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後ろの席の美少女(プレデター)に恋をする  作者: はるゆめ


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第二十六話 望んでいた非日常

 昭和のいつか。どこかにある街。季節は冬(僕らは冬休み)。


 前回のあらすじ。高野の山田さんが隣に引っ越してきて、招かれてしまった。


「さ、入って入って」


 河野がにこやかに玄関ドアを開けると山田さんもニコニコして立っていた。


「いらっしゃーい。さ、上がって」

「お、お邪魔します……」


 僕は隣家に入ったことないが、まるで新築みたいだった。確かこの家も我が家と同じで築二十年ぐらいなんだけど……。


「さ、どうぞ!」


 リビングに通され、ソファーに座るよう河野に促され、僕はそっと座った。


「ようこそ。霧丘君、寛いでねー。コーヒーでよかったかなー?」

「あ、はい。コーヒー好きです」


 河野は当然のように僕の隣へ、山田さんは僕の前に腰掛ける。

 部屋を見渡すと家具らしいものはほとんどない。僕が座っているソファーとテーブルだけ。


「あ、気になる?」

「あ、いえ」


 山田さんが人懐っこい笑顔で聞いてきたので僕は慌てて誤魔化す。


「君の警護のための家だからねー? 自室にしか荷物はないんだよ」


 やっぱり山田さんは僕の視線に気付いていた。


「山田さんの部屋にはマンガがいっぱいあるんですよ。それとビデオデッキ。テープもたくさん」

「にゃははー。私はマニアだからね」

「そ、そうですか」


 山田さんの変な喋り方に納得した。この人、アニメマンガマニアなんだ。うちのクラスにそんな女子がいるから何となく想像がつく。


「さて。真面目な話をちゃんとしておこうかな」


 すっと山田さんの雰囲気が張り詰めた感じに変わった。


「は、はい」

「私らが相手してるのはね、エレボスと名付けた邪神の分身や眷属なんだ。ここはいい?」

「はい」


 河野と一緒に飛ばされたあの異界で見た化け物達。同じ存在が僕が住む街にもいる。


「でね、正直に言うと最初はあいつらのことを感知できてたんだ、私達も。でもいつからかそれができなくなった」

「……」

「逆にね、あいつらは私達のことを察知できるから、不利なんだよね」

「……」

「こっちにもね、嗅覚が鋭い種族の人もいるんだけど、人数がそこまでいなくて。だからね、柚木ちゃんが……、あ、わかるよね?」


 あの家で出会った河野の生みの親って人。


「わかります」

「その柚木ちゃんがあいつらを嗅ぎ分ける存在として文香ちゃんを産んだのよ」

「産んだ……」

「人間の出産とはちょっと違うやり方でね。だから文香ちゃんは匂いであいつらに気付けるんだ」


 僕は思わず河野に振り向いた。


「霧丘君、あの異界で最初に出会った姉妹がいたでしょ?」

「あ、うん」


 ホウとカーノン、人喰い姉妹。


「あの小屋に入った時に上手く消していたみたいだけど、あの姉妹からもね、ほんの一瞬だけ匂ったの。彼らの放つ独特の匂いが」

「え、そ、そうなんだ」


 あの異界へ飛ばされた時、すぐに河野はこう言っていた。


『北尾君とかね、アレらと同じ匂いが漂ってる』

『私の嗅覚はすごいんだよ。ここまで匂いが濃いってこと、地球じゃありえないからね』


 そしてホウとカーノンを倒した後に河野が言ったことを思い出す。


『ここで旅人とかを泊めて食材にしてたのね。出会ったばかりの私達を無警戒に泊めようとしたり、立派な寝具が用意してあるから、そんなことじゃないかなって』


 それを河野に言うと、彼女は頷きながら教えてくれた。


「うん。だから確信できたんだ。すぐにね、霧丘君を守らないと! って思ったの」

