国境へ
ひとにものを頼む時にゃなぁ、それ相応のもんが必要だ。
だからこそ……。
「んで、いくら出す?もしくはそれに相当する対価は払えんのか?」
「ちょ……ちょおおおぉぉぉっ!待ってくださいロイさん!!」
「……んだよ、ダニエル」
「何だよじゃないですよ!アンタ、こんな子どもから何金せしめようとしてるんですか……!それでも勇者ですか!?」
「ふん、んなの加護を与えた神に言え」
「……アンタいつかバチ当たりますよ!?普通、子どもが……しかも聖女さまがお願いと頼んでいるのなら、引き受けるでしょうよ!大人として!勇者として……!」
「あ゛――――、何で?聖女や子どもが言ってきたからって何でも勇者が引き受けていたらどうなる。神殿は、聖女や子どもをだしに使って勇者に無償で仕事させんだろ?」
「……それはっ、その、ないとは言えません……」
神官ですら、そう言う風に見なすってこたぁ……神殿内のキナ臭さも相当なもんだな。
「大体、何でもかんでもただでやるなんざぁ……そんな大人を信用すんのもどうかと思うねぇ。例えば神殿のように、タダで髪や肌を潤し、寝床と食事を与える……その代わり、家族とも離れ離れ、タダで慈善活動をさせられ自分の聖魔法を利用されるんだ。何か間違ってるか?」
「……いえ」
ダニエルが悔しげに俯く。それくらいの感性は持ってる以上……ダニエルは少しはマシだってことか。
「さて、聖女アリシア。お前は何を差し出す?」
ぽすんとソファーの肘掛けに腰掛け、アリシアを見る。
「その……私は……これ、でしたら」
アリシアが躊躇いつつも差し出したのは、服の中にさげていたと見られるペンダントだった。丸い木枠の中に、磨かれていない質の悪い石が嵌め込まれている。
「その……私が持っているものは、これしか……っ。昔、私が故郷を出る際に……お兄ちゃんが持たせてくれた……手作りのペンダントです。これがあれば……いつだって心は一緒だと、お兄ちゃんが……」
「そんな大事なものを……」
ダニエルがそう漏らすが、アリシアはふるふると首を振って、俺に向き直る。
「いいんです……!だって……これからお兄ちゃんに、会いに行けるなら……!家族に会えるなら……村に帰れるのなら……、構いません!だからどうか……ロイさま……。これで……、どうか……っ」
「……まぁ……しゃぁねぇ。足りねぇ分は出世払いな!」
アリシアからペンダントを受け取り、マジックボックスに収納する。
「ロイさま……!」
「マジックボックスまで持ってるってほんと……チートすぎますよ……でも……!その上出世払いまで要求するとかやっぱりがめつすぎます……!!」
「正当な報酬をもらうだけだ、何が悪い……!」
「まぁまぁ、いいじゃないの。善は急げよ、ロイ」
「あははあはは、んだねぇ、クルルたん。銭は急げだ」
「いや違うでしょ。格言まで最低なんですけど」
「そんじゃぁ国境まで行きますか。ダリルー、行ってくるから、これ今日の金」
マジックボックスからさっと取り出し、指でピンと弾いたのは、黄金の輝き。
「まいどっ!」
「え、え?金貨ぁっ!?いや、その、この店の物価が心配なんですが」
「あれは酒代だ。帰ってきたら飲むからうまい酒仕入れとけっつーやつ。俺とダリルの仲だかんな、ダリルはちゃんとわかってらぁ」
「あぁ、もちろん。仕入れとく」
ほらぁ~~。
「ちょ……帰ってきたら早速飲む気ですかアンタ……色事に金、酒……もうほんとダメダメすぎる。ぃ、でも今から出発ですか?今から馬車なんて……てか、こんな時間に子連れで王都の外に出るとなると手続きが……」
「ん?そんなことしねぇよ、めんどいじゃん」
「は?」
「はい、みんなまとめて、転移っ!」
「はあぁぁぁぁぁぁ――――――――っ!?」
「れっつご~~っ!」
あ、クルルたんのそのれっつご~~かわいすぎ。俺の脳内フォルダに漏れなく保存しとく~~。さて、行きますか。
そして周囲の景色は……一変した。
――――――ドラゴニア王国国境地帯
「さぁ~て、ついたぞ!フローライト王国との国境地帯だ!あ、つーかここの国境で合ってた?」
「えぇーと……あの門の紋章は……合ってます……!」
ダニエルが魔法端末を使ってマップを確認する。しかし……あの端末……神殿支給か……?
