神竜の末裔
――――こう言う堅っ苦しいのはガラじゃない。しかしながら、ここは大神殿。神を祀る場所。竜神の御前。
「ただの竜族とは……竜族もナメられたものだ。お前は自身がハイエルフであることに慢心し何が上位種すらも分からないのか」
竜族は上位種だ。エルフよりも魔族よりも上。しかしそれが好きなわけではない。だから最上位種として世界の頂点に立とうとかそんなことは望まない。
引きこもっている……か、そう捉えられてもおかしくはないが、竜王家は子らの歩むドラゴニアの繁栄を見守るだけだ。だがしかしもうひとつ別の側面がある。
「我は竜王子レックス・ドラゴニア。神竜の末裔であり、その遣いを務める。故に神竜こと竜神の加護を授かりし勇者と聖女を見守るのも務め」
「りゅ……竜王子?」
その瞬間ヴェールがニヤリとほくそ笑む。
「知っているぞお前のこと……!ドラゴニアの品性下劣勇者ロイ……勇者の持ち腐れのクズ勇者じゃないか!アーッハッハッハッハッ!」
「ちょ……っ」
シェリーがガッつきそうになるのを抑える。
「……ロイ」
「(問題ない)」
そう小声でシェリーに告げる。確かに俺はドラゴニアの品性下劣勇者だしクズで勇者の持ち腐れなロイだが。目の前にいる俺が誰かも分からぬ……いや見ようともせずハイエルフであることを絶対だと思っているやつは……身の程を弁えさせてやるのがいい。
「貴様など雑魚!クズ勇者!お前などハイエルフのぼくの足元にも及ばない……っ」
「ほう……?ならば立ってみよ」
そう告げるのと同時にヴェールを竜の覇気を込めて見下ろす。勇者や聖女ならば竜神の加護があるから耐えられるだろう。魔族に対する耐性がつくのもそのためだ。
しかし竜神の加護もない、上位種が何足るかも知らない。その上自分がハイエルフだから聖女に何をしてもいいと思い込んでやがる。
竜神の加護を持つ聖女に手をあげるということは竜神を敵に回す行為だ。
「ぐ……っ、ひ……っがっ」
そしてヴェールはどう足掻いても立ち上がることができず床に這いつくばるだけだ。
「実に愚かしい」
「えと……ロイ?」
シェリーにそこにいるように指示し、ヴェールの前に立つ。
「ぐ……っ」
ヴェールが俺を憎らしげに見上げる。
「力の差を思い知れ」
その瞬間更なる圧がヴェールを襲い、ヴェールが悲鳴を上げる。
「お前にはかなわない。ハイエルフは単なる純血のエルフの王族。ただそれでしかない」
竜王子のように神竜の末裔でもない。神の末裔にかなうはずもない。
「残念だったな」
「……ひ……ぃ……」
決してかなうことのない圧倒的力の前にヴェールの傲慢は崩壊する。自分が一番だと思っていたのに、そうではなかった。決してかなわぬ存在がいる。それすらも何百年も知ることがなかった。お前たちこそ国外のエルフの森に引きこもっていたのだろう?
エルフの居住地を出、ドラゴニアに移住してきたエルフたちとはまるで違う。彼らはちゃんと知っている。竜王子を。
へなへなと崩れ、戦意喪失したヴェールを歯牙にもかけず踵を返す。
「さて、以上だ。どうだったか?じゃじゃ馬聖女」
ニヤリとシェリーに微笑みかける。
「その……アンタらしくないと言うか……その」
「あぁいうのは圧倒的な力で分からせてやれと……エルフの女傑がなぁ……」
ドクズにドクズをぶつけてもあまり効果がないとか何とか……よく分からんが。
「え?誰それ。ドラゴニア国民……よね?」
んー……あまり言うと俺がまた呼び出されそうだ。
「その、何でもない」
「えっ、気になるじゃない」
「わ、忘れろ……それよりお前頬は自分で治したのか?」
「う……うん、まぁ」
「ふぅん?」
シェリーの顎をくいと上げまじまじと見る。
「ちょ……っ、何よっ」
うん……?顔が赤いのは……怪我とは無関係か?
