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魔王の目覚め



――――空間を短縮した。進むべき方向が見えているのなら、そんなもの目にも止まらない速さで辿り着く。

そしてダークローズの剣が背に突き刺さり、腹を貫通する。そしてびちゃびちゃと鮮血が靴に降り注ぐ。


「お前も目ざわりだ目ざわりだ目ざわりだ!魔王さまが支配するこの地上に……お前もいらない!ドラゴニアの勇者ァッ!!」

後ろでダークローズが狂ったように叫ぶ。

「そんな……ローズ……何でそんなこと…… っ」

ユリーカが震える声で叫ぶ。


「私と魔王さまの描いた新世界のためだ!そのためにはお前らはいらない。聖女が怪我した魔王さまの血も……お前もいらないんだよ、ユリーカアァァッ!」

「え……あ……ローズ?」

「私の名前を呼ぶな!汚ならしい聖女の娘がっ!」

「そん……な……どうして……っ」

やはりお前は……キナをそんな風に見ていたんだな。


「お前も勇者どもとあの世に送ってやるヨオオオォッ!!魔王さまには私だけでいいんだアァァッ!」

――――ったく……それが本性ってことか。よくもまぁこんなに長く偽りの『ファミリー』の仮面を被っていた。


「はぁ……さっきから黙って聞いてりゃぁ……お前のそれはただのお前のエゴだ。そんなものを魔王に押し付けるな」

「は……?何故、まだしゃべれる」

「お前さぁ、その魔剣。本当に魔剣かァ?痛くも痒くもねぇし……そもそも竜王子の身体を貫けるわけ……ねぇだろっ!」

魔竜以上に剛健で頑丈な神竜の末裔。そんじょそこらの魔剣に貫けるわけがない。たとえ俺が勇者であっても、その上位互換の特性を持つのだから。負けるはずがない。


次の瞬間素早く振り返った俺はダークローズ目掛けて回し蹴りを叩き込んだ。


「ぐふ……っ、何故……魔剣が……」

「そうだなぁ……できるとしたら……500年もののヴァンパイアロードの血製って手もあんなぁ」

その瞬間後ろからもぴちゃびちゃと血が滴った。

ま、実際は俺の背と腹にくっついてるだけで間がねぇ。つまりダメージゼロの偽物だが。


「そん……な……まさか……」

そんな芸当ができる魔族が誰だか悟ったのかダークローズが愕然とする。


「く……っ。服が汚れた。後で弁償しろジジイっ!!」

そう叫べば、どこからともなくコウモリが集まってきてやがてひとりの男を形作る。

「ふん……お前は相変わらずどこまでもがめつい」

クロウが嘆息する。そして次に床に崩れ落ちたダークローズを冷たく見下ろす。


「お前がやっていたことくらいは分かっている。魔王の残した鱗を使い魔物を改造していた。実験の成功例は少ない、拒絶反応、材料が少ない。だから今度はユリーカの鱗を取ろうとした。ドロシーも魔族の子どもを使って脅したな」

そうしていい家族の仮面を被りながらユリーカを拐ったのだ。ドロシーが従ったのは魔族の子どもやユリーカを守るためだ。ドロシーは強くもありまた優しすぎる。魔王四天王としての強大な力があれども本人の性格が戦いを拒絶する。まぁアヤメはああいう性格だからたまの手合わせもするだろうが……そうでもなけりゃぁ彼女は悲劇を拒絶する。そんな彼女さえこの女は利用したのだろう。


「何で……知っていながら何で……クロウさま、あなたも……魔族が人間を支配する戦乱の世を望むはずだ!」

クロウはその時代を生き延びてきた古参の魔族だ。しかしお前はクロウの【そこ】しか見ようとしなかったのか。


「何故?そのようなことをすれば無駄な血が流れる。人間の血は我が吸血鬼一族の糧。餌なら間に合っているが、それを脅かすことをするのならば、吸血鬼としては黙っておられんな」

「そん……なっ」

戦乱の世を駆けた猛将。しかしながらクロウにその気などない。表面上は種族的な理論を掲げつつも所詮は……孫娘バカだ。


「今何か不遜な思考を孕んだだろう、クズ勇者」

「さぁ、どうだかねぇ」

「まぁいい。後の沙汰は我が主君が決めること」

「……っ」

ダークローズが息を呑む。それもそのはず。今までずっと分身を使っていやがったクロウがここにいる。今はちゃんと影もある。かわいい孫娘との再会ですら苦渋を呑んで分身を放っていた。だがしかし、魔王の封印の守りを担っていたクロウの本体がいるのなら、その答えなど決まりきっている。


