第四十話 彼女のようなもの
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前回のあらすじ。僕は謎の空間に来てしまった。
「おおおぉぉぉーい!」
「誰かぁぁーっ! いないかーっ!」
「河野ーっ! いるのかぁーっ!!」
もう一時間はこうしてこの街のような場所を歩き回ってるけど、返事をする人はいない。
大した根拠なく河野がここにいるものだと思って彼女の名前も呼んでみるが、返答はない。
そのうち見覚えのある風景が見えてきた。うちの近所だ。
そして向こうに我が家が見えてきた。
築十五年、ごくごく一般的、見慣れた二階建て。
向かいにはちゃんと河野と山田さんが住んでいる家もある。
ニセモノだとわかってはいるけど、心のどこかで安堵する自分がいた。
それもあって反射的に走り出し、玄関の前に立つ。ここにあるものは金属みたいに硬くて、どうにも出来ない、それは理解してる。
「取り敢えず……」
玄関ドアのノブにそっと触れてみた。無駄と知りつつ回してみると、あっさりと開いてしまった。
「開くんだ……」
独り言を呟きつつ、ドアを開け中へ入ると当然誰もいない。
けれどリビングのテーブルの上にコーヒーとケーキが置いてあった。カップからは湯気まで立っている。
忘れもしない、河野が僕の部屋に来た時に母親が出したものだ。
「どういうことだ……」
一通り我が家の中を確かめて、今度は向かいの家、河野と山田さんが住む家へと向かう。
我が家と同じようにドアは開いて、中へ入る。どういうわけか河野がいる、そんな確信がどんどん強くなってきた。
「お邪魔しまーす」
一応靴は脱いでスリッパへと履き替え、リビングを覗く。誰もいない。
二階へ。
左右二つある部屋のうち、まずは右側のドアを開けると、そこに河野がいた!
ベッドに横たわり、目を閉じている。
「河野!」
まるで眠っているような彼女のそばへ近寄り、呼びかけてみるが反応はない。
鼻へ手を当てがう……息はしているようだ。
「おい、河野、起きてくれよ」
肩を揺するも、彼女はされるがまま。
「エッチなことしちゃダメだからね?」
「わあっ!」
急に耳元で話しかけられ、僕は飛び退いた。
「え、河野?」
そこには河野が立っていた。
「えっ?」
ベッドの河野と見比べるが、どっちも全く同じだ。
「いつも会ってるけど『初めまして』かな。そこに寝ているのが私の本体。私はね……そうね、河野文香の“魂”とでも言えるかな」
「魂?」
目の前の河野は変なことを話し始めた。
「本体が危機に陥ったらね、私がこうやって現れるの。自分を守るために」
「お、お前も河野で間違いないのか」
「そう言ってるじゃない。そしてね、ここは自分を守るために作り出した空間なの」
「作り出した?」
「正確にはこの家と君の家。この空間って入り込んだ者の意識を読み取って紛い物で再現するんだけど、その性質を逆手にとって本体は自分にとって馴染み深くて大切な家を作り出したわけ」
よ、よくわからないな。
目の前の河野は生意気な口調で続けた。
「理解できないって顔ね。まっ仕方ないけど」
「それで河野は無事なんだな?」
「もちろん。そうじゃなかったら私も消えてる」
「良かった……」
ホッとした僕はベッドへと腰掛ける。
「あなた、どうやってここに来たの? あ、瑛子姉さんかな?」
ここへ来る前。
テレビを見ていた人たちがおかしくなって、
それを治すのにイタチである王戸めぐみさんと一緒に家々を回って、
それが一段落した頃、空に突然現れた黒い太陽。
何かが空から降ってきた瞬間に耳元でした声。
『ごめんなさい。せめてあの子の元へ』
あれは確かに瑛子さんの声だったと思う。神の力、権能って言うんだっけ? それで僕をここに送ったんだ。
