表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/55

7話「コンプレックスの天才」


 『低魔力(プアー)』とは、魔力が生まれつき極端に少ない人間の総称である。


 低魔力(プアー)に生まれるということは、この世界では大きなハンディキャップだった。


 この世界の技術は『魔法』に依存しているので、生活必需品の多くを使えないからだ。


 料理に火を欲するならば、『火の魔法』を使わねばならず。


 用便に水を要するならば、『水の魔法』が必須であった。


 かつて原始の時代は、それぞれ属性の魔術師がその役を担っていたそうだ。


 しかし技術は発展し『魔力さえ込めれば、主属性以外の魔法でも使える』という魔道具(アイテム)が発明された。


 この発明により魔力さえあれば、どの属性の魔法でも使えるようになった……のだが。


 低魔力(プアー)だけは、この魔法文明の恩恵を受けることができなかった。


 この世界には魔力による「水洗式トイレ」が発明されていたが……。


 彼らは用を足したあと、いちいち誰かに声をかけないといけないのだ。


 必然、見下されて嘲笑われることが多かった。



 さらに魔力の才能は、子に『遺伝』するらしい。


 低魔力同士の間に生まれた子は、高い確率で低魔力だ。


 だから低魔力(プアー)というだけで、結婚を断られてしまう事も少なくなかった。


 貴族が平民を差別するように、平民は低魔力(プアー)を馬鹿にした。



 ……しかも、たちがわるいことに。


 両親に魔力があるからといって、子も魔力を持つとは限らなかった。


 魔力のある家庭にも『低魔力(プアー)』が生まれることは多々あった。


 もし貴族階級に低魔力(プアー)が生まれようものなら、それはもう大変だった。





「すまない、ジュウギ」


 ジュウギという青年がいた。


 彼は、そこそこの名家の嫡子として生まれた。


 顔は美麗、頭脳も聡明で将来を期待され育てられた。


「お前に家を継がせられない。醜聞になる」

「……」


 しかし五歳の魔力測定の儀で『Fランク(プアー)』と判定されてしまった。


 こればかりはどうしようもない、ただ運が悪かっただけ。


「せめてEランクほどでも有ってくれれば」


 その日から、彼の扱いは大きく変化した。


 ジュウギは家の跡取りという立場を奪われ、許嫁にも縁を切られた。


 代わりに弟が跡取りとして、英才教育を受けることとなった。


 ……低魔力は遺伝するので、ジュウギと結婚したがる令嬢は少ないだろう。


 彼を跡取りにしてしまうと、家として縁談の選択肢が狭まってしまうのだ。


 実際、低魔力により跡取りを交代するケースは少なくなかった。


 ジュウギは魔力の才能がなかっただけで、その立場を失った。



「……ごめんよ、ジュウギ」



 ただ彼の両親がジュウギを虐げていたのかというと、そうではなかった。


 貴族にとって、名誉こそ大事。だから低魔力のジュウギに、家を継がせられなかったが。


「お前を跡取りにしてやれないが、きっといい縁談を探してくる」

「自棄にならず、立派に育ちなさい」


 ……両親はジュウギを、子供としてちゃんと愛してもいた。


 名誉のためにジュウギに辛抱をさせていることを、申し訳なくも思っていた。


「お前が平民に生まれていれば、まだいくらかマシだったのに」


 確かに『低魔力』に生まれれば、貴族でも平民でも差別の対象になるだろう。


 貴族の家に生まれた低魔力(プアー)は、使用人にすら馬鹿にされ陰口を叩かれるという。


 メンツを気にした親に、勘当されてしまう例も珍しくない。


 しかし平民なら『肉体労働担当な!』という扱いを受けるが、家族から追い出されたりすることはない。


 平民にメンツは重要ではなく、どんな役割をこなせるかが大事なのだ。


 肉体労働は嫌がられる仕事で、その役目をこなしてくれるならむしろ助かるだろう。


 ……少なくとも、「いないものとして扱われる」貴族社会よりはマシであった。




「何故、私はこんな扱いを受けねばならぬのでしょうか」


 そんな境遇だったジュウギは、苦悩し続けた。


 跡継ぎの地位を奪われ、使用人から馬鹿にされ、弟にも見下された。


 『魔力が少なく生まれただけで、どうして』という怒りが、脳を焦がした。


「父さん。低魔力でも扱える魔道具が出来れば、私の扱いもマシになりますか?」

「ん?」


 そんなジュウギはある日、両親にそんなことを相談した。


「それは……なるだろうね」

「むしろ、そんなものを開発出来たら褒め称えられるわ」

「そうですか」


 今、魔道具を扱える魔力のラインはEランク以上と言われている。


 なのでFランク以下の魔力が馬鹿にされ、差別されているのだ。 


「父さん、母さん。私を大学に入れてくれませんか」

「……ふむ」


 だからFやGランクでも魔道具を使えたら、差別はなくなるんじゃないかと思った。


 またジュウギが研究者として名を上げるのは、家にとっても願ったりかなったりだった。


「研究所は、能力主義。魔力の有無なんかで差別したりしないそうです」

「そうだな、悪くない」


 そう考えたジュウギは、差別への抵抗として。


 魔力を必要としない、新しい魔道具を研究する決意をした。






 そこからジュウギは死に物狂いで勉強した。


 幸運にもジュウギの学才は高く、一を聞いて十を知る聡明さであった。


 一度聞いたことは二度と忘れないし、数字に明るく四則暗算を軽々とこなした。


 そんな彼は王立大学に、主席特待生として入学した。


「ジュウギ、君にこの研究をお願いしたい」

「お任せください、教授(プロフェッサー)