「話は聞かせてもらったぞ」

そこに現れたのは赤い髪に赤目、黒い角や赤い竜の翼、尾を持つ人外の美貌の君主がそこにはいた。


「お父さま!」

「魔王さま……っ」

ユリーカが喜びをあらわにした反面、ダークローズは絶望の表情を浮かべる。彼女だって分かっていたはずだ。それでもなお自分の野望を叶えるために魔王の大切なものをぐちゃぐちゃにしようとしたのだ。


魔王はダークローズに苦渋の表情を向ける。魔王も長年信頼してきた側近のやったことにショックを隠しきれないようだ。

そしてヴィンと項垂れているアーラも到着する。ドロシーもクルルたんに支えられながらダークローズに向き直る。もう完全にここは……ダークローズの敗北だ。


「ローズ。お前は……信頼していた。部下として、側近として……ファミリーとして」

だからこそ魔王は安心して眠りにつけたのだ。娘には家族がついているから。その娘は勝手に国を飛び出してドラゴニアに滞在していたわけだが。


ヴィンは俺がいる国だしユリーカが望むならとユリーカの希望を優先してくれただろう。ドロシーもだ。一方でクロウも何も言わなかったのなら……クロウはユリーカが国外にいた方がいいと結論付けたのだろう。


そして魔王の目覚めを待った。全ては魔王の判断を仰ぐために。もしくはまだ希望を捨てていなかったのか。クロウもまたユリーカを傷付けないために、ダークローズが踏みとどまると。


しかしダークローズは未だ野心を捨てず魔王を見上げる。


「私は……私は魔王さまのために……誇り高き魔王さま……その血が聖女などと言う汚れた血に汚された!そんなの……許せるはずがない!魔王さまはこんな薄汚れた混ざり子のことばかり……!」

ダークローズが次はユリーカを睨むが、ユリーカの前に立ちはだかったのはシェリーだ。曲がりなりにもここには魔王がいる。取り敢えずダークローズの暴走を抑えられると見なしたのかダニエルも止めなかったようだ。


「ふざけんじゃないわよ!混ざり子の何が悪いわけ!?私のお父さまもお母さまも……おじいさまもおばあさまも愛し合ってた。そうして私も生まれたのよ。ユリーカだって同じよ!きっとお父さんとお母さんに愛されて生まれてきた。それが汚れているわけないじゃない!私の友だちを悪く言うなんて許さない!」

狂った魔王四天王の前で、さっきまで恐いと漏らしていたのに。ユリーカのために前に立つとは。聖女ってのは時に勇者よりもがめつい。いや……コイツの場合は遺伝かな。

不本意ではあれど臨時で担当になったからとアリーは魔王城での戦闘にまで付いてきた。

そしてダークローズの本性を言い当てていたわけだ。言葉としては『ああいう女嫌い』だったが。担当神官が取っ替え引っ替えな品性下劣勇者をナメるなよ。その裏に隠された本心だって経験則が導くさ。しかしながらダークローズも相当しぶとい。何十年も本性を隠してきただけのことはある。


「魔王の娘と聖女が友だち……?そんなことあり得るはずねーだろーがっ!ただピーピーほざくだけで弱いだけのムカつく女がっ!」

それはキナのことか、アリーのことか。少なくともダークローズはシェリーにアリーを重ねている……と見るのが適当だろうな。

「ひっ」

シェリーがダークローズの剣幕に脅えるが、タイヨウも隣に立ち支えてやっている。ほんと……仲良しなことで。


「汚れた?はんっ、バカを言うなよ。シェリーはバカで短絡的だが」

「ちょ……ロイっ!?」

シェリーから抗議の声が届く。ふん……すぐ元気になったようで何よりだ。

「どこまでもまっすぐだ」

「……っ!」

シェリーが息を呑む。

「そうです!まっすぐなシェリーがいるからぼくもユリーカもいつも前向きに生きられる。血なんて関係ありません。ユリーカもシェリーも、ぼくの大切な仲間ですから。ふたりを悪く言わせるなんて許しません!」

タイヨウもシェリーに触発されてか、元々正義感の強いやつだからか。いや……多分3人で強くなったんだな。


「うん、タイヨウもシェリーも私の大事な仲間だよ。だから……だからローズ。あなたのことは……悲しかったけど……でもローズと過ごした年月は私にとってはとても……今でも大切なファミリーなの。私、忘れないから」

ガラス玉のように砕けると思っていたユリーカの心でさえここまで強靭に、強い意思を帯びる。


「ば……バカじゃ……ないの……」

そう言い返すダークローズの声は……どこか弱々しく震えていた。



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