エルフ神官アリー
――――ドラゴニアに帰ってきて……1日。
「んんー……まだ眠い」
もみゅと顔を埋めれば幸せの感触。
「んもぅダーリンったら!陛下、外に来てるって!」
「え?」
クルルたんのおっぱいから思わず顔を上げる。
エスト王国から転移で飛んで来て、疲れてラブホで寝落ちれば……何で坊が直々にお迎えに来てんだよ!
「俺疲れたぁ、もちょっと寝るぅ」
「大丈夫よ!転移は陛下がしてくれるんですって」
あ……?転移?どこ連れてく気だ?その時ラブホの客室コールが鳴る。
「ほーい」
『ロイ。とっとと降りてこい』
ひぃんっ!!?何でラブホの内線に直接かけてくんだ……っ!坊~~っ!!?
※※※
仕方なくラブホをチェックアウトすれば、ラブホの外で坊が仁王立ちしていた。うおぉ……昼間の歓楽街で異様な覇気を醸し出してやんの。
「おい、坊。何だよもう……エスト王と魔王からの返事も渡してやったろ?」
帰国の際の転移場所もドラゴニア王国城である。国境を跨ぐ以上、形式的にそうせにゃぁならんのだ。
「買い出しは全部してきたはずだが」
えーと……味噌、醤油、豆……みりんに缶詰め、海苔……その他色々。
「そうだな」
「うーんじゃぁ土産か?鰻重気に入らなかったのか?」
せっかくアヤメオススメの鰻屋に包んでもらった鰻重弁当。しっかり坊とハリカ、それからちびたちの分もつけてやったじゃん。あと煎餅は宰相たちにもお裾分けしたし。
「それは旨かった。また遣いにやるから買ってくるように」
やっぱり小間使いにすんのか!また!いやまぁいいけど。次の訪問は定例外交の際じゃないか?なら坊も連れてくからそんときにまたアヤメに鰻重弁当頼めばいいか。
「じゃぁ何だ?何か問題でも起きたのか?」
「アシェがお前を呼んでいる」
「……うーん……まぁわぁったよ」
何の用だ?確かにシェリーを魔王国に連れていったがそれで何か言うとも思えんな。第一アリーだって前に付いてきたんだが。
俺が坊に連れてこられたのは花街の高級な料亭である。
一体何だぁ?
坊に招かれ入った個室にはアシェが来ていた。それに……。
「まぁアリー!久しぶりね」
「えぇ、クルルさん。ご無沙汰してるわ」
クルルたんと笑顔で微笑み合う美しいエルフ。見た目はシェリーにそっくりで並べると姉妹のように見える。彼女がアリーである。
坊とクルルたんと共に2人の前に腰掛ければ、早速アシェがにっこりと微笑んでくる。え……何?
「ロイ、聞きましたよ」
「何をだよ、アシェ」
「これ、アリー宛に魔王陛下から来たそうです」
はい……?何故魔王がアリーに……?そりゃぁ魔王国には付いてきたが魔王はそのまま眠りについたのでさほど面識があるとも思えないのだが。
「ヴィンさんとドロシーちゃんとは仲良くさせてもらってるの」
と、アリー。
「いつの間に!?」
「数十年前の魔王国での戦闘時の協力に関して、感謝の意が届いたのよ。差出人はドロシーちゃん。届けてくれたのはヴィンさんよ。ヴィンさんはドラゴニアであなたと一緒に育ったのでしょう?たまたま当時あなたの担当だっただけで、私は神官としての役目を果たしただけ。でもとても感謝してくれたのよ」
「うぅ……」
まさかそこから今にまで繋がるとは思うまい。しかもちゃん付けって……相当親しくなってんじゃねえのっ!まさか魔王国滞在中も連絡を取り合ったりしてないよな。
「それで何がどうなって俺はここに呼ばれたんだ」
しかも俺が絶対断れない坊にまで協力要請したのは確実にアシェである。しかしアシェがどうしてそれに協力したんだ……?
「これ」
アリーがドロシー経由で届いたと言う魔王のメッセージを見せてきた。
『親愛なるアリー殿。さきの大戦では神官として魔王国に絶大なる尽力をしてくださったこと感謝いたします。ウチの娘ユリーカがいつもお世話になっております。この度はウチの娘のユリーカとアリー殿のご息女シェリー嬢が懇意と言うことで、私は魔王と言う前に父として2人の恋路を応援してやりたく存じます。魔王メーア』
こ……恋路……恋路?え?何でそんなことに……あ、俺の送ったメッセージのせいか!?
いやあの魔王!男相手なら全力で親バカ爆発させるくせに百合はOKかよオイイィッ!まぁ魔族は寿命が長いし、子孫はそんなに急く風潮でもない。魔王って何百年と嫁がいなかったし、聖女キナが望んだ平和が保たれるのなら、あと100年くらいは自由恋愛もアリだろう。ほかにも魔竜の傍系はいるわけだし。
いやでも違ぇけど!あれは女の友情的なもんだ!
「いや……その……まさか魔王がそう取るとは……」と言うかドロシーもそう取るとは……っ。天然かっ!天然なんだろうよ。アリーが仲良くしてる時点で天然の性格の良さなんだろうよ。
しかも敢えて止めなかったヴィンとジジイめ……。ヴィンはともかくジジイは絶対把握してんだろぉっ!
「心配しなくてもドロシーちゃんの天然が暴走したんだってすぐに分かったわ」
「え?」
まぁアリーは元来賢い女だ。ひとの本質を見抜くのも得意である。
「だからそれは女の友情って意味だって説明しました」
「そ……それなら」
別に俺を呼び出さなくても……。
「ユリーカちゃんの本命はタイヨウくんよって教えてあげました」
「はいいいぃっ!?」
それは魔王大噴火ものだろ!?
「魔王さまも聖女のキナさんと結婚したでしょ?って封殺したわ」
やっぱりアリー……恐ぇ女だ。
「なら問題は何もないんじゃぁ……」
「本題はここからよ、ロイ」
「えぇ?」
「これを」
アリーが見せてきたものはまるで……。
「何これ、見合い写真?」
開けば見目麗しいエルフの男が写っている。
「えぇ。シェリーへの見合い写真よ」
「えぁ?お前が用意したのか?」
アリーだって自由恋愛だ。そりゃぁハイエルフのアシェの娘だ。たとえミックスであってもドラゴニアではエルフの洗礼を受けたエルフ。だからこそ彼女を妻にと望む声も多かった。無論……国外のエルフからの縁談であったが。
「まさか。国外のエルフの里が……送り付けて来たのよ」
アリーの表情が剣呑なものになる。アリーもその件ではだいぶ苦労したはずだから……仕方がないとも言えるが。どうしてまたこのタイミングで……?




