シェリーのポーション作り
――――それは穏やかな昼下がりのことである。
「ダーリン!見て見て!ポーション作ったのよ!」
クルルたんが蛍光紫のポーションを掲げてきたのだ。
「クルルたんがポーション?珍しいな」
竜族は基本丈夫だしセルフヒールくらいはお手のものだからポーションなどはほとんど使わないのだ。
「そうよ。今日は女の子チームで採集に行ってきたの!」
あー……そういやクエストに出掛けるとか行ってたな。行き先はそれほど強い魔物もおらず素材採集やピクニックが楽しめる場所としても有名だ。シェリー、ユリーカ……それから今回はアリシアも連れて一緒に行ってきたのだ。
「ついでにピクニックもしてきたのよ。メイコちゃんのお弁当、とっても美味しかったんだから!」
あー……そういやメイコさんのお弁当はすごいんだよな。普通はサンドイッチとかなのに、メイコさんはちゃんと四角い弁当箱にいろんなおかずをつめるのだ。アヤメに聞いたがエスト王国にも同じような弁当作りの習慣があるのだとか。
「それで、これは素材採集で作った特製のクルルたんラブマックスポーションよ!」
「おお……っ!クルルたんラブマックスポーション!最高だぜ」
「んもぅダーリンったら」
「……いや紫色のポーションとか聞いたことないんですけど」
何を言うかダニエル。これはクルルたんが俺のために作ってくれた特製なんだから当然だろう。キュポッとポーション瓶の蓋を開け、ポーションを飲み干す。
「くぅ……しびれるぜ、この味!」
「……いや……ポーションは基本しびれないです。しびれの状態異常を治すものならありますけど」
「いいじゃんか、ダニエル。これはクルルたんのニューポーションなんだから」
「あら……っ!新しいわね!それにしましょ!」
よっしゃぁ。竜族はあんまポーションはいらないんだが……クルルたんのラブマックスポーションは今後もストックさせてもらうか。
「あの……ダニエル」
その時もじもじしながらシェリーがやって来る。
「どうしました?ポーション作りで何かありました?」
ダニエルが問う。ポーション作りの研修はシェリーも大神殿で学んでいるはずだが。
「どうしても……すごい緑になっちゃって」
シェリーの手に握られていたポーションは……どろどろな緑だった。ポーションってもっと澄みきった蛍光緑じゃなかったか。あったとしても蛍光ピンクのMP回復用とか常備異常回復用の蛍光オレンジなどだ。ポーション瓶に入ってはいるものの、通常の飲み物と間違わないようにするためと見ただけでどう言った効果のポーションか分かりやすくするため……らいし。しかしあの色はさすがに見たことがない。
「そ……それは……」
ダニエルも驚愕している。さらにはユリーカとアリシアの手にもどろどろ緑である。
「うーん……色はともかく一緒に作ったクルルさんのは蛍光色になったのに……おかしいですね」
ダニエルが材料を調べる。
「材料は普通のHP回復用なのですが」
「うーん、まぁな。でも何でさらさらにならないんだ?」
クルルたんのは上手くさらさらになったのにな。
「ちょっと貸してみ」
ダニエルから材料と道具を受け取る。えーと、すりつぶして混ぜて……ポーション瓶にろ過。
これで封をすれば澄みきった蛍光緑のポーションが完成だ。
「ほら、問題なくできる」
「え……っ、ロイさんってそんなことまでできたんですか!?」
驚愕し過ぎだぞ、ダニエル。冒険者なら簡単なポーションの作り方くらい身に付けるものだ。これさえ抑えておけばポーションが切れた時も素材でなんとかなることもある。
「ダーリンは昔から器用よね。石を磨くのも得意だし」
「ははは、それは竜族の本能的な部分もある」
とは言え……。
「ほら、見てやるからやってみな」
そうシェリーに材料と道具を渡す。
「う……うん」
シェリーが薬草をすりつぶす。
「それはこうやって……」
シェリーの手に上から手を重ねて素早くすりつぶす。
「よくすりつぶすのは大事だがやり過ぎるとどろどろになるからこのくらいの粒なら問題ない」
どろどろになったのは混ぜ過ぎだろうか。
「そのっ、えとっ」
「ん?ちゃんとできるから問題ない。後は順番に混ぜる」
混ぜる順番や量によってもポーションの品質が変わってくる。
「最後に丁寧にろ過する」
「わ、分かった」
シェリーは慎重にポーション瓶の中にろ過していく。するとポーション瓶に入ったポーションがポウッと光を帯びる。これは無事にポーションとなったと言う合図である。
「わぁっ、できた!」
シェリーが顔を輝かせる。
「こら、すぐに蓋を閉めないと劣化するぞ」
「いけないいけない!」
シェリーが慌ててろ過のためのパーツをポーション瓶から外し蓋を閉める。
続いてユリーカとアリシアのポーション作りも見せてやれば、蛍光緑のポーションができた。
どうやらコツを掴んだようでシェリーたちはほかにも蛍光緑のポーションを完成させている。
「このどろどろになったポーションは大神殿で処分してきますね」
そして失敗したどろどろポーションをダニエルが回収し、大神殿に向かうのであった。空のポーション瓶は大神殿に持って行けば適切にリサイクルしてもらえるからな。あと……中身も。




