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賑やかな晩餐


――――下町の飯屋。メイコさんが用意してくれたのは異国の料理。こちらではエスト王国の料理だが、セイカ、メイコさん、タイヨウにとっては異界の故郷の味だ。


「煮物……久しぶりに食べたわ」

「今日のお昼に出すために用意してあったのよ」

セイカの言葉にメイコさんが答える。


「ふふっ。なのよね」

クルルたんの反応を見るに、これは事前に準備してあったらしい。んもぅクルルたんのサプライズかよ~~っ!


そしてその時、ハルトがこちらをじっと見つめている。そうか……何の縁かな。魂は知っているのかもしれない。ハルトを手招きすれば、アリシアもかわいらしくお兄ちゃんに付いてくる。


「そうだ、セイカ。ハルトとアリシアだよ」


「……っ!ハルトくんとアリシアちゃん」

セイカにとってもハルトは……。


「私にもハルトって言うお兄ちゃんがいたのよ」

セイカがそう語り掛ける。


「ハルトお兄ちゃんは勇者だったの」

「アリシアのハルトお兄ちゃんもだよ!お揃い!」

「ええ、お揃いね」

セイカはまるで自分たちを重ね合わせるかのように懐かしそうに微笑みかける。


「その髪飾り、セイカさんのだったんだね」

ハルトもセイカの髪飾りを覚えているのかそう告げる。

「えぇ。届けてくれてありがとうね」

「ううん、ロイが届けてくれたんだよ。ロイは強くて優しくて色んなことができてすごいんだ。ぼくもロイみたいな勇者になるよ!」

「……」

セイカはその言葉にピタリと固まっている。


「セイカ?」

「……その、兄と同じことを言ってるなぁって」

「……」

それは知らなかったな。


「ふぅん……何の縁かねぇ」

「全くロイさまは……そこもいいのだけど」

セイカが微笑む。


「頑張ってね、ハルトくん。それからアリシアちゃんもお兄ちゃんと仲良くね」

セイカが2人の頭を撫でながら微笑む。ハルトは不思議そうにセイカを見ている。セイカはアリシアと一緒に花の髪飾りをしている話題に夢中である。


「ロイ……ぼくはどこかで会ったことがあるのかな」

ハルトが俺を見上げてくる。


「さて……タイヨウの叔母だからな。2人も縁者だから似てるだろう?」

「……!そっか!タイヨウお兄ちゃんの叔母さんなんだもんね!」

「そうそ」

悲しいことは思い出さなくていい。竜神がマジックボックスの名や中身を残しながらも記憶を引き継がせなかったのならそう言うことだ。そうしていればタイヨウがメイコさんの手伝いをしつつ料理を運んできた。


「セイカ叔母さん、これも美味しいですよ」

だし巻きや和え物を勧めている。


「本当に……すごいわ。アートルムでもお米や味噌は手に入るのだけど……私はあまり地球の料理はできなくて」

こっちに召喚されたのもまだ子どもだった。元々料理を作っていたメイコさんのようにはいかないだろう。調味料の配分だって材料だって色々だ。


「エスト王国を訪問するときはその……高級なものが多いの。それも美味しいのだけど……」

「ならアヤメに言っておく。多分アイツが調達してくるから」

「アヤメさんに?お言葉に甘えていいでしょうか」

「もちろん、アイツは世話焼きだからな」

ぶっちゃけ坊や俺も滞在中に頼んでるし。


「だったら……習っていく?」

メイコさんがとんでもないことを言ってきたのだが。


「今日の予定ってどうなんだ?」

「晩餐の時間までは……。晩飯は夫と一緒に会食に行くの」

「ならそれまでに覚えちゃいましょ。すぐに終わるわ」

「え、えぇ!」

セイカ自身がメイコさんに習いたいのなら別に反対する必要もないかな。


――――そして夕刻。


セイカとメイコさんがこしらえた料理を運んでくる。


「その、上手くできたかしら」

「上出来上出来」

もじもじしているセイカに告げる。

「ロイさんが言うならバッチリね」

いやいや……そこら辺の味付けなんかはメイコさんの方が詳しそうだが。


セイカはメイコさんに料理を習ったりタイヨウたちと歓談したりと楽しげに過ごしていたのだが、そろそろ城に戻した方がいいだろうか。


「セイカ、そろそろ会食の準備をするんだろう?」

「それが……そのっ」

ん……?


「大丈夫よ、ロイさん」

「うんうん、計画通りよっ!」

えぇ……メイコさんにクルルたん……?なーんか嫌な予感がしていれば、不意にこちらにダリルがやってきてその後ろに……。どうやら裏口から入れたようだが。


「坊っ!?」

「あぁ、揃ってんな」

ニカリと笑う坊に、その後ろにいたのはアートルム皇帝アルベルトだった。いや何でいんだよ!そしてアルベルトは即座にセイカに駆け寄る。


「セイカが料理をしたと聞き、楽しみにしていたぞ」

「もう……会食ってここだったのね」

そ……そうか。コイツらもどうせ来る気だったのかよ。


「(おい、坊。いいのかよ)」

小声で坊に問う。


「何か問題が?」

ケロリとしてやがる坊もこの国の王、そして俺は竜王家の王子。……今さらか。

義理の叔父の登場にタイヨウは驚いてはいたが、最近の勇者活動などを聞きアルベルトも満足げだった。

さらにはセイカからの手料理に舌鼓を打っている。


「はぁ……まぁいっか。そういや……デザート出してくるわ」

「ん?ロイも何か作ったのか?」

「暇だったかんな」

メイコさんとセイカの料理作りの間、味見を兼ねてさくっと厨房で作ったのだった。


「おはぎ」

「ぼたもちか」

アヤメに聞いた時はおはぎだったのに何故別の名前で返すのか。


「あれはそう言う和菓子だ」

わ……菓子?『わ』が何かは分からんが、そんな不思議な菓子を出してやればメイコさんはぼたもちでタイヨウとセイカはおはぎだった。


――――翌日、セイカとアルベルトのアートルム帝国への帰国にタイヨウたちも連れて城まで見送りに行ったのだった。


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