同郷の集い
――――ドラゴニア王国に訪れているアートルム皇帝と皇后セイカ。
坊と皇帝が会談をしている間、俺はセイカの相手を任された。通常は王妃のハリカでも良かったろうに。
「そういや、昼飯はどうすんだ?」
「その……ロイさまに何か勧めてもらうといいと……夫とバシレオス陛下から聞いていて……」
あー……そう言うことね。だからハリカではない……むしろハリカも行けと言っているわけか。
「こちら、王妃殿下からクルルさまに頼まれた品です」
しれっと侍女がセイカに差し出す。く……クルルたんまでいつの間にっ!昨日ぱふぱふを我慢させられたのはそれの調達か……っ。うぅー……クルルたんのぱふぱふ……ぱふぱふ……いや、でもなぁ。セイカだから特別サービスだ。
早速控え室で着替えてきたセイカは下町にいてもおかしくもない魔法使い風の衣装である。下町の娘風ではなくどこか冒険者寄りな衣装なのは行き先が冒険者どもも集まる場所だから目立たぬようにとの配慮だろう。
「昔は……まだ子どもだった頃は旅装や聖女のための聖衣を着せてもらったのです。何だかそれを思い出します」
「ふぅん。ま、確かにな。それに……その髪飾りは付けて行くのか?」
魔法使いのフードの中からちらりと見える。セイカの髪にはここいらでは珍しい花の髪飾りがある。さすがに公務では付けられないが、プライベートでは相変わらず大切に身に付けている。
「その……目立ってしまうでしょうか……」
「いや。確かに珍しいが……冒険者は色んな土地を行き来する。異国の装飾品を身に付けるくらいある」
「えぇと……こちらではエスト王国ですね」
「そうそう」
エスト王国で有名な花だ。その花を知っていてもエスト王国のものだと思われることが多いだろう。
「だから行こうか」
「はい、ロイさま」
あの頃はまだ小さかったのに今ではすっかり大人の女性に成長し、皇后の務めを果たしている。
「でももう少し気を抜いても大丈夫だ」
護衛たちも何も言わずに付いてくるからこれは公認だと取っていい。
「その、はいっ」
セイカは頬を赤らめながらもにこりと笑んだ。そう、それでいい。たまには皇后の仮面を外して叔母として甥に会ってやるのも……きっといいはずだ。
――――城下に繰り出せば王都は相変わらずの賑わいだ。
「アートルムの城下町にもたくさん屋台があるんですよ。もちろん売っているものや雰囲気は違いますが」
「へぇ。さては度々城を抜け出してんな?」
「あ……えと……そのっ」
セイカが頬を赤らめる。
「いいのいいの。ウチは坊が度々抜け出すもんでな」
ハリカも大人しそうに見えて、たまに城下の女子会に繰り出しているのを知っている。メンバーはウチのクルルたんやメイコさん、アリー……結構な最強メンツである。
「……一応視察ってことで」
「わ、私も視察ですから!」
「分かった分かった。そう言うことにしておく」
「ええっ!」
セイカが笑顔で頷く。そうしてセイカをいつもの飯屋に連れてきた。
中は昼飯時。冒険者たちの姿で賑わっているが、クエスト終わりの冒険者が多い晩飯時ほどじゃねえな。
その中のいつもの席には……。
「へぇ……アートルムってお肉が美味しいのね」
「うん、色んな加工品があって、ハーブソーセージが美味しかったよ」
シェリーの言葉にタイヨウが答える。
「ラム肉!ラム肉もあるのよ。前に迷ったときに食べさせてもらったの!」
ユリーカ。お前はアートルムも方向音痴で……いやだからタイヨウとも出会えたのかもな。
「あ、ダーリン!待ってたわ。こっち」
その時クルルたんが空いている席を示してくれる。
「セイカちゃんも、いらっしゃい」
「はい、クルルさん!」
思えばドラゴニアに来た時はクルルたんも『妹みたい』ってかわいがってたなぁ。いや……今も下町に出る服を用意したりと面倒見がいいんだ。
「またロイさんはものすごい御方を……まぁ陛下もよく来る時点でもうロイさんだからで納得できるようになりました」
とダニエル。お前も分かって来たじゃん。
そしてセイカを席に座らせれば、タイヨウが驚いたように立つ。
「え、セイカ叔母さん!?」
「そ……その、お邪魔するわね」
「え、あ、うん……っ。でも何で!?」
「昼飯、昼飯~~」
そう答えればシェリーがガクッとなりつつ噛み付いてくる。
「いやいやロイ!そう言う問題じゃ……」
「そ……その、タイヨウの叔母さまって……こ……皇ご……っ」
「ユリーカそれはっ」
タイヨウが慌ててユリーカの口を塞ぐ。
アリシアとハルトが顔に『ハテナ』を浮かべている。
しかしユリーカの言葉で『え?』と冒険者たちがこちらに注目する。
「あ……そのっ」
セイカがびくっと反応する。
「……あ、その……私も魔王の娘よ!」
ついつい『皇后』と言いかけてしまったことを気にしているのかユリーカが宣言する。……多分常連はみんな知ってると思うが。
「俺ぁドラゴニアの竜王子さまだな」
「……くっ、上には上がっ」
ユリーカが悔しげな表情を浮かべる。
「またお前かよ、ロイ」
ダリルが飯を運ぶついでに嘆息する。
「何のことだ?セイカはドラゴニアに留学している甥に会いに来ただけだ。それに……お前ら、俺が誰だか分かってんのか?」
ちょっとどよめいていた店内の冒険者たちが俺に注目する。
「ダメ勇者だな」
「品性下劣勇者」
「勇者の持ち腐れ」
「……殴んぞ?」
そう告げればガハハと笑い出す冒険者たち。
「ま、一応竜王子さまだからなぁ」
ダリルが笑う。
「そうそ、だから気にすることなんてないんだよ」
俺がここを懇意にしてるのは割と有名だし、周りの常連たちも分かっている。見慣れぬものもいるだろうが、それなら逆に分からんだろう……?
「そうよ。私の料理を食べに来てくれたんでしょう?たくさん食べて行ってくださいな」
そうして奥から現れたメイコさんも分かるのか。セイカとメイコさんは同郷だ。そしてメイコさんの飯のファンと知った冒険者たちは満足げだ。みんなファンだもんなぁ。
「メイコさんは気にならないのか?」
「同じ聖女だってことは分かるわよ。でも、ロイさんだもの。みんな集まっちゃうのね」
「……そうかも」
メイコさんの言葉にセイカもクスリと微笑んだ。




