01
美しいだけの人間だった。
白銀の髪に、翡翠色の瞳。
美の女神の化身と言われても、反論もなく納得してしまうほどに整った容姿。
周囲は私の容姿を愛していて、そばを囲む誰もが、あなたはそこにいるだけでよい、と言った。
あなたは何も考えなくてよい、と。
けれど、そんなわけがなかったのだ。
だって私は一国の王女で、城下には貧困に喘ぐ民がいて。私はそれを知っていながら、何もせずに、ただ、王女として生きていた。
だからきっと、あれは私に相応しい終わりだったのだと思う。
悪でしかなかった私たち王族を滅ぼす革命のとき。
私が最期に見た顔は、両親が無理矢理婚約を結んだ、見目の整った正義の騎士などではなく。
正義の皮を被った裏切り者であったのは、ーーーきっと、私の業の結果なのだ。
*
「どうしたの、マリアベル」
立ち止まって遠くを見る私に、友人のミレーヌ・オルファットが首を傾げる。
「ううん。なんでもないの」
にこりと笑みを浮かべて問いをかわし、視線を元に戻す。
私が見ていたのは、アンセルス城。我がアンセルス王国の中心、王の住まう城である。
機能性を重視した城は、装飾を必要最低限しか施しておらず、実直で誠実な、国民に愛される王族の性格を表しているかのように見える。
けれど、実はこのアンセルス城は、今からほんの11年前に建てられたものなのだ。
11年前、そこにあったのは、贅の限りを尽くした、まさに見た目だけを考えたかのような宮殿であった。
そこの主だった者たちは既にいない。その理由は、今の王が主導した革命軍に、みな滅ぼされたからである。
彼らの滅びは当然だったと人は言う。
当たり前だろう。だって、彼らは国民を虐げることしかしていなかった。自らの豊かな暮らしのために、国民から奪うことしかしていなかった。
国を富ませようだとか、他人を救おうだとか、そんな考えは一切なく、ただ自分たちのためだけに生きていた。
だから、彼らの滅びは当然だったのだ。それが、国と共にあるものか、そうでなかったか、ただそれだけの違いである。
そして、その違いが後者であった現実の正しさを、私たちは歴史の中で、そして自らが享受している生活の中で知る。
なぜなら、前王族の時と違い、民が笑っている。 一部の者だけが嗤っていたあの時代とは異なり、富ある者も、貧しい者も、強き者も、弱き者も、明日がどうなるかと、明日も生きていけるかと、そんな恐怖を抱かずに笑えている。それがどんなに得難いものだったのかを、私たちは大人から何度も何度も言い聞かせられて育ってきた。
だから、彼らの滅びは正しかったのだ、と。神様は、我々を見捨てていなかったのだ、と。
だけど、それならばなぜ、と私は思うのだ。なぜ、神様は、『私』にもう一度生を与えたのだろう、と。
ーーーフィオレンツィア・ディード・カルム・ルリアルツ・ジャン・アンセルス。
それは正義に滅ぼされた美しいだけの愚かな女の名前であり、かつての私の名前である。
既に公開している短編(同タイトル)の連載版です。