↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
96/98

96話「アホアホのアホじゃないのアンタ」


「でハ、支度をしてサリパ王宮に顔を出ソう」

「お待ちしておりますわ、メウリーン様」


 メウリーンと会談した翌日、俺はそのままサリパに戻ることになった。


 タケルの縁談と言う、特大の課題を背負わされて。


「勇者タケルとの一件、どうぞ頼ム」

「あはは、ははは……」


 帰り際、メウリーンにそう念押しをされて冷や汗をかいた。


 彼女のタケルへの想いは、本物のようだ。


 ─────だからこそ、厄介だが。




「ルゥルゥ姉上!! ただいま戻りましたわ!!」

「あら、お帰りリシャリ。同盟、お疲れさん」


 俺は帰国してすぐ、ルゥルゥ姉上の部屋へ駆け込んだ。


 こういう悩みは、姉上にもっていくに限る。


「また誘拐されて心配してたのよ」

「大丈夫ですの。ちょっと衣服を剥かれて餓死しかけただけですわ」

「……その状況から、どうやって同盟結んだのよ」


 ルゥルゥ姉上は俺を迎え入れると、喜色満面に抱きしめてくれた。


 俺の手紙を捨てやがった薄情な兄上(ジケイ)と違い、ちゃんと心配してくれていたようだ。


「リシャリは身体が弱いんだから、無理しちゃだめよ」

「はーい」


 ルゥルゥ姉上はそう言って、クッキーを机に置いた。


 お菓子を置くのは、王女会(プリンセスパーティー)開始の合図だ。


「痩せたわね、リシャリ。最低、三つは食べること」

「いただきますわ」


 出されたクッキーは、姉上の手作りだった。


 俺の帰国に備え、準備してくれていたのだろう。


「で? どしたのリシャリ、相談があるのでしょう?」

「……分かりますか、姉上」

「そういう顔をしてるもん。何年、あんたの姉をやってると思ってるの」


 クッキーを一つ頬張ると、ルゥルゥ姉上から話を切り出してくれた。


 この辺はさすがだな、と思う。


「実は、ある縁談の仲介を申し付けられまして」

「あら、アンタの得意分野じゃない。私に何を相談するの」

「それがですね……」


 では早速、お言葉に甘えて……。


 俺はこの縁談をどうしたものか、ルゥルゥ姉上に意見を聞くことにした。




「メウリーン、ってヤイバンのドラズネスト領主の?」

「ええ」


 メウリーン・ドラズネスト。ヤイバンのドラズネストの領主。


 竜神グルデバッハを代々祭り上げ、民を生贄に捧げてきた際どい衣装の巫女さん。


 彼女は竜神を拳で討伐してしまったタケルに心酔し、縁談を申し込んできた。


「彼女が、タケル君に婚約を申し込んだと」

「父上が戻ってきてから、相談するつもりですが」


 メウリーンの求婚を聞いて、俺は馬車で頭を抱えていた。


 すなわち、この縁談を進めて良いものかだ。


「姉上はこの縁談、どう思われますか?」

「条件次第だけど、ナシではないと思うわよ」

「条件、ですか」


 姉上の判断は、条件次第ではアリということだった。


「条件と言うのは?」

「メウリーンを正室にするのはダメね。タケル君を取り込まれかねないから」

「……ふむ」

「側室として通い妻、なら認めてもいいと思う。ドラズネストがタケル君の領地になれば箔が着くし。ただ彼には政治ができないから、実際の運営はメウリーンに任せる。なので、通い妻ね」


