因縁の相手
「あら……あのおしゃれお髭、見覚えがあるのだけれど、どなただったかしら……あんっ、でもダーリンが一番ステキよ!」
「たりめぇよぉ、クルルたん!クルルたんが覚える男は……俺だけでいい……!」
「やんっ、ダーリンのその嫉妬心満載なトコ、好きよ!私、ゾクゾクしちゃうっ!」
「俺はムラムラするぜ……っ!」
「だから子どもの前でムラムラとか言わないでくださいよ!ロイさん!アリシアちゃんがクルルさんの後ろにそっと隠れましたよ!?シモのネタは控えてください!また聖女に嫌われますよ!?それとクルルさん、彼こそがフローライト王国の勇者ロドリゲスさまですよ」
いや……アリシアが隠れたのは……。
「あら、そうなの。お髭の勇者さんね」
でもクルルたんのその覚え方、萌えっ!
「その覚え方はどうかと思いますけど……でも何故ロドリゲスさまがこちらに……冒険者の登録をされていらした……とか?」
いや、いいだろうがよ、ダニエル!クルルたんめちゃ萌えだろうが!
そしてダニエルの問いに、ロドリゲスが口を開く。割りとサービス精神旺盛なんだろうか。
「私はフローライト国王陛下より特別な地位を与えられた名誉騎士だ。なればこのようなならず者の集まりなどには参加せん」
ずいぶんな言い種だな。たとえ国の英雄さまであろうが、先ほどの発言のせいで周りの冒険者たちが殺気立ったのが分かる
まぁ、国家権力が上乗せされた勇者相手に喧嘩は吹っ掛けてはこないだろうが。
「さて、ドラゴニアの勇者ロイ」
「あぁ、俺は冒険者もやってる勇者のロイだが、何の用だ」
「相も変わらず、少しは国のため、世界のためになることをしようとは思わぬのか」
「冒険者だって国や世界のために働いてんだろー?」
「私が言っているのは、勇者としてだ……!」
「あー?嫌に決まってんだろ?タダ働きじゃねぇか、そらぁ。俺を働かせたきゃ、金持って来い。正規でギルド通して指名依頼だしゃぁ、気が乗っていれば受けてやんよ」
「うわぁー……しかも気が乗ったらなんだ……。そうですよね。アンタそう言うひとでした」
「たりめぇだろ。ラブホに行きたい時に来られても俺ぁ行かねぇぞ……!ラブホ行くぅ……っ!」
「……最低だ」
「はぁ……やはり何十年経っても変わらぬものは、変わるまい」
そう言うとロドリゲスは、腰につけたマジックポーチの中から、ロドリゲスの顔の大きさほどありそうなパンパンな金貨袋を取り出した。
「何だそれは」
いや、金入れる袋なのは分かっちゃぁいるが。
「中には袋一杯に白金貨が入っています」
「いや、今時現金かよ。現金もいいが、電子でよくね?」
かさばるし、マジックボックスの中身は無限大だが、数えるのが面倒くさいから、やっぱ電子のが楽。
なお、硬貨風呂は素晴らしいが、クルルたんのすべすばお肌に傷が付くのは勘弁。だから俺はカジノで積み上げる以外は割りと電子派である……!
「……つーか、んなもん掲げて何だってんだ」
「お前の好きな金を払う。電子がよければ電子で送金しよう。だからその聖女を渡してもらおう」
「ひぇーっ!?ちょ、ロイさんったら……!完全に手の内知られちゃってるじゃないですかぁ……しかもすごい大金を……」
「やだ……っ、子どもを現金と交換なんて恐いわねぇ」
「あ……ほんとだ……!アリシアちゃん、お兄さんたちが付いてるから!大丈夫ですよ~~!」
「……うっわ、ロドリゲス、お前……。最低」
アリシアなんて完全に白い目向けてんぞ、お前に。
「ち……違う……!別にこれで聖女を買おうとしている訳では……っ!聖女さまをお助けするための正当な取引で……っ」
「ぼかして言うなよ。人身売買ー」
「妙な言いがかりをつけるな……!これは……貴様への指名料を加えた依頼料だ!金ならいくらでも、これ以上でも払おう。勇者ロイ」
「……」
「ここまで聖女さまを送り届けた貴様への、報酬だ」
「……なるほど?」
「受け取るがいい」
ロドリゲスが白金貨の入った袋を突き付けてくる。
ふん……っ。
「やだね……!」
「は……?」
「悪ぃが依頼は先着順。きっちり報酬ももらっている以上はそちらが優先だ」
アリシアから受け取ったペンダントをさっと示せば、ロドリゲスの目が険しくなる。
……ふぅん。見覚えがあるとでも言いたげな表情をしやがる。
「あと、おめぇからの依頼を受けた覚えもなけりゃぁ、受ける気もねぇよ」
「どうしてもと、申すか」
「たりめぇだろ?少し考えれば分かるこった。フローライトにも勇者がいんのに、何でそいつを頼らず、アリシアがドラゴニアの勇者を頼ったのか。子どもってのは、大人が思う以上に敏感なんだよ。だからこそロリコンをロリコンだと察知することもあらぁ」
「いや、いつまで引っ張るんですかそのネタぁっ!あと、私はロリコンじゃありませんから……!」
後ろでダニエルが何か叫んでいるが……まぁいい。
「何を言いたいのか……」
「お前は変わんねぇな」
「……それは、あなたもだ。あなたもこの世界出身の勇者だ」
「だから何だ?」
「この世界出身の勇者の扱いや、処遇をどう思われる……っ!」
「……別にどうも」
どう生きるかは、勇者それぞれの自由だ。加護を与えるか否かは神の決めること。
だが勇者の扱いを決めるのは、神じゃない。お前たちだろう……?
