第十七話 フラッシュバック
昭和のいつか。どこかにある高校。季節は冬(僕らは冬休み)
「山本君から電話よ! ほら早く起きなさい」
いきなり母親に叩き起こされた。
時計を見ると九時。
ちくしょう、山本め。ゆっくり寝かせてくれりゃいいのに。
夢を見たはずなのに覚えていないなと思いながら階段を降り、電話の受話器を掴んだ。
「なんなんだよ、朝っぱらから」
わざと不機嫌に言ってみる。
「冬休みだからって寝すぎだろ」
電話の向こうの山本は悪びれてない。
「それよりさ、河野と付き合うようになったことを教えろよ」
「はぁ?」
何を今更と思った僕はハッと気がつく。異界へ飛ばされ、数日過ごしてから帰ってきたから随分と前に感じるけど、山本にしてみれば僕と河野が山本の家を訪ねたのは“昨夜”のことだ。
「だから偶々だって。途中で会っちゃって」
「それがなんで俺の家に一緒に来ることになるんだよ」
痛いとこついてくる。
「それは、まぁ、あれだ。夜道を女子ひとりにできないだろう? だからお前ん家の後、彼女を家まで送ったんだよ」
「お前さ、そんなに河野のこと気にかけてたのか?」
「夜道だぞ」
「霧丘らしくないが、一応筋は通ってるな」
ぐっ。
「だ、だってさ、前にもうちの高校の女子が変質者に襲われたことがあっただろ」
「そういやあったな、そんなこと。三年の女子だったか」
ホームルームで女子生徒に注意喚起がされた。
「だから一緒にって言ったんだよ」
「霧丘の方から?」
「そうだよ」
「へぇ。河野に惚れてるのか?」
「ちっ、違うって」
「あいつ可愛いもんな。お前よく河野のこと見てるし」
なに?
「べ、別に見てないって」
「そうかぁ? 良い雰囲気だったぞ、お前ら」
「山本が想像力豊かなだけだ」
山本、結構色々と見てるな。
「で、そんなこと聞きたいから電話してしてきたの?」
「そりゃ気になるよ、霧丘。そろそろ忘れることができたか?」
思わず受話器を持つ手に力が入る。
今の今まで忘れていた“あのこと”。
心の奥底から這いずり上がってくる記憶。
───俺を囲む女子達。
───『霧丘君、あの子のこと好きなんだ?』
───そんな顔して俺を見るな。
胸の痛みとセットの思い出。
今の僕なら平気なんだ。
中学生の頃とは違う。
もう彼女らはいない。
いない。
よし。もう平気だ。
「おい、やっぱり……」
「……ううん。もう大丈夫だ」
「そうか。まっ、新しい恋頑張れよ。相談からいつでも乗るぞ」
「だから河野はそうじゃないって」
「そうかそうか。じゃあな」
受話器を置くと同時に玄関のチャイムが鳴る。
「おはようございます。河野です」




