表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/51

36話「ちょっとはサリパを、好きになってくれましたか」


「では盟約通り、ヤイバンへ侵攻を開始しましょう。サリパ王」

「おお、ありがとうございます。ジャルファ王子」


 ヤイバン主力軍がサリパに姿を見せた。


 この報告により、デケン帝国は重い腰を上げる決断を下した。


「軍の規模や詳細は、本土で話しましょう」

「了解しましたぞ」


 その決断に、国王(ちちうえ)や兄上たちも大喜び。


 ジャルファ王子と固い握手を交わし、その決断に感謝した。


 かくしてデケン帝国によるヤイバン併合作戦が、ついに実行に移されることになった。



「リシャリ姫、声を掛けても良いですか」

「ジャルファ王子!」


 その日の晩。


 ジャルファ王子は晩餐会で、俺に笑顔で話しかけてきた。


「ヤイバン侵攻の話は聞かれましたか」

「ええ。王子の決断に、感謝しておりますわ」

「私も貴女の力になれてうれしい。ただ、名残惜しいですがこれでお別れです。リシャリ姫」


 交渉が終われば、後は帰国するだけ。


 恐らく、俺がジャルファ王子と話す機会はもうないだろう。


「貴女との会話は楽しかった。……こんな情勢でなければ、もっと話したかった」

「光栄ですわ、ジャルファ王子」


 ジャルファ王子は名残惜しそうな顔で、俺の手を握った。


 少し残念な気分なのは、俺も同じだ。


 俺もジャルファ王子との会話は楽しかった。


 虫の話題にはかなり花が咲き、趣味も合う相手だと感じた。


 それが例え仮面(ペルソナ)を被ったジャルファ王子だとしても。


「いつかまた、装甲鳥(アーマーバード)の話に付き合って頂けますか」

「ええ、大歓迎ですわ」


 ジャルファ王子は最後まで、王子としての仮面を外すことはなかった。


 属国とはいえ、他国の姫である俺に弱みを見せることはなかった。


「さよなら、リシャリ姫。麗しの、サリパの王女」

「またお会いしましょう、ジャルファ王子」


 俺にとって初めて『腹を割って話せなかった男』ジャルファ王子。


 彼は別れ際、恭しく俺の手の甲にキスをした。


 ……美形なだけあって、とても様になっていた。







「不肖ながら、(それがし)が護衛の任につかせていただきます」

「またパウリック殿に護衛して頂けるのですか。これは心強い」


 国王とジャルファ王子はデケン帝国の馬車に乗り込み、朝一番に出発していった。


 二人は同じ馬車に乗り、パウリックに護衛されデケンに向かうらしい。


 馬車で中年のオッサン(ちちうえ)と二人きりは辛いかもしれないが、頑張ってくれ王子。


「……行ってしまいましたか」

「名残惜しそうね、リシャリ?」


 二人の出発は、サリパ王族総出で見送りをした。


 王子が去って少しだけ、残念な気分になる。


 馬車と護衛騎士が見えなくなったころ、気付けば俺は小さくため息を吐いていた。


「もしかしてー、リシャリはああいうのがお好み?」

「まぁ、そうですかね? 確かにもう少し、ジャルファ王子と話してみたかったですわ」


 結局俺に、ジャルファ王子の腹の内は読めなかった。


 ……だけど虫談議の時などは、心から笑っているように見えた。


 恋愛感情はないが、友人が去ってしまったような寂しさを感じたのだろう。


「ルゥルゥ姉上的には、どうなのです?」

「悪くないわよ、有能そうな王子だったし。ちょっと胡散臭いけど」


 ルゥルゥ姉上的にも、ジャルファ王子は全然アリらしい。


 少なくとも頭は良さそうだし、美形で武闘派という点でもお眼鏡にかなったらしい。


「ま、私らとは身分的に釣り合わないけどね」

「そうですわね」


 ただ、王子の婚約相手としては俺達は現実的ではない。


 俺も姉上も、属国の姫。デケン的には、田舎の地方領主の娘でしかない。


 側室はワンチャンあるかもしれないが、本妻扱いはあり得ないだろう。


「ま、これでまたいつも通りね」

「また社交界と稽古の日々が戻ってきますわ」


 ジャルファ王子が旅立ったということは、日常が戻ってきたということ。


 退屈な授業と、花嫁修業と社交パーティを繰り返す日々が戻ってくる。


「あーやだやだ。明日からまた忙しくなるわ」

「今日が最後のお休みですものね。姉上はどうお過ごししますの?」

「ジケイとお茶会するわ。あのサボり魔にしては珍しく働いたみたいだし、褒めてやろうかと思ってね」

「なるほど」

「アンタも来る?」


 実はルゥルゥ姉上とジケイ兄上は、とても仲が良い。


 天才同士で話が通じるのか、規則破り常習犯同士で気が合うのか。


 あのジケイ兄上も、ルゥルゥの前では甘えた言動をすることがあるのだという。