 姉上に相談すると、快刀乱麻にそう答えてくれた。


 政治的な観点で見れば、タケルがメウリーンと結婚しても問題はないようだ。


 だが、


「問題は、そういう観点だけではないと言いますか」

「じゃあどういう観点?」

「他のタケル好き好き軍団が暴走しないかどうか、と」

「……あー」


 タケル大好きなツンデレ騎士、ポーリィさん。若干ヤンデレ気味なヤイバンの怪物、レヴィさん。


 彼女たちも、タケルの縁談相手としては十分な地位である。


 ポっと出の地方領主にタケルを奪われて、二人が黙っているとは思えないのだ。


「そんなもん、タケル自身に決めさせなさいよ」

「まぁ、そうですわよね」

「それともリシャリ、まさか貴女─────」


 こういう時は恋愛脳で、とても頭がいいルゥルゥ姉上を頼るしかない。


 そう思って、ルゥルゥ姉上に相談してみたのだが……。


「いえ、この質問は無意味かしらね。多分違うから」

「何のことです?」

「いや、まぁ一応聞いておくかな。確認だけどね、リシャリ」


 ルゥルゥ姉上は少し、躊躇うそぶりを見せた後。


 呆れたような、困ったような顔で俺にこう聞いた。


リシ(・・)ャリ(・・)がタ(・・)ケル(・・)君を(・・)好き(・・)だから、躊躇っているって可能性は?」

「ないですわ」

「……ないわよねぇ」


 そうか、俺がメウリーンに嫉妬して縁談を躊躇っていると思ったのか。


 そんなはずはないだろう。


「ちょっとはタケルに気が有ったりはしない?」

「ないですわ?」

「じゃあもし、タケル君から縁談を申し込まれたら?」

「はぁ、そんなの決まっているでしょう」


 今日の姉上は妙だな。


 どうしてそんな当たり前のことを聞くのだろう。


国王(・・)が許(・・)すな(・・)ら受(・・)けま(・・)すわ(・・)

「……よくわかった」


 俺の縁談に、俺の意志が関与することはない。


 すべては国王(ちちうえ)の命じるまま、縁を結ぶだけだ。


「姉上、私はどうすれば……」

「そうね、逆にアンタはどうしたいの?」

「私がどうしたいか、ですか?」


 俺がどうしたいか、か。


 サリパの国益も大事だ。タケルの縁談をどうすべきかは、よく吟味しないといけない。


 ……ただ、それ以上に。


「タケルに、幸せになってほしいですわ」

「そう」


 俺はタケルに、何度も何度も助けられてきた。


 だからこそ、彼のことを『便利な駒』のように扱いたくはない。


「私にできうる限りの便宜を以て、幸せを掴んで欲しい」

「……」

「私が縁談を進めたらきっと、タケルは受けてしまいますわ。国の都合で、彼の将来を縛りたくないのです」


 タケルは現在、ポーリィとレヴィの二人から熱烈なアプローチを受けている。


 しかしタケルの朴念仁は、好意に気づいてはいないだろう。


 俺としては、二人の好意を受け止めた上で縁談を受けるか決めてほしい。


 その二人もトンビに油揚げを攫われたのではなく、フラれた上での縁談であれば納得するハズだ。


「タケルが彼女たちに向き合う為の、時間を作ってあげたいと言いますか」

「面倒くさいわねぇ。じゃあそのメンツを招待して、恋結びパーティでも企画したら?」

「違うのです、そうではないのです!」


 どうやら姉上に、俺の悩んでいる部分が良く伝わっていないらしい。


 俺は改めて、どうして相談しているのかをこと細かく説明した。



 ポーリィさんやレヴィの気持ちを、タケルはまだ認識していない。


 でも俺が彼女らの気持ちをタケルに伝えるのは筋違い、余計なお世話だ。


 あの朴念仁に、二人の好意を自覚させる方法はないだろうか。


 タケルの朴念仁を治す方法を、一緒に考えてくれルゥルゥ姉上ェ!!