「河野に何があったんだ? 確か、敵の本拠地を」
河野の影武者であるエミリさんが言っていた。
『私達が日々アレらを始末するのに奔走しているのは、全体から見ればごく一部。今頃ね、文香は黒瀬君達と一緒に敵の本拠地を叩いてる最中よ』
「話すと長くなるから、それは元に帰ってからね?」
ウィンクする河野(魂?)。こんなこと河野はやりそうにない。
「それでいいけど、河野は目覚めないのか?」
「しばらくは、ね」
「どうやって戻るんだ?」
「うーん。この空間を作り出してる存在を何とかするしかないの」
「それは誰なんだ?」
「それがねぇ、よく分からないのよ。アレらとは違うのは確かだけど……」
アレら。
僕たちがいる宇宙へ侵略を仕掛けてきている異界の存在。
「どうして言い切れるんだ?」
「ふふっ」
河野(魂)が口を押さえて笑い出す。こんな仕草も河野はしないな。
見た目こそ河野なんだが、表情な仕草はまるで別人だ。
「何がおかしい?」
「だって君、本体に接する時と全然違うから」
「そ、それはそうだろう。お前は河野であって河野じゃないっていうか……」
「そういうものなのね。思春期の男子って興味深いわね。ふふふ」
「そんなことはいいから。この空間の支配者がどうして敵じゃないと?」
「それは簡単よ。何も攻撃してこないから。アレらの手の者だったら、間違いなく襲ってきてるわ」
「そういえばそうか」
あいつらはとにかく河野を目の敵にしていた。彼女があいつらを消す存在だからだ。
「だからこそ面倒なのよね。敵なら接触してくるだろうけど。居場所も全然わからないの」
「……そりゃ困ったな」
「でも君が来てくれた。私はここから動けないけど、君なら自由に動けるから」
「動けない?」
「私は本体から離れられないの。ね、お願いしていい? この空間の主を探してほしいんだけど」
可愛らしく頼んでくる河野(魂)。
「わかったよ。僕も早く戻りたいし」
「向こうでは何が起きてるの?」
僕は彼女に簡単に説明すると、河野(魂)は、顎に手を当てて何やら考え込む。
「そうなのね。私達は間に合わなかった」
険しい顔になり、河野(魂)は僕を見つめる。
「じゃあ一刻も早く向こうへ帰らないと。時間が経てば経つほど面倒なことになるわ」
「どんな?」
「あいつら、とうとう大規模に同化を始めたのよ。多くの人を贄にして、ね」
「贄……」
「その仕掛けを準備しているアレらの本拠地に私達が阻止しようとしたんだけれど、向こうが一枚上手だったのよ」
それを聞いて僕は足が地についている感覚が揺らいだ。
「そんな……」
「大丈夫よ。世界中にいる私達の仲間や各国の政府が連携しているから。アレらの目論見をそう簡単に実現させない」
「……」
動揺した僕を励ますように、河野(魂)は、僕の顔を手のひらで挟んだかと思うと、柔らかく微笑んだ。
「ほら、そんな顔しないで。まずはこの空間を出ることを第一に考えましょ」
本人じゃないとはいえ、河野にそんなことされてドキッとした。
「わ、わかったよ。とにかく探すことにする。お前は、河野は大丈夫なんだな」
「バイタルの心配はないわ」
「じゃ行ってくる」
「頑張ったら私がキスでもしてあげる」
「な、いらないよ!」
揶揄う河野(魂)と眠っている河野に別れを告げ、僕は街へと走り出した。
疲れも感じないし、なんなら喉も乾かない。
河野の生みの親、柚木さんの言葉が頭をよぎる。
『霧丘君、あなたの外側も内側も見かけ上は変化しません。ただ……』
『ただ?』
『遺伝子的に見て“人間”ではなくなります』
改めて自分の変化を感じることになり、何ともいえない気分になる。
けれどそんなことを気にしている場合じゃない。
ここを早く出ないと。
そのためにもこの空間の主を探し出さないと!