「てか、分かってないのに転移したんですか!つーか転移までできるなんてどんだけチートなんですかアンタは……!」
「いいじゃん合ってたんだからさぁ。ま、つーことで一応点呼なー。ダニエルはオッケーとして……クルルたーん」
「は~ぁ~いっ!」
相変わらず、返事までかわいいな、俺の嫁……!
「アリシア」
「はい!」
「よし、全員いんな!じゃぁ国境越えんぞー」
因みにフローライト王国内は、あんまりクエスト受けたことがないから、行ける場所が限られている上に、国境をほいほい越えるとさすがに坊に怒られんだよなぁ。
ま、冒険者として国境を自由に越える権利は持ってるから、国境の出入りを記録しといてもらえばいいわけで。
「でも、こんな時間に門を開けてもらえるものなんですか?」
「俺は冒険者だぞ?夜の依頼だってあるんだから、越えられる」
「……と言っても限度があるでしょうに」
「ダーリンなら平気よ」
「そうそうクルルた~ん」
つか、クルルたんそれ、マジ!?俺は気が付いてしまった……!ごく自然にアリシアと手を繋いであげているクルルたんを……!迷子にならないようにと言う配慮なのか、優しすぎる!姉さん力溢れすぎててマジまぶい……っ!く……っ。
「……何で涙ぐんでんですか、アンタ」
「ふ……っ、ダニエルにゃぁ……まだ早ぇか……」
「何かムカつきますね!?」
クルルたんを途中途中愛でつつ門の前までくればだ。
「あれ、ロイさんっ!?」
「ロイさんだ!勇者の持ち腐れ!」
「辺境にいるだなんて聞いてませんよ!どうされたんですか?夜遊びっすか」
門番たちが早速気が付いたようだ。相変わらずおめぇらは……。
この前もらった王家からの国境警備騎士隊指南指名クエスト……受けてやるから楽しみに待ってろよ……?
ニィッ。
「ちぃと野暮用。国境越えてフローライト王国行ってくっから」
「フローライト王国ですか?こんな時間に……」
門番が不意に俺の連れを見やる。
「は……っ、い、いつの間に……!」
何がいつの間になんだろうか?
「いつの間に竜妃さまとの間に姫をもうけられたのですか……!やや、おめでたい……っ!」
「んぁ?クルルたんとの間に……?」
愛しのクルルたんを振り返れば。
クルルたんと手を繋いでもらっているアリシア。
――――いや、どこからどう見ても、アリシアは茶髪に茶色の瞳!
俺の黒髪金眼にも、クルルたんのモーヴ髪にもかぶってねぇだろがあぁぁぁっ!
「あら……、やだ……っ」
「でも、そろそろ子作りもいいかもしんねぇな……」
「ロイったら……っ」
「なぁ、帰ったらラブホ行かねぇ?」
「いいわね……!」
「いや、ちょ……っ、帰ったら酒飲みに行くんじゃなかったんですか!!」
「あ、そーだった。それもあるんだ!忘れるところだった」
「ダリルさんに頼んでおいて忘れないでくださいよ。あと、子どもの前でその、ら、ら……」
「あの、クルルさま。……らぶほって……何ですか?」
「ほらぁ――――――――っ!アリシアちゃんが気になっちゃったじゃないですか!!子どもの前でラブホとか言わないでくださいよ……!!」
「でも……!オトナも子どもも使う魔法端末の絵文字フォルダに、ラブホアイコンあるだろうが!子どもに、ぱぱ、まま、これなぁにって聞かれた時、てめぇ何て答える気だあぁぁぁぁだ!!」
これがありゃぁ通話、テレビ通話もメールもできる!さらには冒険者カードだってこの中のギルドアプリにデータが入ってる!!もちろんなんかの時のために現物もあるが……ギルドアプリがあれば、クエスト検索、受付ですらアプリで済ませられる!まぁ初心者は原則窓口だが、ランク、冒険者年数によってはアプリで済ませられるし、報酬の受け取りだって電子でできちゃう……!さらにはギルド職員とのチャットも入っているから、困った時にも安心便利な超お手軽なアプリまで使えちゃう!
しかし、この端末には……アプリのチャットでも使える……ラブホ絵文字が搭載されているのだ……!!
「え……と……」
「んもぅ、ダニエルちゃんったら。簡単じゃない。ぱぱとままがあはんなことやこんなことをしちゃう、オトナの場所よっ!」
「あはんダメダメ!もうちょっとオブラートに包めないんですか……!」
「……知ってる……!教皇さまが夜な夜な通ってるとこ……!」
『え……?』
ダニエルががっくりと崩れ落ち、全世界の神殿の総元締めの衝撃の真実が明かされた。
「あのー、ロイさん。手続き済みました。どうぞ?」
門番が夜間用の小さめな門を開いて待っていた。