「いやぁ、そのまま写真撮って見せてやれば、アイツらもはらわた煮えたぎる勢いで取っ捕まえそうだなと」
「え?」
シェリーが首を傾げた瞬間、客間のドアが勢いよく開く。
「おい、ロイ!シェリーちゃんは!?」
「無事か!」
「うおらぁぁっ!!俺たちのシェリーちゃんに何してくれるっ!」
客間に乗り込んで来たのは大神殿の聖騎士たちだ。種族色は豊かだが若く見えながらも歴戦のエルフの戦士までいた。
「え、みんなまで!?」
「アイツらもチャンスを待ってたんだ。他国の聖女を勝手に拐おうとしたことすら外交問題だってーのに竜王子に窘められても言動を改めなかった。だからこそやつらはもう見捨てられるのさ」
ヴェールたちは屈強な聖騎士たちに拘束されていく。
「アイツらどうなるの?」
「うん?追い出すさ。アートルムもいらないだろうからエルフの居住地に追いやるだろう。それでいい」
「それ、どういうこと?」
「お前、エルフの挨拶を覚えてるか?」
「えーっと、偉大なる森の精霊王の……精霊王?」
「そうそ。竜神の遣いの竜王子に喧嘩を売って聖女に手をあげたんだぞ?精霊だって見放すさ。ウチの牢に入れて森が枯れたら困る」
「それはアートルムむもね。アイツ、どうやって生きて行く気かしら」
「さぁ……ステータスに神への反逆者の称号でもつくんじゃね?」
どこにも生きて行く場所などないが……コイツらの自業自得だな。
「その……ロイ。ソフィーと話がしたいの」
ヴェールが連れてきた少女か。シェリーと共に聖騎士に拘束されるソフィーの前に立つ。
「あの……ソフィー」
シェリーはまだやり直せると信じているのか。彼女はある意味被害者でもある。だが……。
「気安く呼ばないでよ!」
「……えっ」
「アンタみたいな女、大っ嫌い!」
ソフィーがくわっと目を見開きシェリーを睨む。
「そんな……っ」
「私は……私はハーフエルフとして生まれたせいで人間の親は逃げ、エルフの親にも捨てられて、エルフの森では召し使い同然……なのに私がこんなに苦しんでいるのに……アンタもハーフエルフのくせに聖女に選ばれてちやほやされて、きれいな服を着て髪もさらさら、肌すらも……!何で……何でよ。私も人間の血を引いてる。なのに何で私は召し使いのハーフエルフで……アンタだけが聖女なのよ!」
「……それは」
シェリーがしゅんとする。そんなの、何もシェリーのせいじゃないし、シェリーが周りからかわいがられているのは聖女だからじゃない。それすら分からんとは。
シェリーを後ろに庇いつつ告げる。
「お前のステータスに表示されている種族は何だ?」
「……え?」
「ステータスの種族名に『ハーフエルフ』ってものはない」
国外のエルフだからと言ってエルフとして洗礼を受けたのなら、それはエルフだ。
「竜神が定めた種族を偽り、聖女の役目ですら分からぬお前に授ける加護はない」
現に素質はあれど相応しくないと加護を没収されることもある。
たとえ生まれ育った環境でエルフではないと見なされたとしても聖女として相応しい素質があり人間の血が流れているのなら資格を得る。
逆にエルフであろうが相応しければ神官としての力に恵まれ竜神も加護を授ける。それがアシェだ。
「何で、何で、どおしてよおおおぉっ!!!」
ソフィーがシェリーに掴みかかろうとするのを聖騎士たちが押さえ付ける。
「ロイ、もう連れていくぞ」
「そうしてくれ」
そう告げ、シェリーの手を掴み招く。
「ロイ……どこに」
「帰るに決まってんだろ?」
「……けど」
「お前が気にすることじゃない。それがソフィーの選んだ道だ。お前はその道を歩まなかった。それだけだ」
「うん」
「それにお前は……もう決めてんだろ?進む道を」
「もちろん……私は立派なドラゴニアの聖女になるんだから」
「それでいい」
ぽふりと頭を撫でてやれば、シェリーはどこか頬を赤らめながらもじっと見てくる、
「そう言えばロイ、その服って……」
「あー……これ?雰囲気とか大事だってアリーとロシェがな。竜王祭の舞でもなきゃぁ着ねぇんだ」
「……竜王祭……そうだ、竜王祭よ」
「え?」
「何か見たことがあると思って……私は8歳だったから……でも何となく覚えてるのよ」
前回の……か。
「ふぅん?」
シェリーも連れてきてもらってたのか。
「今度の竜王祭が楽しみよ」
「まだ2~3年あんぞ」
竜王祭は竜王子祭の年が終わり、その3年後だ。
「それでもよ」
シェリーはそう笑むと、アシェとアリーに迎えられる。無事にアシェたちに引き渡せて何よりだ。
「そうだ、これから飯屋に行くんでしょう?私たちも行くわ」
「では私も」
アリーに続いてアシェまでもそう言う。
「いや……その、アシェまで来るのか?」
「陛下も来られると聞きましたので」
「げ」
坊までいんのかよ!!その後飯屋に行けばもちろん坊もいたが……まぁシェリーは仲間たちと美味しいもん食べてご満悦だったからいいか。
「ふふっ。やっぱりロイさんだわ」
「……アリー?」
クルルたんのおっぱいをもみゅもみゅしようとしていれば、アリーにはたきおとされた。しゅんっ。……しかも急に何だ?
「いつもはダメダメなのに、ここぞと言う時は背中を預けられるのよ」
「ふふっ。そうかも。それでこそダーリンだわ」
えぇー……クルルたんまで……どゆこと?
「ありがとね、シェリーのこと」
「……んまぁ、それも俺の役目だからな」
勇者で……それから、竜王子。
「天性の面倒見の良さもあるわよ」
アリーが微笑み、ユリーカたちと楽しげに笑っている娘たちを見やる。アシェも楽しそうに坊と見てるな。
「ふぅん……」
ま……俺も嫌いじゃない。




