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シェリーと竜王子


――――side:シェリー


おじいさまと一緒に大神殿まで帰って来たものの……今夜はアイツもここに泊まるって言うし。


「今日はもう飯屋に行くのか?シェリーちゃん」

「えぇ、そうするわ」

大神殿の神官や聖騎士たちにそう伝え、踵を返す。大神殿のみんなは親切だし、おじいさまとお母さまの娘だってみんな可愛がってくれる。本当はもっともっとみんなの役に立って……堂々とドラゴニアの聖女として……。


「……だからこそ、長居は無用ね」

今は聖女としての祈り以外はほぼロイのところでダニエルに実戦で使えそうな知識やヒーリング魔法のコツを習っているもの。勉強に使う本はこちらで借りることもある。最近はアリシアちゃんも一緒にお勉強しているから何だか和むのよね。

とは言え……アリシアちゃんは事情があって大神殿にはまだまだ来られない。トラウマって言うのかしら……妙に過保護な保護者もいるし、むしろこちらは私がいるんだから。私がしっかりしなきゃ。


「お祈りは終えたから……早く」

そう思った時だった。

「あの……聖女さま」

「……あなたは」

ヴェールが連れてきたハーフエルフの……って、ハーフエルフって言い方嫌なのだけど。彼女はきっと外の世界では『エルフ』ではない。そうなると途端に彼女を示す大事なものが欠けてしまうのよ。何だかもやもやはするが。


「ソフィーと言います」

「そう、ソフィー。どうしたの?また具合でも……」

少し違和感。何かしら。こう言うのつい最近どこかで感じたような……。


「いえ……その、先ほどの、お礼がしたくて……」

「そんなの気にしなくていいのに」

それが聖女だ。ロイに聞かれたら『無料奉仕くそ食らえやぁっ!』とか言いそうだけど。


「でもその……ご主人さまにバレたら……えと……」

それってヴェールのことね。


「だからその、ちょっと……こちらに」

「う、うん。いいわよ」

小さな違和感。でも彼女も何か相談したいのかもしれない。比率などは見た目じゃ分からないが彼女もミックスなのよね。なら同じ立場で何か力になれるかもしれない。私には何もできなくとも、話を聞いてあげられるかもしれない。


彼女について歩く。あれ……ここら辺って今の時間はあまりひとがいないところだ。でも……何故か的確に彼女はこちらを選んでいる。今日……いいえ、あの料亭からこちらに着いてほどないはずなのに。


――――どうして。


その時、背筋がゾクリと震える。


「……っ」

ハッとして振り向けば、そこには見たくもない顔があった。

「……っ!」

ヴェール!?


「ちょ……っ」

声を出そうとした瞬間、口を塞がれた。


「よくやった、ハーフエルフ」

後ろでヴェールがほくそ笑むのが分かった。まさか……ソフィー、この男に脅されてっ!

口を塞がれながらもソフィーを見れば、次の瞬間固まる。え……?ソフィーは笑っていた。そうだ……思い出した。これ、魔王国でのダークローズと同じだ。

彼女はどうして……そんなにも。


――――私を憎らしげに見、笑うのだろう。


※※※


大神殿で割り当てられた彼らの部屋だろうか。広く薄暗い部屋に私は連れてこられた。そして部屋の中央には何やら魔方陣のようなものが敷かれている。そして左右に立つエルフたち。


「な……何これ」

「これからエルフの森に帰るのだ。無論ドラゴニアの偽物のエルフの森ではなく……我らの聖地に!」

それって国外の……!?


「ちょっと……それって違法じゃない!」

いくら転移魔法やポータルがあれど許可なく国交を跨いだら罰せられる。私も……まぁそうして帰国しはしたが、それは陛下の指示であり、王妃殿下も加勢してくれてのこと。さらに問題の国はもうなく、今はアートルム帝国となっている。


「だから?エルフの森に連れ込んで既成事実を作ってやればもう関係ない」

き、既成事実って……。

「ろ、ロリコン!」

ドラゴニアではそう言うの、ロリコンって言うのよ!


「黙れ!」

「……っ」

頬に鈍い痛みが走る。血が……。


「減らず口を叩くな。人間の血が混ざっているだけでも汚らわしいくせに……部屋の空気を汚すな」

はぁ……!?な、何なのよ、それ。失礼にもほどがあるし……ここはそもそもアンタの部屋じゃない。大神殿よ。勝手なこと言わないでよ!


