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43話「ボクにあそこまでした責任、取ってくれるんだよね」


「って感じで、同盟結んできましたわ」

「本当に外交爆弾だなお前は!」


 そんな風に、俺がヤイバン軍が援軍に来てくれることになった経緯を説明すると。


 ジケイ兄上は、頭を抱えてそう突っ込んだ。


「だが、よくやった。よく話を纏めた」

「お役に立てて何よりです」

「ああ。恩に着る」


 ジケイはそう言って、珍しく俺を誉めてくれた。


 しかし兄上が険しい顔なのは変わっていなかった。


「……ところで戦況は、どうですの?」

「芳しくない。想定より押し込まれている」


 嫌な予感がして話を聞くと、どうやら前線は土人形戦術に苦戦していたようだ。


 レヴィがここに来るまで、まともに応戦すらできていなかったという。


「あの娘の助力があっても、何とかなるかどうか」

「そんなにまずい状況ですの?」

「港町アナトにも、デケン海軍が来てるらしい」


 事情を説明するジケイ兄上の声色は、かすかに震えていた。


 港町アナトにデケン海軍が来た、と聞いて俺の顔も蒼くなった。


「まさか、ルゥルゥ姉上のいる港にですか!?」

「ああ、すぐ援軍を出さねば兵站を切られる」

「で、では。ど、どうしましょ」

「安心しろ、俺が向かうつもりだ」


 港町アナトは、物流の要所だ。ここを押さえられたら、サリパ軍は全員飢えて死ぬ。


 しかし、ジケイ兄上が天才とは言え、海軍もなしに港を守れるものだろうか。


「リシャリ、悪いがすぐ首都に戻って兵を集めてくれ」

「……私は、兵を集めれば良いのですね」

「お前の求心力で、増援を捻りだしてくれ。頼む」


 サリパ軍の戦況はあまりにも、苦しいようだ。


 ヤイバンからの援軍など、焼け石に水な状況らしい。


「あまりに、兵が足りない。戦力が、資源が、足りない────」


 サリパは、滅亡の危機に瀕していた。


 未だ、サリパ軍の勝報はブユルデストしかなかった。


 デケンの土人形戦術に踊らされ、主力同士の激突は惨敗。


 ヤイバンと同盟が成立したとはいえ、希望は微かだった。


「……ジケイ様、報告です。土人形が消え、デケンのアガロン将軍が進撃を開始したようです」

「来やがったか」


 兄上と話をしている最中に、サリパ軍の兵士が報告にやってきた。


 ついに大国デケン軍の、主力軍が動いたようだ。


「デケン軍の兵力は、俺らの三十倍。その大軍を率いるはデケン七英雄『アガロン』、龍殺しを成し遂げた豪傑だ」

「……はい」

「ここで負けたら、港の救援どころじゃない。タケルは、ソイツに勝てるんだろうな」

「ええ。大丈夫です兄上」


 戦力差は、およそ三十倍。まともに激突すれば、勝てるはずがない。


 勝機があるとすれば、タケルとレヴィ二人の『怪物』に期待するのみである。


「相手も『龍殺し』だ。実力に差はないんだろ?」

「いいえ。タケルなら、きっと────」


 デケンの英雄、龍殺しのアガロン。


 その男の実力を、俺は知らない。


「一撃で、ぶっ飛ばしてくれますわ!」


 だが俺には、タケルが負ける姿なんて、想像も出来なかった。











「他愛ないね」


 水色の少女はつまらなそうに、土人形の湧く森に向かって霧を吹いた。


 樹が、森が、土が、露を帯びて虹色に光り輝く。


土人形(ゴーレム)はボクが処理するから、タケルは休んでていいよ」

「あ、ありがとう」

「礼なんていらない」


 レヴィから噴き出た濃い霧により、土人形はドロドロに崩れていく。


 彼女が戦線に到着してからすぐ、土人形の殆どが駆逐されてしまった。


「それより、こんなザマであの王女を守れるの?」

「レ、レヴィ?」

「ボクね。すっごく怒ってるんだ」


 す、と水色の少女が目を細めると。


 無数の水刃が木々を割き、一刃がタケルの頬を軽く掠った。


「ボクをぶっ飛ばしておいて、コレに苦戦しないでよ。殺すよ?」

「いや、その」

「今から見せてくれるんだよね? 君の『実力』を」


 見るからにレヴィは、不機嫌そうであった。


 土人形(ゴーレム)相手にボロボロになったタケルを見て、激怒していた。


「ボクに重傷(あそこ)までした責任、取ってくれるんだよね」

「は、はい!!」


 彼女は、タケルがもっと活躍していると思っていた。


 レヴィにとってタケルは、化け物(ボク)を超えた化け物。


 ずっと孤独に生きてきたレヴィにとって、人智を超えたタケルの存在はどれほど嬉しかっただろう。


 そんな彼と肩を並べ、デケン軍を蹂躙するのはどれだけ楽しい時間だろう。


 レヴィはそんな妄想を胸に、サリパの援軍を買って出たのだ。


 しかし出向いた先で見たのは、息を切らせて泥だらけで戦うタケルの姿。


「────もし、負けたら殺すから」

「ひぃっ!?」


 土人形は弱かった。霧を吹きかけただけで、あっさり溶けて消えた。


 どうしてこの程度の敵に、タケルが苦戦をしているのか理解できない。


 それで一気に、機嫌が悪くなったのである。



「大変です、敵が……! デケンの本隊が、進軍を開始しました」

「何だって?」


 そんな口論をしていたら、サリパ兵が慌てた声で報告をしてきた。


 どうやら土人形(ゴーレム)部隊が消え、デケン軍がいよいよ本攻を始めたらしい。

 

