表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/51

16話「このような感じが良いでしょ?」


「ぐぇっへっへっへ。大成功ですなァお頭」

「……ああ、ここまで上手く行くとは思わなかった」


 拝啓。お父様、お母様。


 貴方達の大事な末娘、リシャリです。


「にいさま。ほめて」

「ああ、ルリ。よくやったぞ」


 俺は今、男たちの前で肌を露わにされ、辱めを受けています。


 こんな屈辱は、人生で初めてです。


「さぁ、て」

「それでは王女誘拐を祝して、乾杯ー!」


 時刻は月が昇り切った深夜。


 俺はドレスは奪われ、簀巻きにされて猿轡をはめられています。


 賊どもは半裸姿の俺を肴に、見知らぬ平原で飲み会を始めてしまいました。


「うめぇー! 一仕事終えた後の肉は最高だぜ」

「あまり騒ぐなよ。警らに見つかったらコトだぞ」


 俺は食事というものは、椅子に座ってナイフとフォークで優雅に食べるよう教わってきましたが。


 賊どもは地面に座って串肉にかぶりつき、ゲップも屁も豪快にぶっぱなして、下品に笑ってメシを食べていました。


「これで、俺達の悲願が達成できる」

「……トントン拍子」

「まさか一発目で誘拐できるとはな。しばらくチャンスをうかがうつもりだったが」


 うー、油断したぁ……。まさか王宮内にまで賊が侵入していたとは。


 パウリックは何をやっとるんだ。俺に何かあったらどうするつもりだ。


 まさか俺に恨みでもあったのか……? いや、恨みはありそうだな。


「それでお頭、これからどうします? まだ首都ですることはありますか」

「……いや、ない。明日の朝、すぐに出発だ」

「りょーかい」


 他に仲間がいるかもしれんが、俺の見た範囲では賊は六名ほどだった。


 男が五人に女が一人。……女は年端もいかぬ少女だ。


 その中で『お頭』と呼ばれている長身の男が、中心人物らしい。


「予定は早く済むに越したことはない。馬の手配はできてるんだろうな」

「ぬかりなく」


 ……お頭は長い髪の男性で、目つきは鷹のように鋭かった。


 黒づくめの服を着ており、いかにも闇社会で生きてきたって感じだ。


「……何を睨んでいる、王女」

「むぅっ!?」

(おのず)は、視線には敏感なんだ。用がないなら、こっちを見るな」


 やることがないので賊を観察していたら、お頭に話しかけられた。


 他の賊が楽しそうにワインを呷る中、彼は警戒を怠っていないらしい。


「そりゃあ睨むでしょうよ、いきなり攫われたんだから」

「……ふん、王族が無能なのが原因だ。恨むなら愚かな王を恨め」

「たぶんこの娘は、何も知らないッスよ」

「何も知らぬまま、贅の限りを尽くしたことが罪なのだ」

「ま、そうっすね」


 話を聞いた感じ、この人たちはだいぶ王家へ恨みが強そうだ。


 国王(パパ)のやつ、何かやらかしたんかなぁ?


 知らんことが罪とかいわれても、どうしようもねぇよ。


「この王女の平和そうな顔よ。民の現状を知らず、さぞ呑気に生きてきたんだろう!」

「おい、殺すなよ。王女には生きててもらわねば困る、だろう?」

「……わかってるさ」


 幸いにして、賊どもに俺を殺す気はないらしい。


 王族や貴族は捕まっても、身代金で解放されることが多いと聞く。


 おとなしくしていれば、生きて帰れるかもしれん。


「殺さなきゃいいんだよな」

「むむむ!?」

「……一国の王女様とはいえ、服を剥いたら普通の女だ」


 そう思って安堵していたら、髭面の男がニヤニヤしながら俺に近寄ってきた。


 ぞーっと、背筋が寒くなった。


「噂通りの、美人なお姫様だな」

「むーむー!」

「せっかくの機会だし、ちょっと楽しむくらいはいいよなお頭?」

「むぅぅぅー!!」


 なんてこった! なんてこった!


