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1.地獄の門を超えて――国境なき騎士団 vs 六腕の魔王軍幹部

本編:―ゼロカオス-最強の相棒は異世界から!― ~異世界最強の死神が、現代アメリカの探偵の助手に!? 魔術無効化の力でカルト教団をぶっ潰す~のスピンオフ作品となっていますが、こちら単体でも楽しめるように書いていくつもりです!


こちらの更新は不定期です。

見逃さないようにブクマだけでもしてもらえたら!

作者は(。≖‿≖ฺ)ニタァってしてます。

嬉しいからね。仕方ないね。

 アストレリア。


 かつて神々が創り、人族と魔族が入り乱れるこの大陸では、長らく戦乱が絶えなかった。


 その混沌を終わらせるべく、「国境なき騎士団」が立ち上がり、団長のヘルメス・アークハイドは“死神”と恐れられるほどの剣技を振るい、魔王アル=ザラフとの最終決戦へ赴こうとしている。


 燃え盛る村々、真紅に染まる空。日に日に激化する戦いの中、人々はただヘルメスの勝利を祈るばかりだ。


 ――だが、この死線をともに駆け抜ける者は、彼ひとりではない。


 フォル・ロードウォール。


 元は平凡な小さな騎士団の一員にすぎなかったが、父の死と故郷の喪失、そして飢えと絶望の淵で差し伸べられたヘルメスの手により、“国境なき騎士団”へ迎え入れられた青年だ。


