始まりの村BLT
「おぃ、ダニエル――――。お前まだ泣いてんのか?」
「泣いて……ないですぅっ!」
いや、泣いてんじゃん。お前教皇のファンか何かか?見た目普通のじいさんだった気がするんだが……?いや、俺が知らないだけでアイドルおじいちゃんなのかもしれん。シェリーのやつにメッセ送っとこ。
「マップ上はあとどれくらいかしら?」
「……あ、すみません。クルルさん。あと片道……歩きで6時間です」
まぁ国境近くの村がマジ国境に近くても色々と問題があるかもなー。
「でもかかりすぎだろ。、5分でつけよ」
「何言ってんですかアンタ。聖女の巡礼だと片道何時間なんて普通ですよ」
「いや拷問だろ、それぇー。俺なら絶対ヤだ」
「しゅ、修行ですよ……!普通は勇者もその旅に同行するんですから!」
「ヤだよめんどくせぇ――――……。そんな時は空間裂傷しちゃえばいいじゃんー」
「くうかんれ……っ、な、何ですかそれ」
「んーと、村の方向あっち?」
「えぇ。あの方向におよそ24キロほどですね」
「ふぅん……?んじゃぁ行くか!」
「どこへです!?」
「いいからいいからぁ~~!ほれ、俺の特製漆黒のランス――――!」
じゃーん!いつでもピカピカ!ミスリルやダマスカス鋼よりも頑丈な竜鉄鋼でできてるから丈夫のなんの。
「いや、そこは聖剣じゃないんですか……!?勇者と言えば聖剣でしょうが!」
「やだあれすぐに折れるもん。10回くらい折れたからもう使ってねぇよ」
「何で聖剣折ってるんですか……!じゅ……10回って……聖剣職人が泣いてますよ……」
「打ち直す金は払ったぞ?んでも折れるからシメたけど」
「世界の宝にも等しい聖剣鍛冶職人に何やってんですかアンタ!」
「んまぁとにかく、近道するにしても、コイツの方が余程扱いやすいんでね……!さぁ~~て、えいっ!空間裂傷~~」
「何かノリ軽い!」
これくらいなら朝飯前なんだから当然だろう?さすがに国境跨ぐ時に使うと坊に怒られるが……所詮はここは他国だかんな……!坊には怒られん!
あとこれは空間しか裂かないから、人間や生き物には無害でとっても優しい魔法である……っ!
ガツン……っ!!
何もない空間を、村の方向めがけてランスを突き刺せば、通常当たるはずのない衝撃音が響く。
そして。
ピシッ
パリンッ
空間に黒い裂け目が生まれ、バリンッと音を立てて割れたその先には、こことは違う景色が映る。
「さて、繋がったから、行くぞ」
「……いや、行くぞって……空間裂けた――――――っ!?」
「驚愕するのはいいがあと3分で閉じんぞ」
「そうそう。ダニエルちゃんも遅れずにいらっしゃい。遅れたら徒歩6時間よ~~」
俺の後に続いて、クルルたんがアリシアの手を引きながら空間の裂け目を潜る。
「あっ、ちょ、待ってくださいよ――――――っ!」
さて、全員潜ったところで。裂け目を塞ぐ。
「塞ぐことまでできるんですか」
「できなきゃ穴開き放題じゃん」
「……それもそうですね」
「あら……でも……ここ、本当に始まりの村BLTかしら?」
「ん?」
クルルたんの言葉に、辺りを見回す。
「何もねぇな」
とは言え……明らかに人の暮らしていた場所だと言う痕跡……建物の崩れた跡、骨組みや……あと雑草だらけの畑も遠くに見える。もう何年も手入れはされていなさそうだ。
「でもここ……地図上ではちゃんと始まりの村BLT……あれ、待ってください……これ……!」
「何か見つけたのか?ダニエル」
ダニエルがマップを見ながら驚愕している。
「この表示……昔、ここに始まりの村BLTがあったって……示しているものです。つまり……ここは滅んだ始まりの村です」
「……ふぅん?」
どーりでな。この村も呪いによって滅んだと。
「そ……そんな……」
アリシアが膝から崩れ落ち、ククルたんが優しく抱き締める。
「お母さん……お父さんは……?お兄ちゃんは……?」
「周辺の村に避難していれば……もしくは。近くに一つ村がありますから……そこに確認に行ってみましょう。ですが……」
「何だ?ダニエル」
「この村はどうして滅びたのか……」