 人質なんて生きてさえいればいいんだから……、好き放題される!?


 助けてタケル! 今すぐ来てくれ! ヤバいって、俺の外交的価値がなくなるって!


「……我らの目的は、女を攫って蹂躙することだったか?」

「だ、ダメか?」

「忘れるな。(おのず)は、悪党になるつもりはない」

「ちっ、お堅いねぇ」


 やべー状況にパニックになりかけたが、お頭は怖い目でゲス男を睨みつけ止めてくれた。


 どうやら、貞操の危機ではなさそうだ。


「でも、ちょっと胸を触るくらいは……」

「くどい。お前はそういうことがしたくて、(おのず)の同志になったのか?」

「……いや。すまねぇ」


 話を聞いた感じ、こいつらは身代金目当ての賊というより、信念もって行動してるテロリストっぽいな。


 どういう理由で攫われたのか聞いてみようか。内容次第では力になってやれるし、俺も無事に帰れるかもしれん。


「むーむむ、むむむーむー?」

「何言ってるか分かんねぇよ」

「むむむーむ、むーむむ」

「あー、お頭どうします?」

「ちょっと喋らせてやれ。どうせ叫んでも、誰も来ない」


 俺は何とか交渉できないかと、モゴモゴ猿轡のまま話しかけてみた。


 逃げたり、大声で叫んで助けを呼ぶ気はない。


 俺の体力では、賊から逃げ切るのは不可能だろうし。


「ぷはぁ。ふぅ、やっと話せますわ」

「初めまして王女様。無礼を働いて申し訳ありませんね」


 先ほどのゲス男が、ニヤニヤしながら俺の猿轡を取ってくれた。


 その眼にはまだ色欲と、わずかな嘲笑が浮かんでいる。


「いや、構いませんわ。誘拐されたのは、私がちょっとお間抜けだっただけですので」

「お? 思ったより冷静だな」


 ここで大騒ぎしても、何も事態は好転しない。


 それより、『会話を許してもらえた』ということを最大限活用しよう。


「助けてー、って泣き叫ばねぇの?」

「私が騒いでも助けが来ないから、猿轡を取ったのでしょう?」

「へぇ、肝が据わってるな。流石はお姫様ってワケ?」

「それよりもお願いがありますの」


 賊に攫われてしまったもんは仕方ない。


 俺にできるのは、助けを待つことのみ。


 とりあえず、差し当たって……。


「そのお肉……私も食べてみたいですわ!」

「え」


 腹が減ったし、交渉前に腹ごしらえするか。


 その庶民的で安っぽい串肉、俺も食べてみたいと思ってたし。






「うおおお、硬ってェ! ですわ」

「そりゃ、適当に焼いただけだしな」


 縛られた俺に、賊さんは串肉を差し出してくれた。


 ガブりと頬張ってみると、なかなか焦げ臭くて固い肉であった。


「でも、このソースは旨いですわね。ピリっとして」

「サルヴィソースっつってな。金のネェ貧民でも作れる、安いソースだ」

「美味しいですわ。硬い肉の食感ともよく合ってます」


 しかし、その硬く焦げた肉がなかなか旨い。


 チリソースに似た辛酸っぱいタレが、臭い噛み応えとよくマッチしていた。


「もう一口、くださいな」

「あー……。お前、人質の癖に厚かましいなぁ」

「厚かましいのは、王女を誘拐したあなた方でしょう?」

「違ぇねぇや」


 ふーむ、庶民飯というのもなかなか悪くない。


 王宮で出てくる肉はトロトロに煮込まれていて旨いが、こっちの方がワイルドで良いかもしれん。


「早く食えよ、持ち続けるのもダルいんだよ」

「面倒くさいなら、手だけほどいてくれません? 足縛られてるんですし、逃げられませんって」

「どうします、お頭」

「あー……。まぁ良いだろう、食事中だけな」


 王女スマイル(プリンセスマイル)でおねだりしてみたら、手の縄は解いてもらえた。


 ふぅ、これで普通に飯が食えるぜ。


「じゃあお隣失礼しますわ」

「……何故、ここに座る」

「何となくですわ」


 俺は縛られた足のまま、女の子座りでお頭さんの隣に腰を下ろした。


 マジかお前、という顔でお頭はこっちを見ているが気にしない。


 俺は腹が減っているのだ。


「むしゃむしゃむしゃむしゃ」

「……」


 それと、お頭の隣に座ったのは計算ずくだ。


 この男はさっき、俺がヤられそうになった時に助け舟を出してくれた。


 コイツの近くにいる方が、安全のはずだ。


「グェーップ。腹が満ちたりましたわ!」

「おいおい、ゲップしたぞ、このお姫様」

「あ、喉が渇きましたわ。飲み物も欲しいですわね」

「自由かこいつ」


 さらにお頭さんの隣に座っているのは、このグループ唯一の女子だ。


 俺と同い年くらいの「無口そうな女の子」が、困惑した顔で俺を見ている。


 斥候なのか、黒ずくめで身軽な衣装を着ていた。


「初めまして、お嬢さん。私はリシャリと申しますわ!」

「え、ああ、どうも」

「お名前を聞いてもいいですか」

「ル、ルリです」

「よろしくお願いしますわー!」


 俺は無口少女とあいさつを交わし、ニコニコと笑いかけてみた。


 堅物お頭と無口少女に挟まれることで、俺は安全に飲み食いが出来る。


 なんという冷静で的確な判断力なんだ!