 ジュウギは在学中も、やはり優秀であった。


 教授にいくつも研究を任され、画期的な論文をいくつも発表した。


「ジュウギという男は素晴らしいな」

「彼はこの国の宝だ」


 その優秀さから、ジュウギの名は大学で広まっていった。


 大学は、特別な環境だ。ここでは身分も、魔力量も関係ない。


 ただ優秀な研究者であることが、大学でのステータスであった。


「卒業後は、国立研究所に来なさい。君の研究室(ラボ)も用意しよう」

「光栄です、教授」


 そんな背景もあって、彼は卒業後に自分の『研究室(ラボ)』を持つことを許された。


 低魔力ではあるものの、名家の出身で勉学に優れる男。彼は大学で、准教授の立場を与えられた。


 こうして自由に研究する権利を得て、満を持して『低魔力でも使える魔導具』の研究を始めたのだった。



『ジュウギ君、ちょっとそのテーマはどうかと思うが』

『それに、何の意味がある?』


 しかしその研究は、多くの仲間に非難された。


『上手く行っても、低魔力(プアー)しか得をしないじゃないか』

『一部の人間には売れるだろうが、費用対効果がね』


 その研究は、上手くいかないと批判されているのではない。


 低魔力しか恩恵を受けない研究など、優先度が低いと判断されたのだ。


『ジュウギ君、よく聞き給え。魔道具を使えない人がいても、国は困らないんだ』

『……』

『魔道具を使わない仕事だって、たくさんあるんだから』


 国から予算を貰って研究する場合、『その研究が成功したらどんな利益が出るか』が何より重視される。


 研究が上手く行ったとしたら、どんなメリットがあるか。


 その研究の成功率はどのくらいか。


 それらの要素を勘案して、研究費の予算が組まれるのだ。


『君の優秀な頭脳は、他のことに使ってくれないか』

『時間の無駄だよ。せめて、魔力利用の効率化の研究にしないか』


 だから『上手く行っても価値がない』と言われてしまえばどうしようもない。


 それは研究職の人間にとって、何より絶望的な批判であった。


『そんな研究に、予算を出せない』

『研究費は自前で賄うなら、勝手にやっていればいい』


 研究所は実力主義だ。


 ジュウギが有用な研究を続けている間は、皆に好意的な目で見られていた。


『はぁ、残念だ。君がそんなにつまらない男だったとは』


 だが低魔力のための魔道具開発というテーマを聞いて。


 かつては信頼の目で見てくれていた『教授』は、ジュウギを失望した顔で見ていた。





 ジュウギはそれでもあきらめなかった。


 国家に利益がなくても、彼の利益にはなる。


 低魔力だからと、馬鹿にされることがない世界を作りたい。


 その執念が、彼を突き動かしていた。



 そのきっかけは、偶然だった。


「魔力以外の、動源を」


 魔力が足りないなら、別のエネルギーで補えばいい。


 ジュウギは、魔力を使用しないエネルギーを探した。


 そこで彼が目を付けたのは、『燃える石』であった。


 これはサリパ内の山でたまに見つかる、優れた燃料として知られていた。


「火魔法の代用になるか?」


 ジュウギは燃える石を使い、火をつける道具を作った。


 しかしこれは上手くいかず、雨の日では使えなかったり、火が付くまで1時間以上かかることもざら。


 火魔法の代用には、とてもならなかった。


「水魔法の代用は……」


 次にジュウギは、筒の中に水を蓄える道具を作った。


 ……これだけだとただの水筒だ。普通に水を持ち運ぶのと変わりない。


 そこでジュウギは、水を圧縮できないかと頭をひねった。


「どうすれば水は縮むだろう。とりあえず過熱してみよう」


 そこで彼は、水を熱してみた。


 水を沸騰させると、量が減ることは前々から知られていた。


 蒸発しているだけなのだが、ジュウギにそんなことはわからない。


 ただ彼は、そんな試行錯誤の末に……。


「……水を沸騰させたら、水筒が破裂した?」


 蒸気の存在に、気がついた。







『これはすごいことになるぞ』


 水蒸気のエネルギーは凄まじい。


 燃料さえあれば魔力を使わず、大きな物体を動かすことが出来る。


 ジュウギは蒸気の可能性に気づき、研究を重ねた。


『これは人間の力を大きく超えた、凄まじいパワーだ』


 蒸気は温めれば圧力が増し、冷えれば縮む性質を持っていた。


 この性質を使えば、物凄い馬力を出すことが可能だ。


 ……ジュウギはその技術を、水の汲み上げに利用した。


『やった、出来たぞ!』


 蒸気の発見から、数年。


 やがて彼は、魔力を使わない強力な蒸気式汲み上げ機(ポンプ)を開発した。


 人間の力では実現できない、超効率のポンプ機構だった。


 ジュウギはそれを世紀の発明だと思い、自信満々に研究成果を発表したのだが……。


『そんな複雑な事をしなくても、水魔法を使えばいいだろ』


 蒸気機関を作るには、複雑な回路を要する。


 金属加工には土属性の魔術師の力が必要だし、燃料の輸送にもコストがかかる。


 そこまでやって得られる成果は、水を操る魔道具なら数秒で実現可能なものだった。


『あのジュウギが数年かけて研究していたものが、コレか』

『君が輝いていたのは学生の頃だけだったなジュウギ』


 彼の作ったポンプは見向きもされず、発表会からつまみ出された。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