「あ、あの時はありがとう。結構怖かったよ」


 僕は何度も河野に助けられている。それを思えば、今こうやって河野に両手を握られていることを無碍にはできない。


「良い雰囲気だねー。お姉さん、ちょっと妬けちゃうよ」

「あ、べ、別にこれは」


 僕は河野に握られていた手を離そうとする。でもしっかり掴まれていてそれは叶わなかった。


「にゃはは。いいよ霧丘君、照れなくても。それでね、私達がここへ越してきたんだ」

「そうだったんですね」

「あいつらに目を付けられて、その上普通の人間である霧丘君が一番危ないんだよ」


 目を細める山田さん。


「は、はあ。そうなりますね」


 だから僕はあの黒薔薇に攫われた。


「あとね、これを渡しておくね」


 そう言って山田さんが小さなお守りを手渡してくる。


「お守り?」

「うん。肌身離さず身につけてほしいな。その中に私の毛を入れてるから、どこにいても君の居場所がわかるようにしてるから」

「え? 毛? か、髪の毛とかですか?」

「にゃはは。違う違う、体毛だよ」

「体毛?」


 山田さんの目、それが明らかに動物の目に変化した。それに僕は心底驚く。


「ほら、私は狐だから」


 すっと元通りの目になった山田さんが微笑む。改めて目の前に座る可愛い女子は人間じゃないんだって実感した。


「私達はね、ずーっと昔からこの辺りに住んでるんだよ」

「そ、そうですか。すみません、その辺僕、何も知らなくて……」

「あっははは。普通は知らないことだから!」

「あのね、霧丘君、他にも色んな人がいるんだよ。えっとね……」


 河野が説明してくれた。そうか。世間一般の人が知らないだけで、日本、いや地球には様々な種族の人が昔から住んでいるんだ。


「最初に異界へ飛ばされたのも黒瀬君と瑛子ちゃん、それに猫の子と人間の男の子だったんだよ」

「確か黒瀬君はこれが二度目だって言ってました」


 異界にいたのはつい二、三日前。でも随分と前のことのように感じられる。


「山下さんと(みどり)さんって人達で、隣町に住んでいますから、霧丘君も会う機会あると思う。瑛子さんの家で」

「そ、そうなんだ」


 山田さんが立ち上がり、僕の肩に手を乗せて口を開いた。


「だから安心して暮らしてくれたらいいからね? 私と文香ちゃんが二十四時間体制で君を見守るから」

「あ、ありがとうございます」


 僕は思わず頭を下げてると、山田さんは少し申し訳なさそうな顔になった。


「お礼を言われることじゃないよ。君を巻き込んじゃったのはこっちだし」

「ごめんなさい」


 謝ってくる河野を見て僕は固まってしまう。違う。違うんだ。


「河野が謝ることはない。あの夜に出会ったのは偶然だ。事故だ。だから僕は気にしてないよ」


 河野は一瞬キョトンとした後、はにかむような笑顔を浮かべた。


「オッホン」


 そうやって河野と見つめ合っていると、山田さんが咳をする。


「霧丘君も黒瀬君や山下君と同じだねぇ。動じないっていうか、受け入れちゃう。マニア気質の男子って皆んなそうなのかな?」

「あ、はい」


 思わず返事が口から出た。

 山田さんに指摘されて改めて思い返す。

 僕がSF小説や映画を好むのはなぜか。

 そうだ。

 心の奥底で今のような事態を望んでいたのではなかったか?


「どうしたの?」


 河野が僕の顔を覗き込む。


「あ、いや何でもないよ。ちょっとね」

「じゃあ霧丘君、文香ちゃんの部屋に行く? 二人でごゆっくり〜」

「え? あ、いや、か、帰ります」

「おやおや〜? 遠慮しなくていいよ」

「じゃなくて、ちょっと考え事したいんで」


 僕は逃げるように自室へと戻った。母親の『あら? 早かったのね」と言う声を聞きながら。

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