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校舎の靴音【第一部】  作者: 翠川
第一章 あの秋の昇降口で

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第二話 教室の異変


 教室に戻ると、リツさんとイチさんが残っていた。

 二人ともメルさんと同じグループのメンバー。

 イチさんは口元にいつも意地悪そうな笑みを浮かべていて、

 リツさんは感情を表に出さない、冷たいタイプだった。


「トイレ行こっか」

 メルさんの一言で、三人は連れ立って教室を出ていった。


 私はその場に取り残され、静まり返った教室の空気を吸い込んだ。

 放課後の光が薄暗く、机の影が長く伸びている。

 胸の奥がざわついていた。


 やがて三人が戻ってきた。

 リツさんの目が、一瞬だけこちらを見た。

 けれどその視線には、感情がなかった。

 無機質な、まるで“確認”するような目。


 ――そして、始まった。


 メルさんが、リエさんの机の前に立った。

 あの活発で、はっきり物を言うリエさんの机。

 彼女は今日は部活で残っていると聞いた。

 つまり、ここにはいない。


「ねぇ、見てて」

 メルさんの声は軽い。けれど、笑っていない。


 靴のまま机に上がり、どん、と踏みつけた。

 その瞬間、鈍い音が響いた。

 イチさんが口角を上げて笑う。

「うわ、派手にいったね」

 彼女の笑い方は、いつも人を見下ろすようだった。


 リツさんは黙って机の中をあさり、教科書を一冊取り出すと、それをためらいもなくゴミ箱に捨てた。

 淡々としていた。まるで、何かを“片づける”みたいに。


 ――私は、動けなかった。


 喉がひゅっと鳴る。

 目の前で起きていることが、現実じゃないみたいで。

 夢みたいにぼやけて、思考が止まっていく。


「ねぇ、あんたもやる?」

 メルさんが振り返って言った。

「このリエに嫌なこと言われた時、あったよね?」


 ……ない。

 そんなこと、一度もない。

 でも、怖くて声が出なかった。


「……待ってる」

 やっと出た言葉が、それだった。


 三人は再び作業のように動き始めた。

 唾を吐きかける音がした。

 「きもい」「死ね」――そんな言葉が飛んでいく。

 感情が伴っていない、空っぽな声。


 私は、それをただ見ていた。

 膝が震えて、指先が冷たかった。

 怖い、怖い、怖い。

 でも、目を逸らせなかった。



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