表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/51

5話「犠牲は無駄にはしませんわ!」


 平民嫌いの、騎士団長パウリック。


 平民であるというだけでタケルに因縁をつけ、無実の人を投獄した『絵にかいたような極悪人』。


 だが結論から言うと、この男は……。



 ぶっちゃけかなりマシな部類の貴族だった(サリパ王国比)!!



「我が王の意、汲み取れず申し訳なく思いまする」

「むーむむむ」



 今回の一件は、俺が自ら父上(パパ)に報告することになった。


 やはり国王の命令を、騎士団長が独断で無視していたのは問題であった。


 そこは俺も良くないと思うし、パウリックが反省すべき点であろう。


 しかしパウリック以外の貴族も、平民を差別しないかと言えばそんなことはない。


 町娘に手を出したり休みなく働かせたりと、平民を奴隷のように扱う貴族は少なくなかった。


 それどころか許可なく追加の税を掛けたり、賄賂に手を染める貴族もいるらしい。


 父は騎士団(パウリック)に命じ調査しているが、対処しきれていないようだ。


 ただでさえサリパ国は弱小なのに、政治もダメダメなのである。


 こんな状況だからこそ、父も平民雇用を決断したのだろう。


「そんなヤツに騎士団長は務まらない!」

「即行で解任すべきだ!」


 そんな貴族たちの中、パウリックは貴重な『清廉潔白で忠義に厚い』貴族だった。


 平民を見下す悪癖こそあるが、王宮警備の仕事はほぼ完ぺきで、賄賂や不正を頑として受け取らない。


 実力も本物で、タケル以外に負けたことはない。


 パウリックは数少ない、国王(パパ)が信頼する貴族の一人だったのだ。


「いかなる処分を受けても、恨みはいたしません」

「んー……!! んんんーーー!」


 なので、報告を受けた父上はとても困った顔をしていた。


 確かに、パウリックのしでかした罪は重い。


 だが彼を騎士団から解任しても、ろくなことにならないからだ。


 もっと(タチ)の悪いヤツが騎士団長になれば、不正の調査すらおぼつかなくなる。


「王の命令を無視するなど、許されない不祥事だ!」

「パウリックを、謹慎させるべきだ」

「あー、えー……」


 そう、圧倒的にマシなのだ。


 選民意識が強すぎる点を差し引いても、まともに仕事してくれるパウリックは貴重すぎる。


 そもそもこの男に、悪気は一切なかった。


 『武術大会優勝者に騎士団試験受けさせてやれ』という命令が『騎士団入りを目論む平民を炙りだして、釘を刺せ』と脳内変換されていただけで、国王への忠誠心は曇りなし。


 だから、そんなヤツ(パウリック)の不祥事を報告された国王は困ったのである。





「いや、パウリックも良い歳だ。法の重みを示すために処刑してもいいかもしれない」

「彼の財産を没収し、国庫を潤わせようじゃないか」


 パウリックの不祥事を聞き、後ろ暗い秘密を持つ貴族たちは嬉々として糾弾を始めた。


 騎士団長は、罪を黙っておく代わりに『賄賂をせしめる』事が出来る美味しいポジションだ。


 そんな地位が空くかもしれないのだから、糾弾しない理由がない。


「……我が娘、リシャリよ。今のパウリックの言葉は事実なのだな」

「はい、ですわ」


 俺がタケルを庇うのは、サリパ王国にとって必要なことであった。


 あんな化け物(チート)の恨みを買って、国から出ていかれたら国家的損失である。


 だけどパウリックが重要な人物と気付かず、好き放題にやっちゃったのは俺の反省点だ。


 もっとパウリックの顔を立て、タケルを受け入れさせる道もあったはずだ。


「あー、娘リシャリよ。これはお前が見抜き、告発した事件だ」

「はい」

「そこでお前に問おう。この一件、どう決着をつける?」


 サリパ王国のためにも、絶対にパウリックを退役させるわけにはいかない。


 だがこのまま法に照らして裁くと、王命に背いたパウリックの解任はやむを得ないだろう。


「これはお前の、王族としての資質を問う試練でもある」

「はい」


 それを分かったうえで、国王(パパ)は俺にそう聞いてきた。


 しかも視線で『分かってるよな?』と訴えながら。


「お前の意見を聞かせろ、リシャリ」

