5話「犠牲は無駄にはしませんわ!」
平民嫌いの、騎士団長パウリック。
平民であるというだけでタケルに因縁をつけ、無実の人を投獄した『絵にかいたような極悪人』。
だが結論から言うと、この男は……。
ぶっちゃけかなりマシな部類の貴族だった(サリパ王国比)!!
「我が王の意、汲み取れず申し訳なく思いまする」
「むーむむむ」
今回の一件は、俺が自ら父上に報告することになった。
やはり国王の命令を、騎士団長が独断で無視していたのは問題であった。
そこは俺も良くないと思うし、パウリックが反省すべき点であろう。
しかしパウリック以外の貴族も、平民を差別しないかと言えばそんなことはない。
町娘に手を出したり休みなく働かせたりと、平民を奴隷のように扱う貴族は少なくなかった。
それどころか許可なく追加の税を掛けたり、賄賂に手を染める貴族もいるらしい。
父は騎士団に命じ調査しているが、対処しきれていないようだ。
ただでさえサリパ国は弱小なのに、政治もダメダメなのである。
こんな状況だからこそ、父も平民雇用を決断したのだろう。
「そんなヤツに騎士団長は務まらない!」
「即行で解任すべきだ!」
そんな貴族たちの中、パウリックは貴重な『清廉潔白で忠義に厚い』貴族だった。
平民を見下す悪癖こそあるが、王宮警備の仕事はほぼ完ぺきで、賄賂や不正を頑として受け取らない。
実力も本物で、タケル以外に負けたことはない。
パウリックは数少ない、国王が信頼する貴族の一人だったのだ。
「いかなる処分を受けても、恨みはいたしません」
「んー……!! んんんーーー!」
なので、報告を受けた父上はとても困った顔をしていた。
確かに、パウリックのしでかした罪は重い。
だが彼を騎士団から解任しても、ろくなことにならないからだ。
もっと質の悪いヤツが騎士団長になれば、不正の調査すらおぼつかなくなる。
「王の命令を無視するなど、許されない不祥事だ!」
「パウリックを、謹慎させるべきだ」
「あー、えー……」
そう、圧倒的にマシなのだ。
選民意識が強すぎる点を差し引いても、まともに仕事してくれるパウリックは貴重すぎる。
そもそもこの男に、悪気は一切なかった。
『武術大会優勝者に騎士団試験受けさせてやれ』という命令が『騎士団入りを目論む平民を炙りだして、釘を刺せ』と脳内変換されていただけで、国王への忠誠心は曇りなし。
だから、そんなヤツの不祥事を報告された国王は困ったのである。
「いや、パウリックも良い歳だ。法の重みを示すために処刑してもいいかもしれない」
「彼の財産を没収し、国庫を潤わせようじゃないか」
パウリックの不祥事を聞き、後ろ暗い秘密を持つ貴族たちは嬉々として糾弾を始めた。
騎士団長は、罪を黙っておく代わりに『賄賂をせしめる』事が出来る美味しいポジションだ。
そんな地位が空くかもしれないのだから、糾弾しない理由がない。
「……我が娘、リシャリよ。今のパウリックの言葉は事実なのだな」
「はい、ですわ」
俺がタケルを庇うのは、サリパ王国にとって必要なことであった。
あんな化け物の恨みを買って、国から出ていかれたら国家的損失である。
だけどパウリックが重要な人物と気付かず、好き放題にやっちゃったのは俺の反省点だ。
もっとパウリックの顔を立て、タケルを受け入れさせる道もあったはずだ。
「あー、娘リシャリよ。これはお前が見抜き、告発した事件だ」
「はい」
「そこでお前に問おう。この一件、どう決着をつける?」
サリパ王国のためにも、絶対にパウリックを退役させるわけにはいかない。
だがこのまま法に照らして裁くと、王命に背いたパウリックの解任はやむを得ないだろう。
「これはお前の、王族としての資質を問う試練でもある」
「はい」
それを分かったうえで、国王は俺にそう聞いてきた。
しかも視線で『分かってるよな?』と訴えながら。
「お前の意見を聞かせろ、リシャリ」