「そうやってあなたは……ずっとはぐらかしてきた」
「……ずっと?」
「私は、フローライト王国の勇者として名乗りを上げた折、ドラゴニアの勇者に勇者の教えを請いに伺った時も……あなたは私など相手にもせず、眼中にも入れず……昼間から夜の街に消えた」
そらぁ夜の街って言わなくね?まぁ、色街のことだが、昼間から楽しめるとこもあるからな。
「いや、アンタ相変わらずオトナのアソビバ大好きですよね!?ん……?あれ……ロドリゲスさまって、勇者の名乗りを上げたのって12かそこそこの年齢だったと聞いたんですけど……それって30年くらい前では……?ロイさんって見た目20代後半……」
「やぁねぇ、ダニエルちゃんったら。ロイはミックスではあるけれど、竜族の血も濃いから見た目はあぁだけど、寿命も竜族寄りなのよ」
「うええぇぇっ!?じゃぁロイさんって今何歳なんですかぁっ!!?」
「えー?150」
「ひゃ……、ひゃくごじゅ……っ」
「今までのこの世界出身の勇者にはなし得ない冒険者としての偉業の数々。私はその技を学ぼうと考えた」
「知らねぇよ。勇者とは言え、ただのヒト族が竜族の技なんて継承できっかよ」
聖剣だって折れんだぞ。
「そんな力を持ちながらも、あなたは世界のために、勇者として旅立つことも、教えを授けることもなかった……っ!!」
「何で旅立つ必要があんだよ」
旅費も出ねぇし、あと竜族は引きこもり体質だから滅多にドラゴニアから出ない。あと……旅先にラブホがあるかどうかも重要だろ。クルルたんとやりたい時にやれないのは勘弁な……っ!!
「ならばせめて教えを……」
「やだね」
「これだから……っ、貴様など……っ」
ロドリゲスが長年の狂気と憤怒に満ちた睨みを向けてくる。
「あん時俺が言ったこと、忘れたか?」
もうウン十年前の話だが。
「忘れるはずもない……!あの屈辱だけは……っ!フローライトの勇者として、私は誠心誠意教えを乞うた……!それを興味もないと一蹴された、屈辱だぞ……!やはり人知を超えた長命種に人間の苦しみは分からない……!!」
長命種が人間じゃないとでも言いたげだな……。ハッキリ言って面倒くさいやつだな。
「バァカ。そこじゃねぇよ」
素早く顕現させたランスを握れば、目にも止まらぬ早さで白金貨の入った袋を貫く……!
「何を……っ」
「てめぇ、一度鏡見て出直して来い……!風撃突き!!」
「がはっ」
ランスに風の魔力を纏わせ、一気にロドリゲスの腹目掛けて一撃をぶちこめば、ロドリゲスが大きく弧を描き、ぶっ飛ばされていく。
「ちょぉ……っ!?ロイさん、あれ大丈夫なんですか!?」
「勇者なんだから多少は耐える」
短命な人間にしては、あれは勇者として鍛えているようだし、どんな勇者でも、一撃では決して死なない加護を持つ。神殿に行きゃぁ回復してもらえるし、近くに聖女がいりゃぁ回復なんてお手の物。
そしてここは大神殿もある、王都なのだから。
「でもずいぶんと恐い顔のお髭さんだったこと。大丈夫よ、アリシアちゃん。うちのダーリン、強いでしょ?」
「……うんっ!」
おや、あのバカロドリゲスがいなくなったからか、アリシアがクルルたんたちの影から出てきたな。
「余計なのもいなくなったし、早速行こうかね」
アリシアからのペンダントを高く昇った太陽に翳せば、曇りがちな石の僅かな隙間に光が灯った。