「……承りましたわ」


 すぐにピーンと、俺の空気読みスキルが発動した。


 ────おそらく彼を解任させない、『皆が納得できそうな罰則』を提案しろと言ってるのだろう。


「私の意見なので、過去の判例にはそぐわないかもしれませんが」

「かまわん、言ってみろ」

「まずはかつて、無実の罪で投獄した平民たちに謝罪をしにいくべきですわ」

「ふむ」


 国王が、法を軽視するわけにはいかない。


 かといって、国王が裁きを下すなら法に則らねばならない。


「王族である私も同行し、彼と共に頭を下げるとしましょう。そして賠償を行い、国の信用を回復すべきと思います」

「確かに、それは大事であるな」


 ならば俺に『王族の試練』という形で、みんなが納得できそうな罰を提案させればいい。


 その試練を採用することで、パウリックを守ろうという魂胆だ。


「パウリック様も自ら、民へ謝罪と賠償をする。それが誠意でありましょう」

()にも。……だが、それだけであるか?」

「いえ。罪には、罰も必要ですわ」


 とりあえず思いついたのは、被害者への謝罪行脚だ。


 今まで投獄された平民はもう釈放されているらしいので、こちらから出向いて謝るのだ。


 プライドの高いパウリックには、それなりに堪える罰だと思うが……。


 今の国王(パパ)の感じだと、足りないからもう一声という感じか。


「して、その罰とは」

「そうですわね。どうせなら、国益となる罰がよろしいかと」

「国益となる罰、とな?」


 とはいえ、繰り返しになるが俺は凡人だ。決して、賢い人間ではない。


 皆が納得する罰なんて、咄嗟に出てこない。


 俺が思いついた罰は、『俺の趣味』が大きく絡んでいる内容であった。


「不肖ながらこの私リシャリは、サリパ王国の為にある研究をしたいと思いまして」

「……はあ?」


 うん。


 実はやってみたかったのだが、メイドさんとかには頼めなかった実験がある。


 そしてこれはパウリックにとって、とても残酷な刑罰になる。


「今、我が国の主産業である畜産は、つねにケツキリムシの虫害と戦っております」

「う、うむ」

「ですが国家として、その虫害対策に費用を投じておりません」


 サリパ王国にも国営研究所は存在するが、基本的に『軍事研究』がメインである。


 畜産や農業など、内政技術は後回しにされているのが現状だ。


 その理由はちょくちょく、お隣さんが国境を荒らしに来るからである。



 我々は、東側のデケン帝国と『同盟』関係を結んでいる。


 属国のような扱いではあるが、デケン帝国とは友好的な関係だ。


 ……だからこそ、デケンを恨んでいる西の大国『ヤイバン』から敵視されてしまっている。


 ヤイバンの国土はデケン帝国ほど大きくはないが、7~8サリパくらいの大きさはある。


 ヤイバンに攻められて窮地になったら、デケン帝国が助けに来てくれる約束ではあるが……。


 しっかり国防に予算を投じないと、一瞬で叩き潰されるのだ。


「畜産業を守り、国民の食料供給を安定化することこそ、サリパ王国の未来を守る一手となりましょう」

「うむ、まぁそうであるな」


 だが食料の生産力こそ、国家の基礎と言って差し支えない。


 ケツキリムシに寄生された家畜はやせ細り、ろくな肉にならないと聞く。


 主産業である畜産にも、国費を投じて研究しても良いのじゃないかと思う。


 なので、


「ケツキリムシの生態を知るため、肛門から寄生する状況を観察したく……」

「!?」

「パウリック様にご協力を頂ければ、と」


 ……ザワっ! っと。


 その俺の発言の後、会議の空気が一変した。










「お前さぁ!! お前さぁ!!!!」

「痛ェですわ!!」


 会議の後。


 サリパ国王であるパパは、俺の頭蓋をゲンコツでグリグリしていた。


「なんちゅー罰を提案してくれやがったんだ、お前!」

「ぐええええええ」

「パウリックを辞めさせられないから、乗ったけどさぁ!」


 サリパ国王は白髪交じりの、ちょっと老けたイケメン男性だ。


 俺の美少女フェイスは、この父の遺伝子が大きいと思う。


「罰にしても、もうちょっとあるだろ! 百叩きとか、鞭打ちとか!」

「だってそんな暴力的な罰、思いつかなかったのですもん!」

