魔王国参謀
――――魔王城・執務室
「クククッ。本当にアンタたちは。いいじゃないのさ。ユリーカもお年頃なんだ」
今は城主のいない執務室で参謀として座る美女が華やかに微笑む。ダークレッドの髪に金色の瞳。黒く歪んだ細い角、サキュバスの翼としっぽ。彼女は参謀ダークローズ。ローズと呼ばれる。
「そうよ。過保護が過ぎてユリーカが行き遅れたらどうしてくれるの?」
そう告げたのはダークローズと同じサキュバスの特徴を持つ美女だ。ピンクの髪にチェリーレッドの瞳。魔族角は通常より細い黒。サキュバスの翼としっぽがある。魔王四天王紅一点のドロシーである。ダークローズは文系だが、ドロシーは魔王四天王も務め魔法も武術も極めている武人である。。
「行き遅れ……?何?」
「ユリーカは気にしなくていいの」
ドロシーがクスクスと微笑みながら告げる。一方でドロシーたちの横で何か言いたげな魔王四天王の男性陣。ヴィンとジジイと……見慣れぬ魔族の青年こそがアーラだと言う。
「そう?ならほかにも紹介したい子がいるのよ。私の親友のシェリーよ」
「初めまして。ユリーカさんとは仲良くさせていただいてます」
「……そう。そうか。ユリーカと仲良くしてくれて感謝する。これからも仲良くしてやってくれ」
「もちろんです!」
シェリーの言葉にユリーカも嬉しそうである。
「ロイさん、ここがユリーカの故郷なんですね。みんなユリーカのことを大切に思ってるの伝わってきます」
「……そうか、そうだな。タイヨウ」
できることなら……何事もなく。魔王が目覚めるまで。
「魔王さまのお目覚めが近い。我々も魔王さまのお目覚めに備え準備をしている。少々慌ただしいがユリーカの帰省は我々としても嬉しいものだ。客人たちよ、どうぞゆっくりしていってくれ」
そうダークローズが告げる。
「あぁ、そうさせてもらう」
俺たちは客間に通された。
「はぁ、しっかし……」
いつも通りと言うか、前回来た時そのままと言うか。まぁ代替わりした四天王はいるものの、いつも通りだ。
「ダーリン、どうしたの?」
魔王では2人部屋で、ダークローズが何を気遣ったのか俺はクルルたんと2人部屋、タイヨウはダニエルと。シェリーはユリーカとだ。
まぁクルルたんのおっぱいを眺められるのは最高だがな。
「魔王の目覚めが待ち遠しいなーってさ」
「んもぅダーリンったら。確かにユリーカちゃんは今楽しそうだもの。魔王さまにも早く見せてあげたいわね」
「そうだな……」
「でも」
「ん?」
クルルたんが前屈みで俺を見つめてくる。
「あんまりひとりで悩み過ぎないのよ?」
何だかクルルたんにはいつもお見通しなようである。
「分かってるよ。サンキュ、クルルたん」
「うふふ、当然よ。ロイ」
クルルたんと歓談していれば、ふと部屋の外に視線が行く。
「見てくる」
「うん、ダーリン」
んー……クルルたんに何か用か?
部屋の扉を開ければ、そこには部屋の前を行ったり来たりするシェリーがいた。
「おい、シェリー」
「ひっ、ろ、ロイ!?」
「何してんだ?クルルたんに用か?」
「その……アンタに」
「んぁ?」
俺か?
「クルルさんも一緒でいいよ」
「まぁ入んな」
シェリーを部屋に通せば、何だか落ち着かない様子である。ユリーカと何かあったか……?今さらコイツらの友情に何かあるとも思えんが。
クルルたんが優しくシェリーをベッドに座らせて上げれば、シェリーが口を開く。
「あのね……その、私聖女でしょ?」
「あぁ、そうだな」
今さら聖女と魔王の娘の関係性が気になるとかか?
「聖女や勇者って、昔の名残のようなものがあるっておじいさまに聞いたことがあるの」
確かに勇者のマップサーチなんかにも昔の名残があるな。
「聖女って……魔王国の幹部を恐いって思うものなの?」
ん……?
「でもヴィンさんやクロウさんにはそう感じないの」
「確かに人間ってのは本能的に魔族を恐れる本能がある」
シェリーはエルフではあるが人間の血も入っている。俺にも人間の血が入っているが、魔族よりも竜族の方が上位種族のため魔族を恐れる本能はない。
「今では人間と魔族は争っていない。だからこそその本能もだいぶ薄れてきた。だが中には人間を畏怖させる力を持つ魔族も残っている」
時には竜王も地上のひとびとに崇拝される。そこには本能的な畏怖も存在することだろう。
「ジジ……いやクロウなんかがそのいい例だ。だが勇者は恐怖耐性を持ち、聖女は状態異常に強い加護がある」
勇者は魔族に立ち向かうため、聖女は勇者を回復させるため状態異常にならぬよう。
その恐怖耐性は今は対魔物戦で役立ち、聖女も同様である。回復役が状態異常にかかれば立ち行かなくなる。聖女はそう言った面で強い。
「え……クロウさん?厳しそうなひとだったけど、ユリーカのことは孫娘みたいに大切そうに見てたわ。えーと、魔族だからとっても年上なのよね」
聖女は恐怖に対しては勇者ほどの耐性はない。あくまでも聖女の耐性は毒や麻痺混乱、魅了などへの耐性だ。なのにこれは……。
「ならお前は誰に『恐怖』を抱いた」
「……その、外交問題になったらあれだけど」
「お前をここに通した時点で、会話は外に漏れない」
「……その、参謀さま」
ダークローズか。
「どうしてだ?」
「その……もしかしたら迫力ってだけかめ知れないんだけど。ユリーカに向ける表情が……恐かった」
「……まさか、母娘で同じことを言うとはな」
「え、お母さま?」
シェリーの母親はエルフと人間のミックスだ。とは言え彼女もエルフの洗礼を受けているから種族はエルフだが。
その時、再び部屋の扉の前に来た気配が部屋の扉を開ける。誰か分かっていたからこそ……開かせた。
「何かあったのか?ダニエル」
「あの……実はタイヨウくんがヴィンさんに呼ばれたらしいんですが」
ヴィンが……?何故タイヨウを呼ぶんだ……?来る前に言っていた手合せだとしても何か引っ掛かる。
「呼びに来られたのがアーラさまだったので、ちょっと気になったんですよ」
アーラが呼びに来た?
「あと……その、ユリーカちゃんにも相談しようと思ったんですが部屋にいなかったので、シェリーちゃんと一緒にこちらに来ているかと……どうやらいないようですね……」
「え、ウソ……部屋で待ってるって言ってたわよ!?」
シェリーが驚く。誰かに呼ばれたか……シェリーを追いかけて迷ったか。部屋は横並びだが……それでも迷う。そうじゃなければシェリーと手ぇつないでエスト王国城で過ごしてない。ドラゴニアの王都でもひとりで出歩いて迷って、飯屋の常連に連れて来られるくらいなのだ。故国の城の中だからって……油断できないのだ。