「ちょっと遠慮しておきますわ~」

「あ、そ」


 ルゥルゥとの時間は、ジケイ兄上にとってのガス抜きになっているのだろう。


 (おれ)が一緒にいると、存分にリラックスできまい。


 俺はこう見えて、空気が読めるんだ。


「じゃ、気が向いたら顔を見せなさい。じゃーね」

「お疲れ様ですわ、姉上」


 そして俺はジケイとお茶会に行くルゥルゥを見送った。


 姉上がお茶会をしているとなると、俺は暇になるな。


「では私は、久々に庭遊びでも……」

「おーい、リシャリ様!」


 なので、久しぶりに王宮の庭で遊ぼうか、と考えていた矢先……。


 ぱたぱたと、困った顔のメイドさんが駆け足で近寄って来た。


「リシャリ様に、面会の要請がございまして」

「私に?」

「それが、二人組の平民なのです」


 二人組の平民の面会要請があったという。


 俺に平民の知り合いなど、多くない。


「名前を出せば分かるから、繋いでくれと」

「はぁ、どちら様ですか」


 となると、その二人の正体は……。









「リシャリ殿下の、おなり!!」

「失礼しますわ」


 俺はドレスを整えて、王宮の客間へと足を運んだ。


 それは窓のあるお洒落な部屋で、白いクロスが掛けられたテーブルが設置されている。


 俺がメイドに囲まれて、優雅に部屋に入ると、


「ひさしぶり、おうじょ」

「あらあら、お久しぶりですわ!」


 周囲を王宮騎士に囲まれ、居心地が悪そうなベルカとルリちゃんが座っていた。


 面会を求める二人組の平民とは、やはり彼らだった。


「どうも、ご機嫌麗しゅう。お二人ともお元気そうで何よりですわ」

「……お前、本当に王女様だったんだな」

「どういう意味ですの」


 久々に会ったベルカは、相変わらず失礼だった。


 ギロっと王宮騎士が怖い眼をしていたので、俺は気にしてないと手を振っておいた。


「お二人は、どうしてここに?」

「ブユルデストでの功績を評するからって、呼び出されたんだ。さっき、凄い額の報酬を貰った」

「にいさん、柄にもなく緊張してた」


 話を聞くと、どうやら褒賞を渡すべく二人は首都に呼び出されたらしい。


 俺の口添えもあったからか、ベルカはそれなりの褒賞を貰ったそうだ。 


 人を誘拐しておいて、まったく良い身分である。


「貰えるものは貰っておきなさい。ちゃんと、部下の皆と分けるんですよ」

「無論だ」


 ただ彼らが、二年間もブユルデストを守り抜いた戦果は確か。


 俺の誘拐という罪を差し引いても、報酬を貰うに値する行動ではあった。


「あと(おのず)の部下たちも正規兵として、雇ってもらえることになった」

「ほほう」

「装備も支給してもらえるらしい。これが正直、一番助かるな」


 功績を認められたのは、ブユルデスト自警団の全員だった。


 ぶっちゃけ彼らは精鋭である、寝かせておくのは勿体ないからな。


「あと次の領主が決まるまで、自が代行してブユルデストを治めることになった」

「おお、ベルカが領主になるのですね」

「……一時しのぎだ。すぐ、他の貴族を遣わせるとさ」


 この国では、領地を持つという事は貴族になることを意味する。


 王宮騎士になったタケルは『貴族と同等の権威』を与えられているだけで、貴族ではなかった。


 龍殺しの功績で領地を与えられれば、初めて正式に貴族となる。


「正式な領主になれなくて残念ですか?」

「いや。正直、興味などないから助かった。(おのず)は戦うことしかできん」

「貴族になりたくないのですか?」

「故郷を守るためであれば、政治だってこなす覚悟はある。だが、自には向いていないだろう」


 領地の経営は、ただ戦う能力が高いだけではうまくいかない。


 ベルカ自身も、その辺の身のほどは良く知っているようで、


「恥ずかしながら、(おのず)は数字は苦手なのだ。予算経費だの、税収の計算だの、考えるだけで頭痛がする」

「気持ちはわかりますわ! すごーく面倒くせぇのですよ、あれ」

「お前は出来なきゃダメだろ、王族」


 まぁ、それはそう。でも苦手なもんは苦手だ。


「そういうのは、得意なヤツに任せればいい。自が首を突っ込んでも、足を引っ張るだけだ」

「ではベルカさんは、貴族になるつもりはないと」

「勘弁してくれ。……地方自警団の長が、なんで領地を貰わねばならんのだ」


 ベルカは本心から、そう言っているようだった。


 ……多分、そもそもが貴族嫌いの節があるのだろう。


「結局、今まで通り我々がブユルデストを守っていくだけだ」

「おきゅうりょうを貰えるようになったのは、うれしい」

「確かにな。装備に回す予算が増えたのが、今回の最大の報酬だ」


 ベルカに地位と予算を与え、そのままブユルデストを守ってもらう。


 その後、領地経営に関してはちゃんと後任の貴族を派遣する。