「魔物じゃねぇの?」
「何でそんな簡単に同定できるんです?」
「だって、見てみろよ。周り」
「ひ……っ」
アリシアが短い悲鳴を漏らす。
「あら、ずいぶんと大所帯ねぇ」
「うわ……っ魔物おぉぉっ!?」
そうそう。しかし、こんなにも群れを成して囲まれるなんてそうそうないんだが?それともこれも始まりの村の呪いか何かかねぇ。
「ど……どどど、どうすれば……っ」
「おめぇは結界でも張って、アリシアといろよ」
「そ、それは……そうですが……!ロイさんは……!?」
「ん?何言ってんだ。コイツら屠るに決まってんだろ。なぁ、クルルたん」
「そうそう……!魔物って機動力も人間とは桁違いだもの。このまま群れを成してドラゴニアの国境に向かわれても困るもの。人間の足で6時間でも、魔物が群れて勢いをあげたのならならその2、3倍は縮めるわ」
クルルたんも自身のマジックボックスから、とっても可愛くデコったピンクのランスを取り出し、構える。
「え……クルルさんも戦うんですか!?」
「あら……知らないの?竜族の女って……歴戦の戦士だらけよ?」
「そうそう、そう言うことね。だからおめぇはそこでアリシア守ってな」
「そ、それはもちろん……!」
そしてダニエルがアリシアを引き寄せ結界を張れば……。
「おっしゃぁーっ!久々に戦闘開始な~~」
「は~~いっ!」
「相変わらずノリ軽いなおいいぃぃ――――――っ!」
「これくれぇは軽ぃもんだろぉがっ!!」
地を蹴り、魔物に向け勢いよくランスを突き付ける!
「そうね……っ!この数十倍を相手にしてたこともあるんだから!」
クルルたんもまた踊るように魔物を躱しながら勢いよくランスを突き付ける……!
そしてふわりと翼で舞い上がれば、空から迫り来る魔物をランスで勢いよく貫いた……っ!
「さて、ペース上げて行きましょうか!」
「おうよ……っ!」
クルルたんの構えるランスがブワリと風を纏えば、俺もグッとランスの柄を握れば、バチバチと稲妻のような光を纏う。それを魔物に向けて突き付ければ、バリバリっと電撃が駆け抜け、何重にも一気に魔物を屠っていく。
そしてクルルたんのランスもまた、風撃で一気に畳み掛けるように魔物を貫いていく……!
一心不乱に魔物を屠り、貫き、ようやっと村の跡が拓けてきたころ……。
「クルルたん!クルルたんはアレ、頼むわ」
そう告げれば。
「はぁ~い!まっかせて!」
クルルたんが空中の魔物を貫いたのと同時に、そのままふわりと上空に舞い上がり飛び去る。
「え?ちょ……ロイさんんんっ!?クルルさん行っちゃいましたよ!?」
「いいのいいの、こっからは俺ひとりでいけっから」
「えええぇぇっ!?」
「てめぇはしっかり結界はっとけよ――――っ!」
「それはもちろんですけどっ!」
「後は纏めて塵になんな……!」
ランスを構えて一気に雷撃を突き付けていく……っ!
「さぁて……ラスト1匹っ!」
難なく魔物を貫けば、既に朝日が昇り始めていた。
「あ――――……疲れた帰りてぇ……」
「スイッチ切れた瞬間の落差……!」
「いいだろーが、もう朝飯の時間じゃねぇか」
ダニエルとアリシアを振り返った時だった。
頭上を大きな影が覆い隠す。
「ひいぃっ!?何ですか……っ、魔物……っ!?」
「……っ!?」
ダニエルとアリシアが驚愕しながら空を見上げている。
「何って……ありゃぁ竜だろ?」
紛れもなく。魔物の中でも一目置かれ、土地によっては神格化されるものもあると言う、最上位の魔物である。
「まさかフローライト王国で出会えるたぁ……」
「呑気に構えてる場合ですか……!逃げないと……っ!あんなのS級冒険者が束になるか、フローライトの勇者さまくらいしかかないませんよ……!」
「何ビビってんだ?ダニエル。愛国心は立派だが……ドラゴニアの勇者だって捨てたもんじゃねぇぞ」
「……え、ロイさん……何で……っ」
「これからドラゴニアで生きてくつもりなら、よく見てな……!」
バサリと、竜の翼がはためく。
「ドラゴニアの勇者を……!」
――――そして、竜の咆哮がぶつかり合う。