「……承りましたわ」
すぐにピーンと、俺の空気読みスキルが発動した。
────おそらく彼を解任させない、『皆が納得できそうな罰則』を提案しろと言ってるのだろう。
「私の意見なので、過去の判例にはそぐわないかもしれませんが」
「かまわん、言ってみろ」
「まずはかつて、無実の罪で投獄した平民たちに謝罪をしにいくべきですわ」
「ふむ」
国王が、法を軽視するわけにはいかない。
かといって、国王が裁きを下すなら法に則らねばならない。
「王族である私も同行し、彼と共に頭を下げるとしましょう。そして賠償を行い、国の信用を回復すべきと思います」
「確かに、それは大事であるな」
ならば俺に『王族の試練』という形で、みんなが納得できそうな罰を提案させればいい。
その試練を採用することで、パウリックを守ろうという魂胆だ。
「パウリック様も自ら、民へ謝罪と賠償をする。それが誠意でありましょう」
「実にも。……だが、それだけであるか?」
「いえ。罪には、罰も必要ですわ」
とりあえず思いついたのは、被害者への謝罪行脚だ。
今まで投獄された平民はもう釈放されているらしいので、こちらから出向いて謝るのだ。
プライドの高いパウリックには、それなりに堪える罰だと思うが……。
今の国王の感じだと、足りないからもう一声という感じか。
「して、その罰とは」
「そうですわね。どうせなら、国益となる罰がよろしいかと」
「国益となる罰、とな?」
とはいえ、繰り返しになるが俺は凡人だ。決して、賢い人間ではない。
皆が納得する罰なんて、咄嗟に出てこない。
俺が思いついた罰は、『俺の趣味』が大きく絡んでいる内容であった。
「不肖ながらこの私リシャリは、サリパ王国の為にある研究をしたいと思いまして」
「……はあ?」
うん。
実はやってみたかったのだが、メイドさんとかには頼めなかった実験がある。
そしてこれはパウリックにとって、とても残酷な刑罰になる。
「今、我が国の主産業である畜産は、つねにケツキリムシの虫害と戦っております」
「う、うむ」
「ですが国家として、その虫害対策に費用を投じておりません」
サリパ王国にも国営研究所は存在するが、基本的に『軍事研究』がメインである。
畜産や農業など、内政技術は後回しにされているのが現状だ。
その理由はちょくちょく、お隣さんが国境を荒らしに来るからである。
我々は、東側のデケン帝国と『同盟』関係を結んでいる。
属国のような扱いではあるが、デケン帝国とは友好的な関係だ。
……だからこそ、デケンを恨んでいる西の大国『ヤイバン』から敵視されてしまっている。
ヤイバンの国土はデケン帝国ほど大きくはないが、7~8サリパくらいの大きさはある。
ヤイバンに攻められて窮地になったら、デケン帝国が助けに来てくれる約束ではあるが……。
しっかり国防に予算を投じないと、一瞬で叩き潰されるのだ。
「畜産業を守り、国民の食料供給を安定化することこそ、サリパ王国の未来を守る一手となりましょう」
「うむ、まぁそうであるな」
だが食料の生産力こそ、国家の基礎と言って差し支えない。
ケツキリムシに寄生された家畜はやせ細り、ろくな肉にならないと聞く。
主産業である畜産にも、国費を投じて研究しても良いのじゃないかと思う。
なので、
「ケツキリムシの生態を知るため、肛門から寄生する状況を観察したく……」
「!?」
「パウリック様にご協力を頂ければ、と」
……ザワっ! っと。
その俺の発言の後、会議の空気が一変した。
「お前さぁ!! お前さぁ!!!!」
「痛ェですわ!!」
会議の後。
サリパ国王であるパパは、俺の頭蓋をゲンコツでグリグリしていた。
「なんちゅー罰を提案してくれやがったんだ、お前!」
「ぐええええええ」
「パウリックを辞めさせられないから、乗ったけどさぁ!」
サリパ国王は白髪交じりの、ちょっと老けたイケメン男性だ。
俺の美少女フェイスは、この父の遺伝子が大きいと思う。
