2.六腕の巨影――星牢の檻に沈む
本編:―ゼロカオス-最強の相棒は異世界から!― ~異世界最強の死神が、現代アメリカの探偵の助手に!? 魔術無効化の力でカルト教団をぶっ潰す~のスピンオフ作品となっていますが、こちら単体でも楽しめるように書いていくつもりです!
こちらの更新は不定期です。
見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!
作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。
嬉しいからね。仕方ないね。
・前回のあらすじ
かつて神々が創造し、人族と魔族が争う大陸――アストレリア。
混沌と化した戦乱を終わらせるため、伝説の剣士ヘルメス率いる「国境なき騎士団」が魔王アル=ザラフの討伐へと乗り出す。
元は平凡な騎士団員だったフォル・ロードウォールは、飢えと絶望の淵でヘルメスに救われ、いまや彼の“紅の盾”として最前線に立つ。
一方、可憐な外見ながら圧倒的な魔力を誇る大賢者ルーシーと、俊敏な“猫耳娘”のマオも加わり、魔王城での決戦に挑むが、そこには幹部ミルゾラークの凶暴な六本腕が行く手を阻む。
再生能力を持つ怪物との死闘は苛烈を極めるが、ヘルメスを救うため、フォルたちはこの地獄の先へ進まねばならない――。
ミルゾラークの残り五本の腕が一斉に振り下り、激しい風圧が砕けた瓦礫や破片を吹き上げた。
俺は大盾を前に突き出し、どうにか受け止めようとするが、伝説級の刀剣が叩きつける衝撃は凄まじい。足元が床にめり込みそうになるほどで、腕が悲鳴を上げている。
「くそっ……冗談じゃねぇ力だな……!」
周囲では何本もの柱がへし折れ、石片が弾け飛んでいる。
頭上をかすめた空気のうねりから、さらに別の腕が斜め上から振り下ろされる気配を感じた。
間に合うか――と思った瞬間、横合いから突風めいた動きでマオが飛び込み、黒い剣で鋭く弾き返す。
金属の甲高い音とともに火花が散り、軌道を外れた刀剣が床を削った。
その一瞬の隙をついて、マオは懐へすべり込み、猛烈な連斬を叩き込んでいく。
「ナイス援護、マオ!」
多少なりとも余裕ができたおかげで、俺は大盾を押し上げて弾かれていた腕を押し返す。
しかし、巨体の攻撃はそれだけで終わらない。
六本の腕が横薙ぎに刀剣を振るい、まるで建造物ごと薙ぎ払おうとするような勢いで迫ってくる。
「フォルよ、まだまだこやつ……!」
杖を構えたままのルーシーさんが鋭い目でさらに上方を警戒する。
そちらを見上げれば、先ほどマオが切り落とした腕の断面に黒い膜がじわじわ広がり、骨と肉がすでに繋がり始めていた。
「ちっ……再生速度が速すぎる……!? ふざけんなよ……」
魔族の中でも上位の存在ほど再生能力が高い――そんな噂は聞いたことがあるが、ここまでとは予想外だ。斬り落とされた腕が即座に繋がりはじめるなんて、長期戦になれば確実にこちらが先に息切れする。
「ルーシーさん、あれどうにかできるか?」
盾の裏から怒鳴るように問いかけると、ルーシーさんは杖を高くかざし、瘴気を吸い上げるように魔力を急激に膨張させている。
瞳の奥にある紅い星の紋様がいっそう揺らめく。
「むむ……強力な魔法で一気に押し切るしかあるまい。わしがあやつを封じるから、フォルは大盾で耐えてくれ。マオが決めるんじゃ!」
古風な口調ながら、さすが大賢者。
判断が的確だ。
「わかった。マオ、あいつを一瞬で仕留めるぞ!」
俺は大盾を構え直し、声を張り上げる。
見ると、マオはすでに巨体の死角を取り、斬撃を入れるタイミングをうかがっているようだ。
「OK! 早くケリをつけないと、こっちが限界だしね!」
猫耳をピンと立てたマオが黒い剣を大きく弧を描くように振り抜き、ミルゾラークの膝裏をざっくり斬りつける。巨人が怒りの咆哮を上げ、膝を崩すのが見えた。
「今だ、フォル!」
マオの合図とともに、俺は大盾を振り上げて正面から突撃した。
六本の腕が同時に振り下ろされるが、ルーシーさんが横合いから魔力の奔流を叩き込んでくれる。
「繋がり合う星々の軌跡よ、
いまこの地に顕現し、逃れ得ぬ牢獄を成さしめよ。
いにしえの叡智の名のもと、
宇宙を巡る理の糸をここに集い、
闇より生まれる瘴気を呑み込みて、光の鎖へと変じよ。
瞬く星の導きこそ、万象を封ずる結界の礎。
わが理論に則り、いかなる魔力も逃すことなく――
星牢陣!」
ルーシーさんが高らかに詠唱すると、杖にまとわりついた紅い光が瘴気を呑み込むように増大していく。