「お前の罰の方が残虐だ!」


 そして会議場では『国王モード』で、厳格に振舞っている父だが。


 ひとたび王宮に戻ると、だいぶ砕けた性格になる。


「パウリックがあんなに顔真っ青にするの、初めて見たぞ!」

「だって、害虫の生態観察や研究は、ちゃんと国益に……」

「なるかもしれんが、パウリックで実験してやるな!」


 父は再び俺の頭を、グリグリと圧迫した。


 めっちゃ痛いのでやめて欲しい。


「でもまぁ、皆が納得する罰だ。王女の前で尻を出さないといけない時点で、尊厳にかかわる」

「そんなつもりは……」

「寄生されたら腹痛に悩まされるし、少なくとも切れ痔にはなる。軽い処罰とは誰も思わん」


 父は死ぬほど恐ろしそうな顔で、プルプル震えていた。


 ……うーん、もし寄生されても虫下しですぐ治せるんだけどなぁ。切れ痔に効く軟膏もあるし。


 ケツキリムシ被害が多い民間では、もう治療法が確立している『よくある被害』なのだ。


 だが虫に縁がない貴族たちには、恐ろしい刑罰に見えたのだろうか。


「というか仮にも王女が、あんな提案するな! 虫好きなの知ってるけどさぁ!」

「痛ぇですわー!!」

「お前が変な性癖持ってると、勘違いされかねんぞ!」


 怒りを思い出したのか、父が再び俺の頭をグリグリした。


 ……めっさ痛ぇ。


「他言無用のお触れを出したけど、噂になったら困るだろう」

「……噂、ですか」

「もし肛門(こうもん)破壊(はかい)王女(おうじょ)なんて二つ名がついたら、嫁の貰い手がなくなるぞ」

「あー、確かに。……あ痛たたたた、痛ぇですわー!!」


 俺は研究したかっただけなのだが、確かにヤベー王女と思われるかもしれん。


 反省だ。


「あ、あのー」

「む、お主が噂のタケルか?」


 頭をグリグリされて悶える俺を見て、心配そうにタケルが声をかけてきた。


 ナイスだ、何とか父を説得してくれ。


「ふーむ、その歳でパウリックに圧勝するか。分からんものだな」

「は、はい。光栄です、陛下」

「お主には期待している。リシャリをよく守ってくれよ」

「はい、命に代えても」


 父はそう答えるタケルを見て、にこやかにほほ笑んだ。


 平民出身の王宮騎士は、父にとっても望むところなのだ。


「そしてタケル、お主には貴族と変わらぬ立場を与える。周囲にいちいち媚びへつらわずともよい」

「え!? そんな、僕なんかが」

「能力があれば、平民であろうと相応の立場を与える。そんな噂が広まれば、腕に自信のある者がサリパに集まってくるだろう?」

「……」

「だからタケルよ、貴様は王宮騎士として恥ずかしくない振る舞いをせよ」


 前世には『隗より始めよ』の諺があったが、父は一人でその理に辿り着いていた。


 有能な部下をしっかり厚遇すれば、その噂を聞いた有能な者が士官に来る。


 それを繰り返せば、国に賢人が集ってくるのである。


 だから父は平民を騎士団に入れ、厚遇したがったのだ。


「サリパは優秀な者を求む。タケル、お主はその一人めだ」

「は、はい」

「我が国はもっともっと強くなる、くれぐれも精進せよ」


 これが国王(おとうさま)、これからのサリパを導く人間だ。


 人材の重要さを理解し、教育の発展にも力を入れている。


 しかも愛想がよく、デケン皇帝から自治を任されるほど外交は上手い。


 ……アホ貴族だらけのサリパが滅びていないのは、父の力が大きいんじゃないかなと思う。


「分かりました。リシャリ様の為、命を賭して尽くします」

「うむ。あ、ただし娘に変なことするなよ」

「へ?」


 ただ、この名君にも悪癖があるとすれば。


「悪いが娘には、それなりの相手を用意しなければならん。縁を結んで意味がある相手をな」

「は、はあ」

「恋愛ごっこの範疇なら好きにすればいいが、ぶち込むのはNG……」

「おーっほっほっほお下品ですわ!」

「ぐわぁ!!」


 ちょっとばかし、年頃の娘に対するデリカシーがない点である。


「いやだってリシャリ、吐血しながら訓練所に駆け込んだって聞いたぜ? それって、そういうことじゃねぇの?」

「違いますわクソボケお父様。あんなの見たら、誰だって止めに入りますわ」

「いいかタケル君、娘に騙されちゃいかんぞ。リシャリの見てくれは可愛らしいが、中身は……」