「ルリさん、飲み物をいただけませんか」

「……。じゃあワイン、飲む?」

「頂きますわ~」


 無口少女におねだりすると、持っていたワインを飲ませてくれた。


 少女の持っていたワインは、かなり臭みと渋みが強かった。


 ワインは王宮の方が流石に旨いか。


「ふぅ~……。ありがとうございますわ」

「このワインはしぶいから、お肉といっしょにどうぞ」

「おお、なるほど。サルヴィソースの辛さで誤魔化すのですわね」


 ちなみにこの国ではワインを飲むのに年齢制限はない。


 この世界のワインはアルコール度数が低く、おそらく1%くらいである。


「グビグビですわ~!! 旨い、もう一杯!」

「……いいのみっぷり」


 そしてアルコールが含まれた液体は、雑菌が繁殖しにくいので水質が良い。


 ワインは昔からお酒というより、「安全な飲料水」という立ち位置だった。


 そんな歴史もあって、水の魔道具が普及した今でもワインは愛飲されている。


「あ、そうだ。せっかくなので乾杯しましょうよ、乾杯」


 そしてワインを酌み交わし、友誼を深めるのは交流の基本だ。


 俺は先ほど乱暴してきそうになったゲス男に、ニヤりと笑ってグラスを差し出した。


 その男は、ギョっとした顔で俺を見つめた。


「これは、祝いの席なのでしょう?」

「お前を攫うことに成功した祝いだよ!」

「つまり私が主賓と言っても差し支えないですわ」

「差し支えるわ!」


 適当に楽しく会話しながら、俺は男とグラスを触れ合わせた。


 ……これも、俺の安全を守るために必要なこと。


 見知らぬ他人に暴力は振るえても、知り合いを殴るのは抵抗ができる。


「王女と乾杯する機会など、めったにありませんわよ~?」

「ま、まぁ……。なんだこのお姫様は」

「さきほどご自身で言ってらっしゃったじゃないですか。王女だって一枚剝けばただの人間ですのよ」


 男と乾杯した後、俺は気持ちよくワインを呷って、


「貴方たちと同じように嬉しければ笑いますし、哀しければ泣きますわ」

「……」


 そうニコっと笑いかけると、賊は決まりが悪そうに顔を背けた。


 いいぞ、もっと罪悪感を感じるんだ。


「私を誘拐した実行犯って誰ですの? 女の子の声がしたし、やっぱりルリちゃん?」

「……ん、わたし」

「見事な手際でしたわ! すごいですわルリ、どうやったんですの」

「え、えぇ……?」


 そのまま俺は、誘拐実行犯ルリをよしよしと褒めてやる。いや、俺が褒めるのはおかしいんだけど……。


 賊とはいえ、人間だ。話が通じるならば、仲良くなれる。


 悪党であろうと、ひとかけらの良心が残っていることもあるだろう。


「え、と。その、きぞくのふりをして、潜入した。ドレスをきて、何食わぬかおで、ほかのきぞくグループの最後尾にひっついた」

「あー……、社交界の招待状って家単位ですものね。そっか、それでルリちゃんが潜入役でしたか……、小さいのによく頑張りましたわ!」


 俺には何の才能もないが、これまで王女として社交界で生き抜いてきた。


 これまで培ってきた社交スキルで、この窮地を乗り切って見せるぜ!


「……なぁ、王女様」

「何ですか、お頭さん」

「ずいぶんと明け透けな性格だが……。そんなんで、よく今まで噂にならなかったな」