 今ではヘルメスの副官として、あらゆる地獄をくぐり抜け、一騎当千の団長を支える盾となる――いや、なろうと必死に戦い続けている。


 重厚な大盾を携え、決意を胸に宿すフォルは、二つ名を“紅の盾”と呼ばれるほどの堅牢な守りを誇る。

「死神」とまで謳われるヘルメスの豪剣を支えるのが自分の役目。

 その責任をまっとうすべく、フォルは魔王討伐の最前線へと身を投じるのだった。


  ---


 燃え盛る村、赤々と染まる空。

 父の「生きろ……」という声が耳を離れない。


 俺の名はフォル・ロードウォール。


 かつて父が率いていた騎士団が魔族に蹂躙され、俺はあの夜、必死に逃げ延びた。

 飢えと疲労でうずくまっていた路地裏で差し伸べられた銀白髪の男の手――それがヘルメスとの出会いだ。


「どうせどちらに転んでも地獄ならマシな方を選ばせてやる」


 彼はそう言って、俺を拾い上げた。

 そのときの恩義と屈辱が、俺を突き動かし続けている。


 ---


「……フォルよ、起きんか!」


 誰かが頬をペチペチ叩いてくる。

 鼻を突く焦げ臭さと噎せるような熱気で、俺は現実に引き戻された。


 目を開けば、そこには小柄な大賢者――ルーシー・マクダウィルが立っている。


 淡いピンクの髪がふわりと揺れ、星のような紅い瞳に古めかしい叡智の光を宿していた。

 ドワーフの血が流れているらしく、本来なら体内にマナを蓄えにくいはずだが、彼女はそれを努力と研鑽で覆し、今や伝説とまで謳われる大賢者となっている。


 見た目こそ幼いが、その身からは圧倒的な魔力の気配が滲み出ていた。


「やれやれ、危ういところじゃったわい……」


 彼女が小さな手で俺の額を押さえ、大きく息をついた。

 吐息に混じる粉塵と硝煙の匂いで、ここが戦場だと否応なしに思い知らされる。

 辺りを見回すと、まるで隕石が落ちたかのように地面が抉れ、焦げついた土と魔物の骸ばかり。


「数秒ほど気絶しておったが、まだ立てるか、フォルよ?」


 杖を握るルーシーさんの瞳には細かな魔法陣が浮かび、周囲の魔力を探っているらしい。

 俺は肩の熱をこらえつつ答えた。


「……なんとか。肩は痛むが動ける。ルーシーさんこそ平気か?」


「わしも軽いかすり傷で済んだが……あのままおぬしが倒れておったら、爆発に巻き込まれていたかもしれんのう。やれやれ、ギリギリじゃったわい」


 互いに生き延びた安堵を噛みしめつつ、一瞬だけ言葉が途切れる。

 だが、終わりではない。

 焼け焦げた空気が、ここがまだ地獄の入り口だと告げていた。


 空を仰ぐと、不気味な暗雲が魔王城の上空を覆い、時折稲妻めいた閃光が城壁を照らす。

 ルーシーさんが杖を持ち替え、険しい顔で魔力の流れを探る。


「フォルよ、先刻の爆発で魔力が乱れたかと思うたら、今度は魔王城のほうから凄まじい波動が来とるわい。どうやら秘術が発動しておるかもしれん」


「ヘルメスは……もうアル=ザラフと戦ってるはずだ。俺たちも急いで合流しないと――取り返しがつかなくなってしまう」


 遠くから響く衝撃音や魔力の唸りが、時折静寂を引き裂く。

 崩れた城壁の亀裂から漏れる黒い瘴気は、生き物のように渦を巻いている。


「ちっ、ここでグズグズしている場合ではないのう。さあ、わしについて来い」


 ルーシーさんが杖を掲げ、クレーターの縁を軽やかに飛び越える。

 俺も痛む肩を抱えながら、必死に後を追った。


 ---


 魔王城へと近づく。


 燃え盛る瓦礫をかわし、崩れかけた石畳を踏みしめながら、黒々とそびえる魔王城を睨む。

 あちこちから吹き出す瘴気の流れは一段と強く、焼け焦げた血と土のにおいがむせ返るほど濃い。


「本当に平気か、フォル。痛みで動きが鈍ったりせんかのう?」


 ルーシーがちらりと振り返ってくる。

 普段は飄々とした口調だが、目には心配が滲んでいた。


「大丈夫……守らなきゃならないものがあるからな」


 路地裏の記憶――飢えと絶望の淵でヘルメスに救われた。

 あのとき感じた恩義と悔しさを噛みしめるたび、足が止まることはない。


 今度は俺が救う番だ。


「よろしい。ほれ、そろそろ城門が見えるわい」


 ルーシーさんが杖を振ると、わずかに瘴気が揺らぎ、奥から迸る閃光が一瞬だけ通路を照らす。

 その眩しさに胸の奥がざわついた。


「――持ちこたえてくれよ、ヘルメス」


 そう呟き、俺は裂けた城壁を一気に飛び越える。

 脳裏にはどうしてもあの路地裏の走馬灯がちらつくが、もう迷わない。


「どちらに転んでも地獄なら、マシな方を選ぶ」――あの銀白髪の男が示してくれた道を、今こそ切り拓くときだ。


 城の奥へ進むたび、空気がどんどん重苦しくなる。