「……いっ」

しかししゃべろうとすれば頬が痛い。ヒーリング魔法を……MPの消費は微々たるものだろうが、だとしてどうやってここから逃げる……?治した瞬間に大声で叫ぶ……?


「さぁ、来い!」

「や……やめ……っ」

ヴェールが私の髪を掴み引っ張り、転移魔方陣目掛けて歩み出す。


「しゃべるなと言っただろう!このハーフエルフがっ!」

わ、私はハーフエルフじゃない……エルフよ!でも口が痛くて……。


「それに……部屋には結界を張った。ハイエルフの神聖な結界だ!誰も邪魔はできない」

そんなの嫌だ……嫌だ……私はドラゴニア国民よ。私がエルフでもおじいさまのハイエルフの血を引いていても、外のエルフの森なんかに行きたくない!

私はドラゴニアの聖女になるって……決めたんだ。


自己治癒で腫れた頬を治す。そして……。


「放しなさいよ!」

ヴェールを突き飛ばさん勢いで腕を伸ばす。はしたなくてもじゃじゃ馬と呼ばれても……やっぱり嫌だ!


「何をする、貴様!」

次の瞬間伸ばした腕をヴェールに掴まれ、召喚魔方陣に向けて突き飛ばされる。


「さぁ、転移だ!」

ヴェールが向かってくる……!嫌……嫌だ、こんなの!

しかしその瞬間、視界の先の魔方陣の中央を一槍の黒いランスが穿ち、魔方陣がピシピシとひび割れ、まるで紐が切れたかのようにバラバラに霧散する。


「あぁぁぁっ!!?ぼくの魔方陣がぁっ!!」

ヴェールの悲鳴が聞こえる。でも……大丈夫。大丈夫よ……あのランスが落っこちて来た瞬間から分かってた。


「結界は……ぼくの結界は……」

錯乱するヴェール。そしてよろける私の身体はひょいっと宙に浮くように引き寄せられ、逞しい腕に抱き抱えられた。


「控えよ」

しかし顔を上げれば、いつもの声のはずなのにそこには私が知らない竜王子の顔があった。


「なん……何だ、貴様はぁっ!!」

目の前でヴェールが吠える。しかしその不躾な暴言に対しても冷たい双眸は変わらない。


「控えよと告げたはずだ」

こんなの……初めてだ。よく見れば服装や装飾品もいつもと違うし……普段はそもそも装飾品なんてほとんどつけないじゃない。さらに頭には角、背中からも竜の翼と尾が見えている。その姿になっているなんて……本当の竜王子のようである。


「……」

そして次の瞬間竜王子の瞳が私を見る。


「(俺ぁ本物だ。あんな結界、ダニエルのに比べたらちょろい)」

私にしか聞こえない声で、竜王子……いやロイがいつもの口調で告げる。な、何で分かったのよ~~っ!てかダニエルよりもちょろい結界……とは言え破れたのはやはりロイだからか。


しかしながらその……いつもと違って何だかちゃんとしていると言うか……私昔、どこかでそんなロイを見たことがある気がするのだ。まるで式典の祭の装いみたい。どこで見たのだろう。


「貴様ぁっ!!よくもぼくの計画を潰してくれたナァッ!!?外交問題だぞ!」

ど……どっちがよ!しかしヴェールがこちらに向かってくる。


「ろ……っ」

ロイの名を呼ぼうとして、ハッと言葉を呑み込む。


「貴様に発言を許していない」

ロイ……いや竜王子が告げた途端何かの圧がズドンと加わるのが分かる。私は平気だけど……少なくともヴェールや周りのエルフ……それからソフィーまで力が抜けたように崩れ落ちる。しかしそれでもヴェールは憎らしげに竜王子を見上げ、そして身体を起こそうとする。


「ぼくは……ぼくはハイエルフだあぁぁっ!!」

「それが?」

竜王子が一蹴する。まさか表情ひとつ変わらず冷たく言い放たれるとは思っても見なかったのかヴェールがぽかんとする。


「貴様こそ、誰を目の前にしているのか分からないのか」

「だ……誰だと……?お前などドラゴニアに引きこもっているだけのただの竜族だろう!!」

ただの竜族……か。さすがはおじいさままで『殿』呼びする男だけど……こちとらおじいさまを『アシェ』と呼ぶ竜王子である。



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