魔王の側近たち
――――人類とは進化する生き物だ。
その中には人間も魔族もエルフも獣人も、竜人だって含まれる。
しかし時には古代人の叡知を手に躍進することもある。
「とは言え……俺にはみんなを疑うことはなかなか……な。みんな魔王さまのこともユリーカのことも大切に思っているんだ」
魔王が望んだ娘の成長を見守れる世界。キナが望んだ平穏な世界。だがそれを望まぬ魔族だっている。大昔の戦乱の世を懐かしむものもいる。俺はそんなのはゴメンだが。
「知ってる。お前はそう言うやつだ」
魔王国の中枢。主に参謀と魔王四天王だ。参謀はドラゴニアで言えば宰相。魔王四天王は近衛騎士の上からナンバーフォーまで……と捉えることもできるが、彼らは国の内政に関する仕事や役職も多い。かといって軍事国家ではない。昔人間と争っていたころは軍事国家でないとやっていけなかったらしいが、今は人間の王政とさほど変わらぬ統治制度を築いている。
だが魔王が眠りについている時は参謀と四天王で国を治めることになっている。ユリーカがドラゴニアで留学と言う形をとっているのも彼女がまだ女王になっていないと言うかまだ魔王が引退しておらず現役のまま眠っているからだ。前の戦いの時も秘密裏に竜族自治区に匿えたのも参謀たちが国を預かる覚悟で臨んだからだ。
しかしユリーカは王女として、魔王国の民が支えにする象徴としてその戦いの中にいられなかったことが何より悔しいのだろうな。それは魔王の親心でもあったのだが。
「……まず参謀はダークローズだな」
「あぁ。彼女は母を亡くしたユリーカの母親代わりのように真摯に支えていた。ユリーカも彼女のことをとても信頼している」
「次に四天王は……」
「俺のほかには、クロウさま」
「あのジジイね」
無駄に長生きなくせに見た目が30代な吸血鬼ジジイだ。
「お前はまたそんな言い方を……。でも俺たちの中で一番の古参だぞ」
「確かにな」
大体500年くらいは生きているんじゃなかろうか。数ある魔王と勇者の戦いも経験し、自らも四天王として戦場に立ったはずだ。当時の戦場を知るものとして……当時を懐かしむ可能性もなくはないが……。
「ユリーカは『おじいさま』と呼んで懐いている。クロウさまは無口で素っ気ないところはあるが……悪い方ではない」
ふぅん……おじいさまねぇ。アイツをか。まぁ俺もジジイと呼んでやってるが。
ユリーカにとって参謀や四天王との関係はまさにファミリーのような存在なのだろう。
「次にドロシーだな。彼女は四天王の紅一点で、面倒見も良く部下にも慕われ、ユリーカは姉のように慕っていた」
ユリーカはどちらかと言えば妹属性だ。姉属性からするとかわいいのだと、前にクルルたんが言っていた。
「そして最後はアーラ。最近先代が引退して魔王四天王に抜擢された」
「……ふぅん。そいつのことはあまり知らない」
「将来有望だし優秀だぞ。ユリーカは弟のようにかわいがっている」
はーん……多分空回りお姉ちゃんをやっているのではなかろうか。妹属性だからな、アイツ。でもま、そんなところも含めてコイツらはファミリーのような気質がある。
「なるほどねぇ……」
もしかしたらそんなファミリーの中に裏切り者がいるかもしれない。それをユリーカが知ったのならどう思うか……。
「アヤメやツルギは何か思ったことはないか」
俺たちの会話を静かに聞いてくれていた2人に問う。
「そうだな。私から見てドロシー殿は魔法もある程度の武術もおさめている」
アヤメはさすがに詳しいな。国交に関係ないところで手合せを挑みに行っているとか聞いたことがある。むしろコイツが一番外交してないか……いや勝負のことしか考えてないので実際に交渉するのは旦那の役目だが。
「クロウ殿はシャマイムとの国境近くで会ったことがある。手合せを申し込んだが『失せろ小娘』と言われてなぁ。しかしあんな細身でも動きは俊敏で纏う魔力も濃い。吸血鬼だから五感も腕力も強いのだろうな」
ジジイことクロウは吸血鬼だ。だからこそ普通の魔族よりも、人間と比べれば驚くほどの規格外の実力を持つ。しかし……さすがはアヤメ。あのジジイに手合せを申し込むとは。
「それでアーラ……だったか。会ったことはないのだが、引退して隠居した先代に手合せを申し込みに行った時に聞いたぞ」
いやいや、何で引退した四天王のところに行ってんのコイツは。
「何でもユリーカ姫に憧れて魔王軍に入って、一気に昇進したそうだ」
へぇ……ユリーカにねぇ。ならユリーカが傷付くことをするとは考えにくいが。そもそもユリーカの願いを勘違いしてると言う可能性も捨てがたい。
「ヴィン殿のことも言おうか?」
「お、いいのか?聞きたいぜ」
いやヴィンも聞きたいのか?まぁ本人たちが言うのなら止めないが。
「武術の腕も魔法もピカイチだな!あと手合せによく付き合ってくれる」
いや、お前一番ヴィンにうざがらみしてんじゃね?
「嫌だったら言えよ?説教するから」
「いや、俺も楽しんでるから気にすんな」
まぁ本人がそう言ってるのでいいか。
「それで、参謀は……」
そう問えばアヤメがツルギを見る。
「……そうだな。抜け目のない方だと思う。魔王さまや姫さまのことをとても大切に思っていることがよく伝わってくる」
だろうな。俺の目から見てもそうだ。そうでしかない。……だが。
俺はドラゴニア勇者だ。多くの女神官が匙を投げて逃げ出した品性下劣勇者。だからこそ……知っている。