 兵士たちがどこまで辿り着けたのかすら定かではない。

 別動隊がどこにいるのかもわからず、焦りばかり募る中、俺とルーシーさんは屍と崩れた瓦礫の間を黙々と抜けていった。


「むむ……この死骸ども、ただ斬られただけじゃなさそうじゃのう」


 ルーシーさんが杖の先で魔族の屍を軽く動かす。

 斬撃痕は明らかにヘルメスの剣筋だが、見るからに魂が抜かれているようで、どれも空っぽだ。


「ヘルメスにそんな芸当はない。誰か他の奴か……不気味だな」


 俺は大盾を握り直し、まるで地獄のような光景を睨む。

 崩れた天井や壁からはまだ熱が立ち上り、焦げた臭いが鼻を刺す。


「どうやらヘルメスはここを通り抜けたんじゃろう。魂を刈るような輩が先へ潜んでいるとすれば、厄介じゃのう」


 ルーシーさんの声には明確な警戒がこもる。


 そのとき、床下からズンという衝撃が走り、足元がびりびりと揺れた。


「何だ……?」


 見上げた先で、天井がバリバリと崩れ落ち、砂煙や瓦礫が滝のように降ってくる。

 慌てて盾を構えた瞬間、獣じみた咆哮が耳を突き破るように轟き、巨大な影が吹き飛ばされるように突入してきた。


「な、なんだあれは……!」


 六本腕の巨人――"魔王幹部"ヘカトンケイレスのミルゾラーク。


 どの腕にも伝説級の刀剣を握る圧倒的な体躯。

 その右腕に、黒い剣がずぶりと突き刺さっていて、剣にしがみつくように戦っているのは猫耳の剣士……マオだ。


 紫のロングヘアとやや褐色の肌、小柄でも軽妙な動きで“獣”のように巨体を翻弄している。


「マオ……!」


 一瞬のうちに、ミルゾラークは壁を砕きながら腕を振り回し、周囲に瓦礫をぶちまける。

 ガラガラと崩れた破片を盾で弾き、そちらを盗み見ると、マオが黒い剣を力任せに引き抜いたところだった。


「っらあああっ!」


 猛然と飛びかかったマオは、上へ跳躍しながら隣の腕を思い切り断ち切る。


 ぶちりと嫌な音がして血飛沫が舞い、巨大な腕が転がり落ちた。

 ミルゾラークが怒りの咆哮を上げてよろめく。


 その隙を逃さず、マオは瓦礫を蹴ってすばやく体勢を整え、俺の横へ滑り降りてきた。


「フォル兄ぃ、遅いってば! あんなバケモン相手にボク一人なんてムリムリ!」


 息を切らしながらも、一撃で六本腕を一本減らしたあたり、さすが突撃隊長だ。

 猫耳がピンと立っているのがマオらしい。


「おまえこそ無茶しやがって……助かったけどな」


 血を噴き出して暴れるミルゾラークを横目に、俺は肩の痛みをこらえて盾を構える。

 まだ五本の腕が残り、それぞれ刀剣を握っている。


「むむっ……まことしぶといのう、こやつ」


 ルーシーさんが小柄な体で杖をしっかり握り、先端には赤い魔力が渦を巻いている。

 周囲の瘴気を巻き込みながら、さらに光を帯びていくのがわかる。


「ルーシーさん、援護頼む。マオ、もう一度畳みかけるぞ!」


 俺は大盾を突き出して正面に立ち、マオが黒い剣を握りしめて身を沈める。

 ミルゾラークが怒りの咆哮を上げ、五本の腕を同時に振りかざしてきた。


「ボクがあいつの背中を狙うから、フォル兄ぃは正面で気を引いて!」


 猫耳をぴくりと立てたマオと、魔力を増幅するルーシーさん。

 血生臭い瘴気が城の内部を渦巻き、地獄さながらの光景が広がっている――それでも、もう後戻りはできない。


「くそ……行くぞ!」


 五本の腕が一斉に振り下ろされる瞬間、轟音とともに空気が揺れ、砕けた瓦礫が乱舞する。

 俺は盾を掲げて耐え、マオは獣のような跳躍で巨体の懐を狙い、ルーシーさんは杖を高く掲げて何かの大魔術を準備している。


 ――これ以上進めば、果たしてどんな地獄が待ち受けているのか。


 けれど、もう誰も足を止める気配はない。


「一刻も早くヘルメスを追わなきゃならない。ここでこいつに時間を食われている暇はない!」


 そう腹をくくったとき、再びミルゾラークが凶悪な咆哮を上げた。

 斬り落とした腕の断面が、黒い膜に包まれながらじわじわ再生を始めている――。


(やるしかない……!)


 大盾を突き出しながら、俺は歯を食いしばる。

 あまりにも絶望的な状況だが、マオの眼光もルーシーさんの瞳もまだ燃えている。

 助かった命を投げ出すような真似はできない。


 ヘルメスを救うため、この地獄を越えるしかないんだ。

 鼓動が耳を打ち、視界が爆炎で赤く染まるなか、俺たちの死闘は始まろうとしていた――。

最後まで読んでいただき、本当にありがとねぇ!

評価やブックマーク、レビューを頂くたびに、作者は嬉しさの余り盆踊りしてます。

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