聖剣メンテ
――――聖剣とは勇者や剣聖など特殊な加護を持つものに与えられる最強の武器でありそれらを打てる職人も限られた数しかいない。
「そう言えばロイ。タイヨウとハルトの聖剣はちゃんとメンテに出してるか?」
「んぇ?」
ダリルにからふいに問われた。うーん……いくら聖剣と言えど、マジックボックスに入れていれどメンテナンスが必要なのはほかの武器と同じだ。俺もクルルたんも竜鋼ランスは定期的にメンテしてるし必要なら竜族自治区の職人に見せる。
そしてタイミング良く外からタイヨウとハルトがこちらに帰ってくる。あれ……手合わせしてたんじゃなかったか?出掛けていってまだそんなに時間がかかっていないように思える。
「あの、ロイさん。今さっき気が付いたんですけど」
タイヨウが聖剣を鞘から抜き取りその白刃を見せてくる。
「この歯こぼれ大丈夫でしょうか」
そこにはボロッと欠けた跡があった。
「ギャアァァァァ――――ッ!!?」
ダリルがすかさず崩れ落ちる。さすがは聖剣職人の息子……じゃなくとも武器を手にする者なら分かる。そしてそれが聖剣なのでダリルも崩れ落ちる。
「……行くか、メンテ」
この様子じゃぁダリルの親父もリックも発狂するに違いない。
※※※
俺はタイヨウとハルトを連れ職人街にやって来た。
「おーい、親父、リック」
そして鍛冶屋を訪れた。
「ロイさん!それからタイヨウくんとハルトくんもお久しぶりですね」
出迎えてくれたのはリックである。てことは親父は奥か。
「分かってますよ。最近メンテナンスに来られないから、ダリル兄さんに来るように言われたんでしょう?」
ほう、お見通しなようだ。さすがは現役聖剣職人である。
「そうそ、あとさ。見て欲しいもんがあって……」
タイヨウに刀身を見せるように促せば、タイヨウが鞘から白刃を抜き取る。
「歯こぼれしたんだ」
そう示してやれば。
「ギャアァァァァ――――ッ!!!」
うん、こっちも漏れなく崩れ落ちたなぁ。
※※※
――――工房に足を踏み入れ親父に剣を見せれば、崩れ落ちはしないものの親父も暫く沈黙していた。
「いやおい、歯こぼれしたらちゃんと持ってこい。ロイ」
「んー……悪ぃ」
思えばダンジョンにも潜ったり引率したりしている。だがまだまだ低難易度のダンジョンである。それくらいなら聖剣はまだまだ傷も付かないし寄せ付けないが……。
「魔王国でやり合ったからか」
「えと、アーラさんの魔法を受け止めた時でしょうか?」
やっぱりそれしかないか?
「全く……魔族ってあのユリーカって嬢ちゃんの関係者か?」
「そうそう魔王四天王。大丈夫だって、そいつとは和解したから」
親父も知ってたか。それとも情報源はダリルかな。
「全く……それならいいが」
親父が魔族との話題に耐性があるのは何でだろうな。聖剣職人からしたら魔族はかつて聖剣の主と戦ってきた存在だ。
でもま……親父たちが苦しめられた元凶からしてみれば、ユリーカのような無害な方向音痴な方がましなのだよう。
それともアイツまさか方向音痴になってここにもお世話になってないよな……?
「打ち直すから終わったらリックに手入れ方法を習ってくれ。あと、その間はハルトの聖剣のメンテな。リック」
「はい。ではお預かりしますね」
「うん」
リックがハルトから聖剣を受け取る。ハルトはまだまだ素振りくらいの使用だが、見てもらうにこしたことはないな。
「けど……素材はどうしましょうか」
と、リック。
「そうだな……ロイ」
親父が俺を見る。うーん……本来なら聖鋼なのだが。
「刀身黒くなっていいなら俺の鱗使うか?」
「ロイさんの鱗?」
タイヨウが驚きながら俺の取り出した鱗を見る。
「ぼくのとお揃いになるんだ」
「わぁ!それめっちゃカッコいいね!」
どうやらタイヨウ本人も黒くなってもいいようだ。
「大盤振る舞いだな」
「んー?ま、いいじゃねぇの」
多分アートルム側も反対しないさ。あの国は竜族が大好き。竜族の鱗入りならそれはそれで喜びそうだ。
「メンテ来んのめんどいじゃん」
「それは来てくださいね」
リックの笑みが過去一迫力あった。
そしてタイヨウの聖剣の打ち直しとハルトの聖剣のメンテナンスを終え、タイヨウとハルトはリックに手入れ方法を習っている。
「俺もランスでも磨くか」
竜鋼ランスを取り出し工房の隅で磨く。
「おい、ロイ」
「何だ?親父」
「魔族とやり合ったってのは……大丈夫だったのか?今ドラゴニアに滞在してる姫さんの国だろう」
「大丈夫だよ。今はもう魔王国の連中ともすっかり仲良しみたいだしさぁ。それに……」
「何か懸念があんのか?」
「いやぁ、どさくさに紛れて魔王が手合わせとか言い出した時用」
親バカだかんなぁ、あの魔王。
「何でそうなる……いや、女勇者アヤメの前例があるな」
「それとはちょっと違うが……でもあれだな。魔王と勇者が何で仲良く手合わせしてんだって話だ」
「そんだけ平和だってことだろ?」
「……まぁな」
それでも魔物討伐なんかはあるが……多分これが……竜の女神が望んだ世界の答えなのだろう。




