嫉妬VS下衆
――――side:タイヨウ
「あの、アーラさん。ヴィンさんはどちらに……」
ロイと親しそうであった魔王四天王のヴィンが呼んでいる。そうアーラに聞き着いていったのだが、随分と魔王城の奥まったところまで来た。
そしてとある一室に入ればドアがバタンとひとりでに閉じる。これは魔法で閉じたのか?
魔法の存在する世界。そう言った魔法もあるのかとただただ召喚者タイヨウは感心していた。
「はんっ。召喚勇者と言うのはどいつもこいつもアホなのか」
「……えっ」
真面目そうな魔族の青年から漏れでた言葉に首を傾げる。青年と言ってもタイヨウよりもうんと年上である。
「なら数十年前に攻めてきた旧フローライトの勇者の方がまだ賢いはずだ」
旧フローライトの勇者……その言葉にさすがのタイヨウも顔を曇らせる。こちらの世界であった悲劇。叔父が命を落としたのは旧フローライトの勇者の凶行であったと言う。
叔母もタイヨウの仲間であるユリーカもシェリーもその話題には顔を曇らせる。シェリーは強気で言い返すが、それもユリーカのために強がっていることくらい分かる。そして……彼らの後輩のまだ小さなこの世界の勇者と聖女の前では……みなその話題を出さない。けれど彼らが慕うドラゴニアの勇者がいるからこそみな今も明るく安心して暮らしている。
だが……その旧フローライトの勇者に対し肯定的な意見にタイヨウは少なからず不穏な気を感じとる。
「ここにヴィンはいない。そんなものお前を誘い出すための狂言に決まっているだろう?なのに疑いもせずにのこのこと付いてきやがって……本当に愚かだな!」
「だって……あなたはユリーカの……」
『ファミリー』なのだと、ユリーカは嬉しそうに言っていた。
「お前がユリーカさまを語るな!」
「……っ」
タイヨウはアーラの怒気にハッとする。しかし恐怖耐性のお陰かタイヨウはその怒気に封殺されずに済んでいる。
「人間ごときが……ユリーカさまをっ。お前はユリーカさまにふさわしくない!」
そう叫ぶとアーラが掌に魔力を凝縮させタイヨウに放つ。これはまずい。タイヨウは咄嗟に聖剣を抜き魔法をひらりと躱し、躱しきれない部分を聖剣でガードする。
地球ではこんな戦闘など経験はない。しかしこの世界の師のお陰で戦う術を身に付けられた。
まだまだロイには及ばないが、しかしこれくらいならば。
「ちょこまかと小賢しい!そうだ勇者……勇者を殺せば……きっと魔王さまが褒めてくださる!そして……ユリーカさまも、ぼくをっ」
アーラが次々と魔法を放っていく。
「く……っ」
「ほらほら、ガードだけか?攻撃もできないのか、このへなちょこ勇者がっ!なぁ、抵抗もしないと死んじゃうよ?」
「だって……あなたはユリーカの……ファミリーだから……」
ユリーカの大切なものを守りたい。傷付けたくない。タイヨウの中にあるのはその感情だった。何とかして、説得して、和解して……。
しかしそんなタイヨウの思いすらアーラには逆鱗に触れる。
「お前がユリーカさまを語るなァッ!!お前はユリーカさまの側にいらない!お前も……あの聖女って女もウザい。あのドラゴニアの勇者も全員目ざわりだ!いい加減ウザいんだよ!何だよそれ!いいこちゃんぶってんの?そう言うの……大っ嫌いだ!みんな殺してやる……お前を殺した後に!さぁ……死ね!!!」
アーラが極大魔法を放つ。
「……っ」
タイヨウが息を呑み、アーラがほくそ笑んだ時だった。
「生意気なガキだな」
いつもよりも酷く低いその声がタイヨウとアーラの耳に確かに届いた時。アーラの放ったはずの極大魔法は……いやそれ以上のものがアーラの魔力ごと呑み込み、アーラに襲いかかった。
「ひ……ぎゃっ」
アーラの悲鳴が響く。
「魔王四天王の代替わりかぁ……そうだ忘れてた。お前の調教はまだだったナァッ!!?」
「ロイさん!」
タイヨウはその勇者の名を叫んだ。誰よりも強く、何かと世話をやき、自分たちを見守ってくれる。その勇者の名を。
その品性下劣勇者はその二つ名にふさわしい下衆のごとき笑みを讃えていたが……。
 




