シェリーと母
――――side:シェリー
私はシェリー。このドラゴニア王国の聖女でエルフである。毎日仲間とお勉強や冒険と楽しく過ごしていたのに。
まさかいきなりそんなことを告げられるだなんて。私はお母さまと一緒に料亭ってやつに来ている。尤も花街にある料亭ではなく高級街にある料亭だ。花街のは私はまだ入れないもの。しかし……外のハイエルフとの見合いだなんてどうなってるのかしら。
「その、お母さま」
「大丈夫よ、シェリー。中ではおじいさまが付いているから」
「お母さまは……」
「ごめんなさい。先方の希望で『ハーフエルフ』は同行できないの」
「それ……前に教えてもらったけど、何なの?」
タイヨウは多分……悪気はないし、何故か陛下から教えてもらってから普通にエルフだと思ってくれている。ドラゴニアでは……それが普通なのだ。でも……シャマイム公国から来た召喚勇者は違った。陛下は召喚勇者のいた世界では……と言っていたから異世界の話だと思っていた。あれ……そう言えば陛下はどうしてそんなことを知っていたの……?うーん……でも陛下だからなぁ……色んなことを知っているのだろう。
しかし異世界の話だと思っていたその言葉をお母さまも知っているの……?
「外の世界のエルフの間では、エルフと人間の混ざりものをそう呼ぶの。エルフ以外の血が入っていて、お母さまやシェリーのように耳が短く尖っている特徴の子をね」
「……っ」
前に聞いた時もそうだった。
「だからシェリーも外の世界のエルフからハーフエルフと呼ばれるかもしれない」
「……意味が分からないわ。私はドラゴニアではエルフよ」
「そうね。そうだわ。だからおじいさまもドラゴニアで暮らしているの。ドラゴニアの森のエルフたちもそう。そんな偏見から逃れるためにみんな移住したの」
「それなら……何で私と見合いがしたいだなんて言ってきたの?その見合い相手は……ハイエルフなんでしょ?」
おじいさまと同じハイエルフ。エルフの中でも純血を守りエルフの王の一族とも呼ばれる。おじいさまはそんなハイエルフだが、その地位も名誉も捨てて人間のおばあさまと結婚し、このドラゴニアで暮らしている。でも……外のエルフは純血を重んじる。私たちは……エルフではない。
「シェリー、あなたが聖女だからよ。だから……人間の部分も致し方がないけれどそれでも女神の加護を持つものが欲しい……そう考えたんじゃないかしら」
意味が分からないわ。私の大事な一部を否定しておいて加護だけは欲しいだなんて。
「あなたが産まれた時から、聖女としての加護を持ったことで外のエルフから嫁入りの話があったの」
「そんな……っ」
「だけどあなたはまだ幼かった。だからそれを理由に竜族からNGが出て、陛下もお断りしてくれたの」
「竜族……」
パッと思い浮かぶのはロイの顔だ。あんなダメ勇者でも、アイツは竜王の御子レックス竜王子なのだ。そして竜族はエルフと同じ長命種であるが故に成人前の他種族の嫁入りや婚姻を認めていない。ロイ曰くロリコン扱いされるぞってことらしいけど……ドラゴニアの最上位種族で竜王家がそう言う考えなら通るってことね。
「でもシェリーはそろそろ成人よ」
ドラゴニアの成人は男女ともに18歳だ。どんな種族も混ざりものでも18歳まではみな人間と同じ速度で育ち、その後青年期が長く外見の成長が緩やかになる。おじいさまもそうだし、ロイなんて150歳だけど見た目は20代半ばだ。
「だから成人を見越して婚約を漕ぎ着けたいのね」
「……私はドラゴニアを離れなくちゃ行けないの?」
つまり外の世界のエルフに嫁ぐのだ。
「いいえ、シェリー。あなたはドラゴニアの聖女。どこの国でも自国の聖女を娶るなんてなかなかできないわ」
確かにアートルムの聖女さまはアートルムに召喚されたからアートルムで嫁いだのよね。メイコさんはダリルさんとドラゴニアで結婚したけど……召喚国のシャマイム公国が自ら追放したって聞いた。その後シャマイム公国がまたメイコさんを呼び戻そうとしたけどエスト王国やアヤメさんのお陰で連れ戻されずに済んだのよ。
「まぁひとり魔王国に嫁いじゃったけど……ウチのロイさんも前科アリだもの」
魔王国にって……ユリーカのお母さまのことよね。確かシャマイム公国の出身って言ってたから、あの国なら……あり得る。
それにロイの件はアリシアちゃんのことね。ロイが無断で連れてきちゃったけど、もうフローライト王国はないしアリシアちゃんも幸せそうだもの!これはこれでよし。
だからよほどのことがない限り、聖女が自国を離れ嫁がされることなんてない。
聖女とは自国でしっかりと守られるべき存在だ。だからフローライトでもロイが助けに来てくれたし、陛下も連れ戻す手はずを整えてくれたと聞いた。
「だから結婚するのならあちらがこちらに婿入りするとも言っているけれど……どういう魂胆なのか。とても本気で言っているようには思えない」
「お母さま……」
まさか何か企んでいるとでも言うの……?
「私もおじいさまもこの縁談には乗り気じゃないわ。いざというときは……ウチにも頼れる勇者がいるから安心して」
頼れる、か。あんな品性下劣なダメ勇者だけど、それでも。アイツがドラゴニアの勇者なのよね。
「……ほんとはもう婚約者がいますって断っちゃっても良かったんだけど……魔王陛下がいたたまれなくてねぇ」
え……?婚約者って……いないしそんな話も聞いたことがない。もしかしてフェイク……?でも何故それで魔王陛下がいたたまれなくなるんだろう。




