聖女の対価
全く……何故こんなところにいるのか。
「コイツぁは聖女だ。間違いなく」
「えぇぇ――――――っ!?そ、そうなれば一大事ですよ!何でこんなところに聖女が……。あれ……待ってくださいよ……?聖女……聖女は各国にいますけど……。確か隣国フローライト王国の聖女はまだ12歳ほどだと……。昨今それより若い聖女が見付かったって話は今のところ聞いてませんが」
「ふーん。ダニエルの情報なら正しい、か。なら、コイツぁフローライト王国の聖女だろ」
「でも証拠は……?」
「そんなのたくさんあんだろ?王都の外に転がってたせいで薄汚れているたぁいえ、所々に貴族のお嬢さまみたいな特徴がある」
元々の髪はかなり艶が入っているはずだし、肌もだな。爪先だってキレイにアーチを描くほどに調えられている。
それくらいは分かるぜ。何せ俺は愛しのクルルたんのネイルケアも怠らないからな……!!
「……だがそれにしては着衣が質素すぎる。あと、運んできた冒険者はロリコンじゃないからな。質素な服装に替えさせたわけでもあるめぇ。そんなことしたら即クルルたんとメイコさんの鉄槌の上女冒険者たちにも袋叩きに遭うぜ。だからやるなよダニエル!」
「やりませんよそんな大人の男として最低なことぉぉっ!そして何でそれで私だけロリコン疑惑が湧くんですか……!」
「少女が脅えるとなると……やっぱロリコンだろ!」
「いいや、決め付けないでください。ロリコンじゃありませんから。私は熟女好きです!これだけは……譲れません!熟女を愛するものとして……!」
「……そうかい。ま、それは別に興味ねぇけど」
「ガクッ」
「でも、んなら何故ダニエルを恐がったかだ。ロリコンの線がないとすりゃぁ……神官服。そしてその年齢で村に帰りたい、家族に会いたいと言う。誘拐にしては状況が不自然だし、身なりを小綺麗に保たれる待遇を受けた形跡も十分に残っていて、質素な衣服を身に付ける……と、なりゃぁ聖女しかねぇだろ。聖女や勇者は……年齢に関係なくそうであると分かった途端、国や神官に囲われるために、生まれ育った土地から引き剥がされ、家族とも引き剥がされんだよ。むしろ誘拐犯は神殿のやつらとも言える。神の名の元に正当化された誘拐だ。勇者はともかく……聖女に関しちゃぁてめぇも知らねぇわきゃねえだろ?」
「それは……その。聖女はそのたぐいまれなる力ゆえに魔物や欲を持つ人間に襲われやすいので、神殿が保護すると言う名目もある……と、されていますから」
「でもコイツぁ逃げて来た。神官に脅えるってこたぁ、神殿から逃げて来たって考えんのが筋だろ?見つかりゃぁ連れ戻されるかもしんねぇ。だからこそ、脅えたんだ。……しかも隣国からとなると……隣国との国境っつったって王都からどんだけかかると思う?それも聖女が囲われてんならフローライト王国の王都だ。普通に子どもの足で来れる距離じゃねぇ。お前、どうやってここまできた?」
聖女を見やれば……。少し俯いた後、ぽつりと漏らした。
「神殿の転移ポータルを……使いました」
転移ポータル……魔力とキーコードさえあれば、所定の場所に跳べるってやつか。しかし無制限に跳べる訳じゃない。跳ぶ先にもポータルが必要で、互いにキー認証してないと、繋がらない。だから隣国からこの国に……と言うのも、不可だ。そんなことを許したら隣国にあっという間に征服されてしまうだろ。竜族の暮らす自治領のあるこの国に攻め込もうだなんて、命知らずな国はこの世界にはないだろうが。
――――だから、おかしい。
「隣国からこの国に来ることはできねぇはずだ」
「あの……聖女は勇者と引かれ合うと聞いたことがあるんです」
「それは……」
確かに。ドラゴニア王国の聖女はむしろ逃げ帰ってフローライト王国に留学したがな~~。
「だから……必死で……願いました……神さまに」
勇者や聖女に加護を授けるって言う神か。
「お兄ちゃんと同じ勇者さまなら……ドラゴニアの勇者さまなら……助けてくれるのではないかと……!」