「罰にしても、もうちょっとあるだろ! 百叩きとか、鞭打ちとか!」
「だってそんな暴力的な罰、思いつかなかったのですもん!」
「お前の罰の方が残虐だ!」
そして会議場では『国王モード』で、厳格に振舞っている父だが。
ひとたび王宮に戻ると、だいぶ砕けた性格になる。
「パウリックがあんなに顔真っ青にするの、初めて見たぞ!」
「だって、害虫の生態観察や研究は、ちゃんと国益に……」
「なるかもしれんが、パウリックで実験してやるな!」
父は再び俺の頭を、グリグリと圧迫した。
めっちゃ痛いのでやめて欲しい。
「でもまぁ、皆が納得する罰だ。王女の前で尻を出さないといけない時点で、尊厳にかかわる」
「そんなつもりは……」
「寄生されたら腹痛に悩まされるし、少なくとも切れ痔にはなる。軽い処罰とは誰も思わん」
父は死ぬほど恐ろしそうな顔で、プルプル震えていた。
……うーん、もし寄生されても虫下しですぐ治せるんだけどなぁ。切れ痔に効く軟膏もあるし。
ケツキリムシ被害が多い民間では、もう治療法が確立している『よくある被害』なのだ。
だが虫に縁がない貴族たちには、恐ろしい刑罰に見えたのだろうか。
「というか仮にも王女が、あんな提案するな! 虫好きなの知ってるけどさぁ!」
「痛ぇですわー!!」
「お前が変な性癖持ってると、勘違いされかねんぞ!」
怒りを思い出したのか、父が再び俺の頭をグリグリした。
……めっさ痛ぇ。
「他言無用のお触れを出したけど、噂になったら困るだろう」
「……噂、ですか」
「もし肛門破壊王女なんて二つ名がついたら、嫁の貰い手がなくなるぞ」
「あー、確かに。……あ痛たたたた、痛ぇですわー!!」
俺は研究したかっただけなのだが、確かにヤベー王女と思われるかもしれん。
反省だ。
「あ、あのー」
「む、お主が噂のタケルか?」
頭をグリグリされて悶える俺を見て、心配そうにタケルが声をかけてきた。
ナイスだ、何とか父を説得してくれ。
「ふーむ、その歳でパウリックに圧勝するか。分からんものだな」
「は、はい。光栄です、陛下」
「お主には期待している。リシャリをよく守ってくれよ」
「はい、命に代えても」
父はそう答えるタケルを見て、にこやかにほほ笑んだ。
平民出身の王宮騎士は、父にとっても望むところなのだ。
「そしてタケル、お主には貴族と変わらぬ立場を与える。周囲にいちいち媚びへつらわずともよい」
「え!? そんな、僕なんかが」
「能力があれば、平民であろうと相応の立場を与える。そんな噂が広まれば、腕に自信のある者がサリパに集まってくるだろう?」
「……」
「だからタケルよ、貴様は王宮騎士として恥ずかしくない振る舞いをせよ」
前世には『隗より始めよ』の諺があったが、父は一人でその理に辿り着いていた。
有能な部下をしっかり厚遇すれば、その噂を聞いた有能な者が士官に来る。
それを繰り返せば、国に賢人が集ってくるのである。
だから父は平民を騎士団に入れ、厚遇したがったのだ。
「サリパは優秀な者を求む。タケル、お主はその一人めだ」
「は、はい」
「我が国はもっともっと強くなる、くれぐれも精進せよ」
これが国王、これからのサリパを導く人間だ。
人材の重要さを理解し、教育の発展にも力を入れている。
しかも愛想がよく、デケン皇帝から自治を任されるほど外交は上手い。
……アホ貴族だらけのサリパが滅びていないのは、父の力が大きいんじゃないかなと思う。
「分かりました。リシャリ様の為、命を賭して尽くします」
「うむ。あ、ただし娘に変なことするなよ」
「へ?」
ただ、この名君にも悪癖があるとすれば。
「悪いが娘には、それなりの相手を用意しなければならん。縁を結んで意味がある相手をな」
「は、はあ」
「恋愛ごっこの範疇なら好きにすればいいが、ぶち込むのはNG……」
「おーっほっほっほお下品ですわ!」
「ぐわぁ!!」
