魔王の娘
――――翌朝。俺たちは魔王国へ向かう。エスト王国まで迎えに来たと言う設定のヴィンと共に。
「ヴィン!久しぶりね」
「あぁ、お嬢。元気そうだ」
ヴィンは何事もなかったかのようにユリーカを抱き締める。懸念など何もないように。
「その、ロイさん。ヴィンさんは魔王四天王なんですか?」
「そうだぞ、タイヨウ」
「勇者と魔王四天王……どう言う立ち位置であればいいんでしょう」
「アヤメみたいに手合せ挑んでもいいぞ。ヴィンなら」
「おーい、ロイ!勝手に挑戦者増やすなよ」
そんなヴィンの不満声が聞こえてくる。
「何だ、賑やかになっていいじゃないか!」
朝はアヤメも見送りに来た。エスト王の代理でと言うことらしい。
「そうよ。みんなで仲良くできるのはいいことだわ!」
「んー、クルルたんがそう言うならっ!」
「相変わらず鼻の下が伸びてるわね」
「ほんと変わらない勇者の持ち腐れですね」
後ろからシェリーとダニエルの声がする。ふん……構わねぇ。俺は勇者である前にクルルたんの番だからな。
「ねぇロイ!転移で行くんでしょ?ほら」
ユリーカが呼んでいる。まぁ仕方がない。今回の転移はヴィンが務めてくれる。てか俺は昨日の転移でちょっと疲れたし。エスト王国はドラゴニアより遠く離れているのでごそっと魔力を持って行かれるのだ。
「それじゃ、気を付けてな」
「あぁ、アヤメ」
アヤメに手を振ればヴィンが準備を整えたようだ。
「じゃぁ転移するぞ、魔王城だ」
「わぁ、楽しみー」
タイヨウがどこかウキウキしている。
「ついたら私が案内するわよ、タイヨウ!」
ユリーカはタイヨウに故国を見せられるのが楽しみなようだな。
「楽しみなのか?変わった勇者だな」
ヴィンがタイヨウを見てカッカと笑う。
そして転移の座標を確かめながら俺たちを連れて魔王国へと転移した。
そして……。
「げ」
俺たちが転移した間で待ち構えていた男に思わずそう漏らした。
「おじいさま!ただいま!」
ユリーカだけはニコニコと笑みを見せているが、出迎えた男……ジジイことクロウは相変わらずの仏頂面。黒髪に切れ長の赤い瞳。尖った耳に血の気のない肌。貴族の紳士のような装いに黒いマントを身に付けている。そして相変わらず影がない。さらに見た目30代なのに中身は500のジジイである。
「お帰りなさいませ、姫さま」
そして相変わらずかたっくるしい。
「それからドラゴニアの勇者」
「あんだよ」
「……それはこちらのセリフだ。開口一番に『げ』とは何だ」
「だって転移したそうそうてめぇがいんだもん」
「もう、ロイったら!おじいさまと喧嘩しないの!それに……おじいさま!」
うん?何だろう。ユリーカはドラゴニアやエストでの旅の思い出でも語るつもりか?
「その……えっと……紹介するね。タイヨウよ。わ、私の大切なひとなのっ!」
ユリーカがもじもじしながら告げた。何も気が付いていないらしいタイヨウはユリーカが紹介してくれたので普通に挨拶する。
「ユリーカさんとは仲良くさせてもらってます。よろしくお願いします」
いや……タイヨウは十中八九普通に挨拶したつもりなんだろうが。ユリーカの言葉と合わせたら……なぁ?
「ろ、ロイ、聞いてねぇぞっ!!」
ヴィンが叫ぶ。
「……貴様……どう言うことだ」
ジジイが俺を射殺しそうな目で睨み付け、そして召喚の間に入ってきた見慣れぬ黒髪に白く歪んだ角の青年が崩れ落ちた。
ひぃ~~っ!!めっちゃ面倒なことになったぁ~~っ!
「どーすんですか、ロイさん」
「俺に振るなぁっ!ダニエル!」
俺は無実だっつーのっ!!!