そんでドラゴニア王国の王都の外に……。王都の中に転移できなかったのは……坊の影響かね。それとも俺がラブホに入り浸っていたからか……。どちらにせよ。神が聖女のために奇跡を起こしたってことな。そう言う奇跡は世界に稀に起こる。大体が加護を受けた聖女や勇者が巻き起こすんだが……今回は神が聖女のために……ねぇ?随分と大盤振る舞いなことだ。
「しかし、隣国からうちの国に転移だなんてな。神の奇跡と見なすこともできるが……国境を越えちまったわけだから、一応坊には魔法で知らせとくとして……」
お兄ちゃんと同じ……勇者ねぇ。
「はて……?しかしフローライト王国の勇者はロドリゲスさまおひとりでは?」
確かに……俺もそうだと思っていた。しかし……。
「でも……お兄ちゃんは……勇者でした」
それも……この世界の勇者である。あの国に、まだ世間に知られていない勇者がいるとなると……。
「どんな目に遭うかなんざ、想像にかたくねぇけど」
聖女とは違う。この世界の勇者の不条理だ。
「ドラゴニアにも勇者さまがいらっしゃると聞いて……ドラゴニアの勇者さまならと思ったんです!」
ドラゴニアの勇者なら……ねぇ。
「お願いです……!私を村に、連れて行ってください!家族に会いたいんです……!」
これが聖女だからってんで、親元や兄弟からも引き剥がされるこの世界の弊害だ。
「村ってどこの?」
「あの……ドラゴニアとの国境地帯のフローライト王国領【始まりの村】です」
「……何だそのふざけた名前は」
「直球すぎよね」
そうそう、クルルたんの言う通り!!
「何言ってんですか。これだからもう。始まりの村と言うのは、フローライト王国……いえ、世界的に有名な勇者の出身地!勇者が多く生まれると言われる村のことですよ!!」
「詳しいなぁ、ダニエル」
「……うぐ……。その、世界的に有名なので。でも……始まりの村はフローライト王国にいくつかあるんですよ」
「何で始まりの村量産してるんだよフローライト王国。量産型始まりの村じゃねぇか」
「だってぇ……勇者が生まれると勇者が生まれる村として、【始まりの村】と付けられるのが慣例なんですもん~~!」
「いや、何だそりゃ。つーかそれならいっぱいありすぎてどこがどこの始まりの村だか分かんなくなるじゃねぇか」
「安心してください……!そんな時のために、始まりの村にはABCなどの3桁の識別コードがついているんですよ!さぁ、聖女さま。聖女さまの生まれ故郷の始まりの村はどちらです?」
「えっと……BLTでした」
マジでついてんのかよ、それ……っ!
「つーか勇者が生まれる度に始まりの村になんならBLTの他にもTMG サンドとかPTTサンド、あの国の村全てが始まりの村サンドに呑まれんだろ」
「いえ、始まりの村はその、定期的に滅んだり焼き討ちにあったり、魔物に滅ぼされるので、大体常に10か所くらいに抑えられています」
「きな臭すぎんだろ始まりの村……っ!何の呪いだそりゃぁっ!」
「神が与えたもう勇者の試練だとか」
「んな試練知らねぇよ」
少なくともドラゴニア王国に始まりの村はねぇ。てか勇者生まれたら始まりの村にされて滅ぶかもしれないとかどんな鬼畜試練だっつの。
「だいたい、勇者が王都に生まれたら王都滅ぶじゃん」
「その時は……勇者が村に預けられて育つので、その村が始まりの村になります」
「強制始まりの村化かよ。勇者完全に呪いの産物になってんじゃねぇか」
……まぁ、勇者なんて召喚勇者があってこそ……この世界出身の勇者は生まれても生き残れる確率は低い。召喚勇者とは……違うからな。
「そんで、その始まりの村BLTに行きたいって訳か」
「はい……!ロイさま」
聖女が頷く。
「……んー……なら……お前」
「アリシアです……!」
「んー、じゃぁアリシア。おめぇ……いくら出せる?」
「……え?」
「は……?ロイさん?何を言って……」
聖女もダニエルも……これだから神殿に洗脳されたやつらは……仕方ねぇな。
「だから、金だよ金。もしくは金に相当する金品や対価にあたいするもんを出しやがれってんだ」
「どんだけがめついんだアンタ――――――っ!!!」