ちょっとばかし、年頃の娘に対するデリカシーがない点である。
「いやだってリシャリ、吐血しながら訓練所に駆け込んだって聞いたぜ? それって、そういうことじゃねぇの?」
「違いますわクソボケお父様。あんなの見たら、誰だって止めに入りますわ」
「いいかタケル君、娘に騙されちゃいかんぞ。リシャリの見てくれは可愛らしいが、中身は……」
「お黙り下さいませクソボケお父様」
王として育てられたからか、お父様にデリカシーという言葉はない。
例えば幼児の頃、困らせてやろうと『子供はどうやったらできるの』と聞いたことがあるのだが……。
国王は躊躇いなく『●●●を●●●に突っ込んで……』と具体的な解説を始めた。
その後、母上に頬を張り飛ばされたのが印象的であった。
「もう行きますわよ、タケル。お父様にこれ以上、構っている暇はありませんわ」
「い、良いんですか?」
「良いんですのよ、あのクソボケお父様なんてこんな扱いで」
父の言動にイラついた第一王女は、「国王がいる空間に顔を出したくない」と社交界ボイコットを始める始末。
このクソボケ父にして、この娘ありなのだ。
「あんな父より、早く打ち合わせをしなければなりません」
「……打ち合わせ、ですか?」
「ええ」
『最近娘が冷たい……』と嘆く父を尻目に、俺は部屋から退出した。
外で待機しているあの人を、あまり待たせるわけにはいかないし。
「パウリック様と実験の打ち合わせ、です」
「……」
ケツキリムシの生態は、未だに謎に包まれている。
俺がその生態を解明し、多くの人間の肛門を救って見せる。
蝶よ花よ……ではなく、『虫よ草よ』と育てられた俺の実力を見せてやるぜ。
「おおー、これは大発見ですわ」
ちなみに、その後。
俺は観察を重ね、ケツキリムシが『温度』と『匂い』で肛門を知覚していると突き止めた。
尻を近づけただけだと反応に乏しいが、実を出したり屁をこくと突進してくる。
寄生の成功率を上げる為か、肛門が開いた瞬間を狙う習性になっていたのだ。
これを上手く利用すれば……?
「お父様! ケツキリムシを捕らえる罠を考えましたわ!」
「はぁ、じゃあ開発してみなさい」
その性質を利用し、俺は宮廷魔術師で『堆肥の匂いを温風で吹き付ける魔法具』を作成した。
広範囲に便の匂いを、体温ほどの温度で吹き付けるのだ。
するとケツキリムシたちは、面白いように魔法具に向かって突進してきた。
後は地面に虫取り網を設置し、近づいてきたケツキリムシを一網打尽にして終わり。
『全自動ケツキリムシ捕獲器』が、完成した瞬間であった。
「……これ、かなり駆除の効率よくないか?」
「でしょう!? 我ながら、素晴らしい発明ですわ」
「うーん、本当にリシャリの研究が役に立つとは」
その後に俺はいろいろ研究を重ね、構造を最適化していった。
そして、それなりに安価で量産できるよう改良した。
「だがこの魔道具、量産する価値はあるか?」
「ケツキリムシに悩まされていた人は多いので、みんな喜ぶと思います」
「ふーむ、そうか……」
この魔道具は税金を投じて量産し、安く買えるようにした。
虫害が減れば生産力が上がり、税収も増える。
だからサリパ王国としては、早く普及してくれた方が得なのだ。
「因みにリシャリ様。この魔道具、なんて名前にしますか?」
「そうですわね」
ありがとうパウリック。彼の肛門のお陰で、我が国の畜産業は大いに発展することとなった。
この魔法具のお陰で、ケツキリムシの虫害を大幅に抑えることが出来そうだ。
予想される利益は、かかった開発予算の倍以上になるという。
国家研究としては、これ以上ない大成功と言えるだろう。
「……『パウリック』で行きましょう」
「御意」
俺は成果の犠牲になった英雄を称えるべく、魔道具を『パウリック』と名付けた。
彼の功績は未来永劫、称えられるべきだと思ったから。
そしたら後日、騎士団長から抗議状が届いた。




