第十九話 普通の男子高校生にはきつい
昭和のいつか。どこかにある高校。季節は冬(僕らは冬休み)。
前回のあらすじ。僕は人間じゃなくなるらしい。
「え、えっともういいですか? 具合が悪くて……すぐ家に帰りたいんですけど」
僕は柚木さんに頼み込んだ。恥ずかしくて死にそうだし、とにかくここから逃げ出したい。
そんな僕の気持ちを察してくれたのだろう、柚木さんは柔らかく笑いながら頷いてくれた。
「じゃ家の近くまで送るね」
山田さんは笑顔のまま僕の目を覗き込みながら瞬間移動をしてくれた。
目の前の景色が見慣れた住宅街、その一角にある公園に変わる。林の中だ。
羞恥心に押し潰されそうになっていた僕は、木漏れ日の中で思い切りため息をついた。
「はぁ〜ぁ。まいったな」
「ごめんなさい」
「わっ!」
「えっ?」
振り向くと河野がそこにいた。
「何でついてきたの?」
「え、霧丘君が心配だったから」
「あ……具合が悪いってのは体調じゃなくて、それも少しあるけど、恥ずかしかったからだよ」
「……そうなんだ」
「その、僕は、彼女なんていたことないのに、その、あんなこと言われたらさ」
河野は俯いてしまった。言いすぎたかな。
「あ、いや、河野が嫌いとかそんな話じゃなくて」
すると小さな声で河野が話し始める。
「昨日ね、お母さんにすごく叱られたの。現場を見られたとはいえ私の素性を明かしたり、その後山本君の家にまで着いていったこと」
今では少し懐かしく感じるあの夜のこと。
「霧丘君があの世界へ飛ばされたのは、私のせいだって。うん、そうだよね」
河野の肩が僅かながら震えている。
「改めて。本当にごめんなさい」
「あ、いや、その、色々あったけど、結局は無事に帰ってこれたし、まぁ向こうでの出来事も普通に暮らしていたら絶対経験できなかったし」
これは本音だ。
「僕はさ、自分じゃどうにもできないことをあれこれ悩むのは中学生の時にやめたんだ。だから受け入れるよ」
顔を上げる河野。今にも泣きそうな顔をしている。
「僕がいいって言ってるんだ。河野もあまり気に病むなよ、な?」
「う、うん。あ、ありがとう」
確かに河野は不思議生物だが、あの世界で僕を守ってくれた。移植にしたって怪我の治療のためだ。
「じゃ、帰るから」
「うん」
「またな」
そう言って走り出した僕は家へと急いだ。柄にもないことを言ったのでまた恥ずかしくなったのだ。
ちなみに公園にいた僕と河野を向かいのおばさんに見られ、その夜には母親に尋問されることをこの時はまだ知らなかった。