「お黙り下さいませクソボケお父様」


 王として育てられたからか、お父様にデリカシーという言葉はない。


 例えば幼児の頃、困らせてやろうと『子供はどうやったらできるの』と聞いたことがあるのだが……。


 国王(パパ)は躊躇いなく『●●●を●●●に突っ込んで……』と具体的な解説を始めた。


 その後、母上に頬を張り飛ばされたのが印象的であった。


「もう行きますわよ、タケル。お父様にこれ以上、構っている暇はありませんわ」

「い、良いんですか?」

「良いんですのよ、あのクソボケお父様なんてこんな扱いで」


 父の言動にイラついた第一王女(あねうえ)は、「国王(ちちうえ)がいる空間に顔を出したくない」と社交界ボイコットを始める始末。


 このクソボケ父にして、この(おれ)ありなのだ。


「あんな父より、早く打ち合わせをしなければなりません」

「……打ち合わせ、ですか?」

「ええ」


 『最近娘が冷たい……』と嘆く父を尻目に、俺は部屋から退出した。


 外で待機しているあの人を、あまり待たせるわけにはいかないし。


「パウリック様と実験の打ち合わせ、です」

「……」


 ケツキリムシの生態は、未だに謎に包まれている。


 俺がその生態を解明し、多くの人間の肛門を救って見せる。


 蝶よ花よ……ではなく、『虫よ草よ』と育てられた俺の実力を見せてやるぜ。








「おおー、これは大発見ですわ」


 ちなみに、その後。


 俺は観察を重ね、ケツキリムシが『温度』と『匂い』で肛門を知覚していると突き止めた。


 尻を近づけただけだと反応に乏しいが、実を出したり屁をこくと突進してくる。


 寄生の成功率を上げる為か、肛門が開いた瞬間を狙う習性になっていたのだ。


 これを上手く利用すれば……?


「お父様! ケツキリムシを捕らえる罠を考えましたわ!」

「はぁ、じゃあ開発してみなさい」


 その性質を利用し、俺は宮廷魔術師で『堆肥の匂いを温風で吹き付ける魔法具』を作成した。


 広範囲に便の匂いを、体温ほどの温度で吹き付けるのだ。


 するとケツキリムシたちは、面白いように魔法具に向かって突進してきた。


 後は地面に虫取り網を設置し、近づいてきたケツキリムシを一網打尽にして終わり。


 『全自動ケツキリムシ捕獲器』が、完成した瞬間であった。


「……これ、かなり駆除の効率よくないか?」

「でしょう!? 我ながら、素晴らしい発明ですわ」

「うーん、本当にリシャリの研究が役に立つとは」


 その後に俺はいろいろ研究を重ね、構造を最適化していった。


 そして、それなりに安価で量産できるよう改良した。


「だがこの魔道具、量産する価値はあるか?」

「ケツキリムシに悩まされていた人は多いので、みんな喜ぶと思います」

「ふーむ、そうか……」


 この魔道具は税金を投じて量産し、安く買えるようにした。


 虫害が減れば生産力が上がり、税収も増える。


 だからサリパ王国としては、早く普及してくれた方が得なのだ。


「因みにリシャリ様。この魔道具、なんて名前にしますか?」

「そうですわね」


 ありがとうパウリック。彼の肛門のお陰で、我が国の畜産業は大いに発展することとなった。


 この魔法具のお陰で、ケツキリムシの虫害を大幅に抑えることが出来そうだ。


 予想される利益は、かかった開発予算の倍以上になるという。


 国家研究としては、これ以上ない大成功と言えるだろう。


「……『パウリック』で行きましょう」

「御意」


 俺は成果の犠牲になった英雄を称えるべく、魔道具を『パウリック』と名付けた。


 彼の功績は未来永劫、称えられるべきだと思ったから。





 そしたら後日、騎士団長から抗議状が届いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
この騎士団長が当国比でマトモ、だと…!? からの命名パウリックで大草原不可避 いやぁ~恐ろしい罰を与える肛門破壊王女様ですわ
世界中のパウリックに謝って。( ;∀;)
 なんということでしょう。騎士団長に対する完璧な尊厳破壊が(笑)  せめて本名は避けて愛称にする慈悲はなかったのでしょうか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