みを浮かべた。





「エリオット、任務お疲れ様。」

今度は長髪で黒髪の若い女性がエリオットに声をかける。




「うん。アリエーテさんもお疲れ様〜。てかね、今回はアルバートがほとんど一人でやっちゃったから、あんまり出番がなかったんだ。」




「そう。まぁ、無事で何よりだわ。」

アリエーテはエリオットに歩み寄り、頭を撫でた。




「っへっへっへ・・。」

エリオットは満面の笑みで返した。




「・・・・・。」

アルバートは黙ったまま二人のやり取りを見つめている。




「ん?どうした、アルバート?」




「いや・・・親子でもないのによくやるなって。」




「っはは、まぁ確かにそうだな。」

ルキアーノはニヤニヤしながらアルバートを見ている。




「・・・?・・・なんですか?」




「いや、お前もそういうのに憧れてるのかな〜ってな。・・・あ、そうだアルバート、俺も撫でてやろうか?」

からかう様にルキアーノは言った。




「・・・冗談はよしてください、気持ち悪い。」




「き、気持ち悪いって・・・・ちょっと素でショック・・・。」




「・・・・・・。」

アルバートは呆れた様子でルキアーノを見つめている。




「ほら、ルキアーノ、アルバート。さっさと車に乗って。・・・置いてくわよ。」

いつの間にかアリエーテとエリオットは車に乗り込んでいた。




「ちょっちょちょ待ってって!・・・てかそれ俺の車なんだけど・・。」

男性は慌てて車に駆け寄った。




「おーい、アルバート、お前もさっさと・・・・ん?」




「・・・・・・・。」

ルキアーノの呼びかけが聞こえないのかアルバートはタバコを加えながら夜空を眺めている。




「おま・・・いつの間にタバコを・・・。って・・・お〜い・・聞いてんのかアルバート?」




アルバートは黙って夜空を見上げている。




「・・・アリエーテ。・・・ちょっと待っててくれ。」




「はいはい・・・りょーかい。」




「悪いな。」

そういうとルキアーノはアルバートの近くに歩み寄った。




夜空には夥しい数の星がちりばめられ輝いている。




二人は黙ってその星空を見つめていた。









「・・・・ルキアーノさん。」

アルバートはタバコをふかしながら言う。




「・・・どうした?」




「・・・・・星が綺麗ですね・・・。」

アルバートはどこか遠くを見つめるように空を見上げながら言った。




「・・・・・・。ああ・・・そうだな。」

ルキアーノは夜空を見上げるアルバートの姿を見つめながら静かにそう答えた。




「ルキアーノさんは、・・・・こうして星空を眺めているとき何を考えていますか?」

アルバートは夜空を見上げたままルキアーノに問いかける。




「・・・お前・・・たまに変な質問するよな。」




「・・・・答えになってませんよ?・・・・・・何を考えているんですか?」




「・・・そうだな・・・・・・死んだ両親のことかな・・・・・・・それと・・・・。」

一瞬、ルキアーノの表情が曇る。




「それと?」

アルバートはルキアーノに視線を向け聞き返す。




「・・・いや・・・・なんでもない。」

ルキアーノは視線を逸らし、アルバートに背を向けた。




「・・・・・・・。」

アルバートは黙って自分に向けられた背中を見つめている。




「・・・・そういうお前はどうなんだ?」




「・・・俺ですか?・・・・俺は・・・星を見ていると・・・安心するんです。」




「・・・安心?」

ルキアーノは不思議そうに聞き返す。




「ええ・・。星を見ていると自分の立ち位置が見えるような気がするんです。

・・・俺はどこで生きていて、どういう存在あって、なんの為にいまこうしてここに立っているか・・・・それがわかる気がするんです。」




「・・・・そうか?・・・・俺には星を眺めるくらいじゃあ、そこまではわからんな。」

ルキアーノは答えた。




「あくまで、“そんな感じがする”だけですよ。・・・俺にとってそんなことを考えることに意味なんてないのはわかっています。」




「・・・・そういうもんか・・・?」

ルキアーノはアルバートの方を振り向いて問いかける。




「ええ。・・・・俺はいまここにこうして存在している。・・・その事実があるだけです。」

アルバートは表情を変えずに答えた。




「・・・お前も変わったやつだな。」




「そうですか?・・・俺から見れば、ルキアーノさんも相当の変わりの者に見えますけど。」




「ほっとけ。」






そんな会話が二人の間で少しの間続いた。














「・・・・・・そろそろ時間だ・・・・、行くぞ。」

再びルキアーノはアルバートに背を向けて言った。



「はい。」


二人は車の方へと歩き出した。





トントン。


ルキアーノが車の窓を叩く。




「お〜い、アリエーテ。これ俺の車なんだから俺が運転したいんだが・・・。」




「・・・もう・・・ならもっと早く戻ってきなさいよ。エリオット、もう寝ちゃったわよ?」




「っはは、ワリィワリィ。」













そうして、アルバートら四人は帰路についたのだった。


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