side:ロイのいない日
――――side
その日ダニエルは今のテーブルの上のメッセージカードに気が付いた。
『発情期だからラブホ籠りしてくる
――――ロイ』
「またラブホですからロイさん……いや、発情期なら竜族の本能的なものなのでなんとも。……でも堂々とラブホ行くって置き手紙を残すなんて」
ダニエルは溜め息をつきながら、今日の子守り代行を務めるのだった。
飯屋で朝食を取り終われば店の空いた席でシェリーやタイヨウたちが何やら作業をしている。店が混んでいるときはダリルたちの手伝いをしていることも多いが、空き時間は勉強をしたり鍛練をしたりである。ロイやクルルがいる時はクエストに行くこともあるが。
「ねぇねぇ、思い付いたんだけど」
シェリーは手元の素材を選り分けながら口を開く。それらの素材はクエストなどで得たものである。
「ロイは今籠ってるし……」
竜族の発情期は大体年に2~4回で個人差が大きく、またその期間も様々だ。熱く燃え上がる発情期もあればすぐにおさまる発情期もある。今回の発情期がどうなるかはロイとクルル次第でもあるのだが。
「ロイとクルルさんが戻ってくるまでにあっと驚く成長をしてやるのはどうかしら!」
「いいわね!だとしたら……ダンジョン?」
ユリーカが思い付いたように告げる。
「でも引率がいないと冒険者ギルドが許可してくれないよ」
とタイヨウ。
「それにみんなで……ならアリシアとハルトも一緒にできるものにしたらどう?」
「うーん、タイヨウが言うことも尤もね」
シェリーが考えあぐむ。するとそこにダリルがやって来た。ダリルは現役は退いたとは言え元冒険者でもある。
「ならクラフトはどうだ?ツールは持っていたか?」
「クラフト?」
タイヨウが首を傾げる。
「大神殿にもあったわ。ええと……色んな材料を集めてアイテムを作れるのよ。ポーションは手作業じゃなきゃ無理なんだけど、戦闘で役立つ煙玉やアイテムドロップアップのアイテムだとか作れるはずね」
と、シェリー。
「へぇ、面白そう」
タイヨウの言葉にハルトとアリシアも興味津々な様子である。
「でも……キットが必要よね」
とユリーカ。
「大神殿のは大きくて持ち運びはできないのよ。持ち運び用もあるらしいんだけど」
「なら、俺のお古でよければ使うか?」
そう言ってダリルが店の奥から取ってきたのは大きさは小さめの道具箱のような魔道具であった。
「持ち運び用でな、旅の冒険者たちはこう言うのを使うんだ。これにいろんな素材を混ぜてやってみな」
「ありがとう、ダリル!」
シェリーたちはダリルに礼をいい、早速素材を投入することになった。
「これでアイテムが作れるのか?ますますファンタジーだな」
「タイヨウ、ファンタジーって……よく言ってるけどなぁに?」
ユリーカが問う。
「うーんと……ぼくのいた世界から見たこっちの世界で……剣や魔法が当たり前にある不思議な世界だよ」
「私たちからしたら魔法がないほうが不思議な世界だけど」
「確かに慣れてしまえばそうかも」
ハハハとタイヨウたちは苦笑する。
「混ぜるものって決まってるのかな」
「んーと……確かレシピがあるはずよ。煙玉の材料は種コショウの実、魔物の風切り羽根、甘露の雫」
シェリーがタイヨウに告げたのは地球人からするとはて、と首を傾げるもののこちらの世界で採集していれば聞き慣れたものであった。
先ほど選り分けた素材から該当のものをクラフトツールに入れてシェリーが魔力を込める。
「魔石でもできるけどMPがあるならこっちの方が効率がいいのよ」
そうして中から取り出したのは黒く丸いアイテムである。
「煙玉の完成ね」
「すごいなぁ。他のレシピはあるの?」
「うーんと……ダニエル、何か知らない?」
「そうですね……ではこちらはどうです?」
ダニエルがいくつかメモに書き渡せば、シェリーたちはその中から材料が揃っているものを早速試し始めたようだ。
暫くすればクエストを終えた常連客たちが店を訪れる。シェリーたちがクラフトをしている様子に初心者用のレシピを渡してあげる冒険者や素材を交換してくれる冒険者まで現れる。
夕飯時が近付けばダリルたちの手伝いをし、今夜も和気あいあいと楽しむ彼らであった。
「ま、そう言うのもいいかも知れないですね」
ダニエルも微笑ましそうに見守るのだった。