「敵の旗印は、見えますか!?」

「はい! デケン帝国の七英雄────『龍殺し』アガロン将軍です!」

「龍殺しだって!?」


 デケン帝国は、強大だった。その国の兵力も、人材も、サリパを圧倒していた。


 五人掛かりとはいえ、無傷で龍を打倒した英雄アガロン。


 そんな男が、大軍を率いて突っ込んでくるというのだ。


「ポーリィ、僕の近くに控えてくれ!」

「了解よ! ……全軍、耐衝撃態勢(ブロックッション)!!」


 『龍』の恐ろしさを知っている、タケルとポーリィの行動は早かった。


 即座にサリパ兵をその場に伏せさせて、どんな衝撃が来ようと耐えられるよう指示を出した。


「レヴィも、早く構えて!!」

「ボク? ……はいはい」


 タケルの叫びに応じて、レヴィも水鎧を纏う。


 しかしどこかテキトーで、やる気がなさそうに見えた。


「アガロンはどこだ……!?」

「敵軍の先頭です、龍殺しの五人ファイズドラゴンキラー揃って突っ込んできます! 」

「あれか!」


 デケンの英雄、龍殺しのアガロンは、デケン軍の先頭に立って咆哮していた。


 そんなアガロンを支える四天王を纏め、龍殺しの五人ファイズドラゴンキラーと呼んで称えている。


「全身に龍の装甲を纏った騎士が、単騎で突撃しています!!」

「なんて魔力なの!?」


 そんなポーリィの叫びが、終わるや否や。


「がははははははは!!」


 凄まじい怒号と地鳴りで、森が揺らぎ。


 二メートル近い背丈の騎士が、大槍を振り回してタケルの前に現れた。


「やっと土人形を追い返したか、サリパ人!!」


 兵士の鬨の声を裂いて、豪胆な男の声が響く。


 そのあまりの声量に、タケルもポーリィも思わず身じろいだ。


「戦だ、戦いだ、進軍だ! サリパを滅ぼすぞ、俺に続けェっ!!」


 やがて龍鎧の騎士の周りに、四人の戦士が跪いていた。


 彼らの背には、地平線までウジャウジャとデケン兵が蠢いている。


「俺が『龍殺し』アガロンだ!」


 タケルはその中で一際目立つ、魔力の多い戦士……アガロンの姿を見た。


 龍鱗で鎧を作り、黒曜石をあしらった大槍を手にもった騎士。


 三十代くらいだろうか、背も高くガタいの良い兄貴肌の男だった。


「誰ぞ、俺に槍を向ける戦士はおらんかぁ!!」


 その巨漢の物言いに、サリパ兵は恐怖で立ちすくんでしまった。


 圧倒的な自信と、その実力に飲まれてしまったのだ。


「パウリックやレヴィグダードがいねぇのは残念だが、ちっとは歯ごたえのあるヤツもいるだろう!?」


 アガロンは戦いの中で、生きる意味を感じるタイプの武将だ。


 本当は、土人形戦術だけで侵攻できている状況なんて物足りなかった。


 早く水魔法使いを用意しろサリパと、内心で不満タラタラだったくらいだ。


「俺を殺せば大手柄だ! さあ、度胸のあるやつはかかってこい!!」


 そんなずっと『お預け』を食らっているような状況だった彼は。


 サリパ軍が土人形を対処したと聞いて、喜んで突撃してきたのである。


「行きなよ、タケル」

「レヴィ?」

「君の出番だろ?」


 そんな勇猛果敢な敵将アガロンを見て。


 水色の少女は静かに、タケルにそう促した。


「見せてくれるんだろ、君の実力」

「……ああ」

「そしたら、さっきの無様は見なかったことにしてあげる」


 レヴィはとっても怖い顔で、タケルに笑いかける。


 そんな彼女に、タケルは苦笑いを返すのみ。


「ちゃんと名乗りを上げなよ。不意打ちは、味方の士気を下げるから」

「分かった、ありがと」

「君なら、正々堂々で勝てるだろ?」

「もちろん」


 レヴィの助言を受けて、タケルは一歩前に出た。


