聖女が望んだ世界
――――魔王の目覚めに魔王国は湧いていることだろう。普通ならば魔王の目覚めは世界に激震が走るだろう。
しかしながらドラゴニアとしては坊から親書渡してと言われている。旧フローライト領は自国の元勇者のやらかしのせいで脅えているだろうか?アートルム帝国はドラゴニアが国交を結ぶならきっとあちらも興味を持つ。
エスト王国にはアヤメがいるからな。アヤメはダークローズのことは残念がるだろうが、ドロシーやヴィンとも仲がいい。今度は魔王に手合わせをねだりに来そうである。
シャマイム公国は……知らん。
「あとこれ、うちの坊……ドラゴニア国王ヴァシレオスからの親書だ。ちゃんと読まないと床に顔沈めんからなぁー」
「やめろ、起きがけに。この横暴勇者め。しかし……起きがけに親書までくださるとは、ドラゴニアの国王は相変わらず面白い」
魔王はカラカラと笑う。
先ほどまでは捕縛されるダークローズを残念そうに見送っていた。今後は魔王の鱗の無断利用やその合成方法についての取り調べが行われる。まぁ、魔王はそれを悪用したりはしない。それでは魔王の望む世界は来ないからだ。
あと、アーラについても事情を聞いた魔王の雷が落ちた。
「ゆ……ユリーカさま……」
「アーラ。タイヨウを騙して命を狙おうとしたこと……事実なのね」
そのことをユリーカに知られたアーラは酷く落ち込んでいる。
「なら、ちゃんとタイヨウに謝って」
「え……?それだけで、いいの?」
「それだけ……?ちゃんと謝ることをそれだけだなんて言うのなら……私はあなたを許せないわ」
「……っ。わ、分かった。ユリーカさま」
ユリーカもまたそれで許そうとしている。
「すみませんでした」
アーラがタイヨウに頭を下げる。
「うん。謝罪を受け入れるよ」
タイヨウも大変な目に遭ったと言うのに。彼を許そうとしている。
「……いい、のか」
「だってユリーカのファミリーだから。これからもユリーカのファミリーでいて欲しい。ぼくからはそれだけだ」
「ほんと……お前は甘い……勇者だ」
それでもアーラがどこか嬉しそうなのは気のせいか。
「しかし……ずっと右腕であった参謀がいなくなってしまったな」
「どうすんだ?魔王」
「……そうだな、久々に復帰してくれぬか。クロウ」
え……ジジイ?
「……後任が決まるまでだ」
「それまでは苦労かけるかもな」
「今さらだ」
クロウは何事もなかったように告げる。へぇ……ジジイが昔参謀やってたなんてのも……初耳だな。
「では、ロイ。私からもドラゴニア王へ」
魔王の認めた親書を受け取る。
「それから……」
「ん?」
「……ユリーカはお前の元でまだまだ学びたいようだな」
「いや遊んでるだけだろ」
「それでも、楽しそうに冒険しているようじゃないか。これからも……頼んだぞ。お前は魔王国の……恩人なのだから」
「……気が向いただけだ」
それに魔王はくすくすと穏やかに笑うだけだ。本当に……全てが全て元通りではないが魔王が目覚めた世界にはキナが望んだ世界があったのだから。