 まぁ、妥当な処置ではないだろうか。


「あー……、じゃあどうしましょうか」

「何を悩んでいる、リシャリ」

「いえ、ちょっと。いや、もう伝えちゃいますか」


 つまりベルカには、今後ブユルデストの防衛を一任するわけで。


 軍事機密ではあるが、彼には前線の状況を伝えておくべきかもしれない。


「ヤイバン軍の主力部隊が、ドラズネストに来ているそうです」

「む、何だと。ヤイバン主力軍というと、まさかレヴィグダードが?」

「そのレヴィグダードですわ」


 とりあえず、話せる範囲のことは伝えておこう。


 敵軍の動きだけなら、教えても問題にならんはずだ。


「ただレヴィグダードは、タケルに敗れたそうですが」

「ま、そうだわな。おかしいよなアイツ」

「タケルはすごいですわ。デケン帝国にも『龍殺し』はいるそうですが……。向こうで最少討伐人数は五人だそうです」

「当り前だ。というかデケンの『龍殺し』の称号って確か……」

「え、何かあるのですか?」

「いや。……まぁそうだな、教えぬ方がよさそうか」


 龍殺しの話になると、ベルカは少しだけ微妙な顔をした。


 何だ? 何か、俺が勘違いしてることがあるのか?


「何にせよ、タケルに真っ向勝負で勝てる奴は、この世には存在しない。そこは断言してやる」

「真っ向勝負では、ねぇ」


 そんなベルカの物言いに、少しだけ引っかかった俺は。


「真っ向勝負でない場合、ベルカさんなら勝てますか?」

「……タケルはあの性格で、言葉も通じるしな。手を選ばなければ勝てる」

「というと」

「アイツ、かなり騙されやすいタイプだろう」


 卑怯、汚い、卑劣の権化であるベルカなら、タケルはなんとか出来ちゃうらしい。


 そもそもルリちゃんの隠密能力が、タケルにぶっ刺さるだろうしな。


「ちなみにですけど。レヴィグダードの娘さんが、タケルに正面から喧嘩を売ったそうです」

「可哀想に。肉片も残るまい」

「ところがタケルの打撃に耐え、手傷すら負わせたそうで」

「……なんだと?」


 ただ、ヤイバンにもタケルに準ずる力の持ち主がいる。


 それを伝えると、何故かベルカはクスクス笑い始めた。


「ふふふ、そんな化け物がこの世に存在するわけないだろう! 馬鹿にするな王女」

「マジですけど」

「えっ」


 じゃあタケルは何やねん。


「冗談なしの、本当ですわ。レヴィグダードの娘には注意なさい」

「こ、心得た。この世にはおそろしいやつがいるもんだ」


 まぁ犠牲者ゼロで二年も防衛したお前も、そこそこ恐ろしい奴だけどな。


 タケルのぶっ飛び具合で、何か霞んで見えるだけで。


「タケルやロウガさんがそう負けるとは思いませんが。万が一があった場合、ブユルデストの防衛をよろしくお願いします」

「ああ、任された。言われずとも」


 そんな俺の頼みに、ベルカは力強く首肯した。


 彼の故郷を守りたいという気持ちは、信用できる。


「あと聞いていいか、リシャリ王女」

「何でしょうか」

「デケン帝国の動向はどうなっている? 動いてもらえるよう、打診はしているのか」


 あー、やっぱりそこを気にしてきたか。


 教えてやりたいのはやまやまではあるが……。


「さぁ、そっちは良く知りませんわ~」

「……。まぁ、分かった」


 ごめん。そこはさすがに国家機密なんで断言できないのよ。


 ベルカを信用していないのではなく、コンプライアンスに関わるからだ。


「おーっほほほほほほ」

「まぁ、(おのず)は仕事をこなせばよい。そういうことだな」

「そういうことですわ」


 俺の遠回しなリアクションで、ベルカも察してくれたっぽい。


 もしデケンが動かないなら、俺はベルカにはっきり告げただろう。


 聡い男は、微妙なアクションでも十分伝わるからやりやすい。


「今日はお二人の顔が見れて、ハッピーでしたわ。よければまた、顔を見せに来てくださいまし」

「ああ」


 彼に伝えるべきことは、この辺で良いだろうか。


 俺にできることは、あまり多くない。権力を使って情報を集め、適切な人物に伝えていくのみ。


 そして戦いが始まったら、タケルやロウガ、ベルカたちの活躍を祈るだけ。


「ベルカさん。ちょっとはサリパを、好きになってくれましたか」

「……お前が守る国、という意味で。守っていたくはなった」


 ベルカは去り際に、ちょっとだけ顔を赤くして。


「その、なんだ。色々あったが、リシャリ殿下には感謝している」

「ほう?」


 ぽつりと、そう呟いた。


「ありがとう」

「どういたしまして、ですわ!!」


 その後二人は正面から一礼し、部屋を去った。


 ……ベルカは、案外ツンデレ気質なのかもしれんな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