 デケンの英雄アガロンの前にツカツカと歩みを進め。


 拳を天に掲げ、思い切り声を張り上げた。


「僕はタケル。龍を殺した、サリパの戦士だ!」

「ほう! お前も龍殺しか、少年!」


 たった一人で出てきたタケルを見て、アガロンは嬉しそうに目を細める。


 血湧き肉躍る激闘を、心の底から楽しみにしているらしい。


「僕と尋常に勝負しろ、アガロン!」

「いいねぇ。サリパにもいるじゃねーか、活きの良いやつが」


 ────こうして戦場で、二人の龍殺しが相対した。


 タケルがアガロンを食い止められなければ、サリパの滅亡は免れない。


 この一騎打ちの勝敗で、港の救援に向かえるかが決まるのだ。


龍殺しの五人ファイズドラゴンキラーは手を出すなよ。一対一の勝負だ!」

「分かりました、アガロン様」

「さあ、タケル! その実力を見せてみろ」


 『龍殺し』アガロンはタケルを前に、大胆不敵に両手を広げた。


 まるで、『胸を貸してやる』といわんばかりの余裕の表情で。


「僕は、負けない」

「む?」

「手加減はしちゃいけない。舐めてかかって、仲間を傷つけるわけにはいかない」


 一方でタケルは、静かに覚悟を決めていた。そこに油断も慢心もない。


 タケルはもう、自分が本気で殴りかかっても仕留められない相手がいることを知っていた。


「なので殺します。手加減なしで、殴ります。僕にとって、大切な人のために」


 油断して手加減することで、味方が傷ついてしまうことも理解していた。


 己の全てを込めた一撃で、勝敗を決さんと構えている。


「『龍殺し』アガロン将軍。どうか僕の全力、受け止めてください」

「ああ。存分に振るうがいい」


 そしてタケルは、サリパの期待を一身に背負って。


 高笑いするアガロンの、その正面に立った。


「だが、残念だなタケル」

「え?」


 ……この時サリパに、余剰戦力などはない。


 港町アナトを救援するには、主力軍を動かさねばならない。


 だから主力軍を、消耗するわけにはいかなかった。


「せっかく龍を殺したってのに、龍鎧を貰えなかったのか」

「……」

「いや。サリパには、龍鎧を作る技術がなかったんだな」


 三十倍の兵力差がある敵を、余力を残して撃退しなければならないわけだ。


 そのためにはタケルが圧倒的な武を示し、デケン軍の心をへし折らねばならない。


「龍鎧は、龍の鱗と同じ防御力を持つ」

「……っ」

「俺を龍だと思って、かかってこい」


 タケルはおなじ『龍殺し』との戦いに、極限まで集中し。


 ただ無心に、悠然と拳を構えた。











「ほぎゃああああ!!」


 しかし、この時。


 この場にいる誰も、まだ気づいていなかった。


「ちょ、ちょ、何よコレぇ!?」

「その、恐らくは……」


 ほぼ同時期に、港町アナトで起きていた大事件に。


 サリパの犯してしまった、たった一つの致命的なミスに。


「あ、あ、あ、あのアホォ!! リシャリの大馬鹿ァ!!」


 同刻、港町アナトでは。


 ルゥルゥが頭を抱えて、絶叫している最中だった。



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― 新着の感想 ―
本気を出したタケル!  龍殺しさんがきっと、ミンチよりひでぇや! 状態になってる… 敵も味方もドン引きだ… そして、レヴィはきっと別の意味で戦慄してるw で、港町ではどうなったんよ?
とにかく!毎日の更新が楽しみで、読みたくてもどかしいです! 「俺」のことも、作家さんのことも応援しております。
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