夜空の星が線を結び、五芒星か七芒星を描くかのように、巨大な星型の結界が一瞬で展開された。
無数の光がミルゾラークの腕を絡め取り、その再生すら阻む威力が伝わってくる。
「うおっ、すげえ……今がチャンスだ!」
ルーシーさんが全力で魔力を維持してくれている間に、俺は大盾を構えたまま一直線に突っ込んだ。
鈍い衝撃とともにミルゾラークの腹部を打ちつけ、少しでも奴の体勢を乱すために押し込む。
「一気にいくよっ!」
マオが空中で一回転するように旋回しながら黒い剣を突き立てる。
しぶとい再生力を持つミルゾラークでも、今の体勢では何もできまい――刀身が巨大な胸板へ突き刺さると、血飛沫と苦悶のうめきが広間に響いた。
巨人が仰け反った瞬間、俺は大盾から手を離して剣を抜き放ち、思いきり斬りつける。
「これで終わりだッ!」
ずしりと重い手応えを感じ、マオの黒い剣と俺の刃が交差してミルゾラークの身体を深く裂く。
怒りの咆哮を上げたミルゾラークが再生中の腕を振り回そうとするが、ルーシーさんが結界をさらに捻じ曲げるように締め付けを強化する。
「さらなる星々の導きよ……わしに最後の力を貸せ!」
ルーシーさんは星型結界を維持しながら、その巨体の暴れをどうにか封じ込めている。
マオが剣を再度深く叩き込み、俺も剣を押し込んだ瞬間――
「ぬぐあああああっ……!」
凄まじい絶叫とともに、ミルゾラークの六本腕を持つ巨体が膝をつき、そのまま崩れ落ちるように倒れ込んだ。
轟音と血飛沫が床を染め、再生しかけていた腕も微動だにしない。
「っ、やった……勝った……!」
立ちくらみをこらえながら大盾を拾い上げる。
耳鳴りが残っているが、あの再生能力のバケモノもこれで止まったはずだ。
マオは荒い呼吸を整えつつ、黒い剣から血を振り払い、ルーシーさんは杖をついて短く息をつく。
「ふん……あれほど叩き込めば再生は無理じゃろう。どこまでもしぶとい奴じゃったがのう」
杖先にまとわりついていた赤い魔力がふっと消え、瓦礫の粉塵と焦げ臭い血のにおいが立ちこめる。
「マオ、大丈夫か?」
俺がそう声をかけると、マオは紫の髪に汗と土ぼこりを混ぜながらにっこり笑う。
「ボクは平気。フォル兄ぃこそ大丈夫? あんな怪力を盾で受けるなんて正気の沙汰じゃないって」
ぴくりと動く猫耳とともに、マオはいたずらっぽく尻尾を揺らした。
俺は大盾にもたれて肩を上下させる。
「なんとか助かった。ルーシーさんの魔法がなかったら絶対無理だったな」
するとルーシーさんが、少し口元を綻ばせつつ杖を優しく床に突いて言葉を発する。
瞳にはまだ紅い魔力の光が名残を残しているが、落ち着いた調子だ。
「ふむ……フォルもマオも、よう耐えたの。おぬしたちがいなければ、わし一人で追いつめるのは厳しかったじゃろう。見事な連携じゃったわい。ふふん、まずはその頑張りを褒めてやるとしようかのう」
珍しくルーシーさんに評価されて、マオが目を丸くして笑う。
「おお、ルーばあに褒められるなんて。嬉しいなあ♪」
尻尾を揺らすマオに、場の緊張がようやくほどけていく。
するとルーシーさんがわずかに杖を回し、辺りに散った魔力のかけらを集める。
「しかし、休んでる暇はないかもしれん。早うヘルメスを探さねばのう。すぐ無茶をするからのう……」
抜け目のない大賢者っぷりは相変わらずだ。
俺は大盾を立て直しながら周囲を見渡す。
倒壊しかかった柱や散乱する瓦礫から、まだ城が崩れてくる危険も捨てきれない。
「それじゃ、少しだけ体勢を整えてから先に進もう。傷だらけだけど、こんなとこで倒れたら洒落になんねえからな」
そう言うと、マオが剣を肩に担ぎながらにんまりと笑う。
「そうだね。こんな地獄で立ち止まってられないし、ボクたちで突き進もうよ。ヘルおじに褒めてもらわなきゃ!」
こうして、六本腕の怪物ミルゾラークとの死闘は幕を下ろした。
再生される前に仕留められたのは三人の連携と、ルーシーさんが詠唱した星牢陣の効果が大きい。
しかし、まだ魔王城の奥にはさらなる強敵が潜んでいるのかもしれない――そしてヘルメスが待っている。
俺たちは地獄の奥底へ、迷うことなく歩みを進めていくしかなかった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!
評価やブックマーク、レビューを頂くたびに、作者は嬉しさの余りサンバしてます。
マジです。
まぁ、そんな評価もらったらずっと踊り続ける事になるな。