 うぇーい! と、賊たち相手に乾杯して回っていたら。


 お頭さんが怪訝そうな顔で俺を見つめ、話しかけてきた。


「人前でゲップとか、王女様として許されるのか?」

「許されませんわ! さすがに社交パーティでは我慢しますわよ!」

「……ほう、じゃあ今は?」


 ちょうどよかった。お頭さんとも友好を深めたかったのだ。


 この男に気に入られたら、俺の誘拐ライフは万全なものとなる。


あなた達には(・・・・・・)このような感じが(・・・・・・・・)良いでしょ(・・・・・)?」


 そう言って、俺はにこやかにお頭さんにグラスを差し出した。


 どうだ、必殺の王女スマイル(プリンセスマイル)


「な、なんか王女様って思ったより話が分かるんだな」

「もっと高圧的な連中を想像してた」

「おもしろい、ひと」


 すでにグラスを交わした人からは、良い感じの印象を受けている。


 どや、これが俺の身に着けてきた社交スキルじゃい!


「お頭さん、見ればけっこうな美丈夫ですわね。御髪も艶があってきれいですわ」

「……」

「どうです、ちょっとお話でも────」


 男心も女心もわかるのが、俺の最大の武器。


 さて、このお頭とやらの真意を聞き出してやるぜ!


「今すぐソイツの口を塞げッ!!」

「!!?」


 俺が笑ってグラスを差し出した直後、お頭は怖い顔で俺を拘束した。


 ファッ!!?


「二度とコイツの猿轡を解くな! 腕も縛りなおせ」

「むーむー!」

「ど、どうしたんだお頭。いきなり血相変えて」


 お頭はそのまま俺をぐるぐる巻きにして、再び身動きを取れなくした。


 ナンデ!? ドウシテ!? アイエーーー!!?


「気づけ! この女は王族だぞ、何をほだされている!」

「え、あ、いや」

「たった今、我らはコイツの術中にはまりかけていたのだ!」


 お頭は憤怒の表情で、俺をキっと睨みつけていた。


 ……術中? って何?


「普通、攫った相手に好意的に接するはずがないだろう。こいつは我らの心の内側にスっと入り込んで、操ろうとしたのだ」

「……へ? い、いや、そんなまさか」

「まさかこの女に、気を許したヤツはいるまいな。……こいつの猿轡を解く前に、王族をどれだけ憎んでいたか思い出せ」


 ……。い、いや、俺はただ丁重に扱ってほしかっただけで。


 別に操ろうとかそういうつもりは……。


「ルリ、侵入手段を教えてやる必要なんてないだろ。うっかり口を滑らすな」

「あ、う。だまされかけてた、はんせい」


 お頭の一声で、賊たちの俺を見る目が恐怖に変わっていった。


 ち、ちゃうねん。


「……何が従順でおしとやかな無能王女だ。とんだ狸じゃないか」

「ま、マジか。この女、怖ぇ……」

「今後は許可なくこの女にかかわるのは禁止する。……危険すぎる」 


 『賊と仲良くなろう大作戦』を実行した結果、俺はお頭さんに危険視されてしまったようで。


 俺は顔に『触るな危険』という紙が貼られ、再びムームーとうなる事しかできなくなった。


 ……くそう。もうちょっとあのお肉食べたかったなぁ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