「アホじゃないのアンタ」


 俺が熱弁をふるったら、可哀そうなものを見る目で見られた。


 何がおかしいというのだ。


「私としては遠回しに、『アナタはもっと他人の気持ちに敏感になるべきですわ』と助言するなどを考えているのですが」

「アホじゃないのアンタ」

「私の頭脳が姉上に劣ることは分かっていますわ。だから、相談しているんじゃないですの」

「アホアホのアホじゃないのアンタ」


 そんな俺の真摯な悩みを、ルゥルゥ姉上は鼻でせせら笑った。


 ひどすぎる対応だ。人の心はないのだろうか。


「はぁ、タケル君もかわいそうね」

「そうなのですよ、彼が鈍感なのは今まで恋愛経験がないからでしょう」

(かがみ)静水(せいすい)を覗き込むといいわ、鈍感が映るから」


 だが、タケルの鈍感さを責めるのは少々可哀そうではある。


 彼は生まれてからずっと、化け物として恐れられてきた少年だ。


 まともな恋愛経験を積む機会など、なかったのだろう。


 俺はそんなタケルを救いたい……。


「それに加え、シンプルに二人の暴走が怖いですわ。特にヤイバンのレヴィさん」

「……まぁ、それはそうだけど」


 要は俺は、タケルに傷ついてほしくないのだ。


 彼は俺を何度も助けてくれた恩人、嫌な思いをさせたくない。


 俺が仲介役になるなら、少しでも火の粉を減らしたいんだ。


「あー、面倒くさくなってきたわ」

「姉上?」

「今の、そのまま国王(とうさん)に相談してみなさい。それで解決するわ」


 しかしルゥルゥ姉上は、だんだんと面倒くさそうになり。


 やがて投げやりに、俺の頬をギューッと押しつぶした。


「あにゅうえ?」

「アンタは余計なこと考えなくて良いから、国王(とうさん)の指示通りになさい。それが望みなんでしょ?」


 ルゥルゥ姉上の瞳には、どこか呆れたような色が浮かんでいる。


 そんなに俺は、変なことを言っただろうか。


「あの~、ノンデリ国王にまともな解決策を出せるとは思えないんですが」

「もはや一周してノンデリが必要な状況よ、それ」

「姉上!?」


 それとなく抗議をしてみたが、効果はなし。


 姉上はそう言って、俺の相談を打ち切ってしまった。





 意味不明である。


 どうして姉上は、俺の相談に真面目に乗ってくれなかったのだろう。


 いつもなら面倒くさがりながらも、ちゃんと解決策を考えてくれるのに。


「ドラズネスト領主メウリーン様は、二カ月後にサリパ王宮に来訪されるそうです」

「分かりましたわ」


 メウリーンは再来月に、サリパ王宮を訪れるらしい。


 二カ月もあれば、国王もタケルも帰ってくるだろう。


「結局は、本人たちの気持ち次第ですか」


 後はタケルに縁談の話をして、気持ちを確認することだ。


 前向きに考えているなら、仲人としてタケルの縁談をサポートし。


 タケルが断るつもりなら遺恨が残らないよう、場を収めるだけ。


 どっちに転んでも、俺がうまくサポートすればいい。


 メウリーンからの求婚を処理するだけなら、簡単な仕事。


 ただ、ポーリィさんやレヴィの気持ちを知っている俺からしたら……。


 縁談が成立した場合に、トラブルになるんじゃないか気が気でない。


 とくにレヴィ、彼女はかなりタケルに執着している素振りがあった。


「不安ですわ~」


 縁談の前に、ポーリィやレヴィとの関係が清算できればよかったのだが……。


 いや。彼女たちがタケルにぞっこんだからと言って、短絡的な行動をとるとは限らない。


 俺は二人の理性を信じ、粛々と縁談を進めるのが正解……なのかな?


 もう、悩んでも仕方がない。正解があるなら、ルゥルゥ姉上は俺に助言してくれたはずだ。


 おそらく姉上は俺に『自分で解決してみせろ』と発破をかけたのだと思う。


 あの意地の悪い態度は俺の成長を促すためだったと、そう信じよう。


「準備を進めますか」


 そうと決まれば俺は、やるべきことをやるのみ。


 お見合いに備えて、料亭の先押さえをしておかないと。


 俺に任せておけタケル。お前に最高の縁談の席を、用意してやるからな!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
これはアホアホのアホ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。