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温泉



――――エスト王国の家屋のほとんどが土足厳禁、廊下はフローリングだが、また部屋の床に畳を敷いている。

外国の客人を迎える際は土足でも移動できるスペースを兼ね備え、客間はベッドの部屋もあるが……坊がせっかくなら敷き布団がいいと言うのでこの国に来る時は俺も畳の上に敷布団である。


「ユリーカたちも楽しく過ごしているでしょうか、ロイさん」

タイヨウは内装を物珍しげに見ながらもそう問うてくる。エスト王国の家屋は召喚勇者の元の世界の国に近いそうだが……坊曰くこう言うのは『高級旅館みたいで特別感があるんだ』らしい。

どうやらタイヨウにとっても、知ってはいてもそれそほど慣れ親しんだものでもないようだ。


「……んー、あっちは多分夕飯前に風呂入ってんじゃね?城なら個室に風呂がついてんだ」

坊と来る時は男女で部屋で別れるが、夫婦で来るならクルルたんは夕飯までに風呂に入っておきたいタイプだ。あぁ……むしろ俺とクルルたんは夫婦向けの部屋でも……と一瞬思ったのだがシェリーとユリーカには多分保護者がいないとなと思い直す。


「わぁ、本当だ!」

タイヨウがはしゃぎながら確かめている。


「ねぇロイさん、ダニエルさん、入りましょうよ!」

「んー……まぁいいが」

夜は用事があるし……先入っておくか。


「そうですねぇ……ぼくも久々に」

「え?ダニエルって温泉入ったことあんの?」


「まぁ、エスト王国風の温泉街なら昔おじいさまと……いえ、何でも」

ダニエルは例の秘密のことを思い出したのか口を閉ざす。


「今思えば……大人向けの店もありました」

「そうだな。温泉街ってのは……大人の店もあってしかるべきだ」

もちろん俺はクルルたんと経験済みじゃぁっ!!


「え?おふたりとも何の話ですか?」

「何でもありませんよ、タイヨウくん。行きましょうか」

しれっと先ほどまでの微妙な表情を隠すダニエル。俺も2人に呼ばれ浴室へ向かったのだった。


※※※


――――カポン。

独特の音が響くエストの温泉。

坊は何て言ってたか……あぁ、シシオドシだ。


「あの、そう言えばロイさん」

「どうした?タイヨウ」

坊に厳しく言い付けられた作法で今回も難なく入浴すれば、タイヨウは何も言われずとも完璧にやって来た。やはり召喚者からしたら『当たり前』なのだろうか。

因みにアヤメの旦那に坊に教えられたことを聞いてみたらまさにその通りだった。


「この国ってやっぱり刀……とかあるんでしょうか。アヤメさんは聖剣を持ってらっしゃいましたけど」

「あぁ、あるぞ。アヤメも刀を持ったことはあるんじゃないか?確か前に坊とケンドウや刀の話をしていた」

「……剣道ですか。道場もあるって言ってましたもんね。でも陛下も刀に詳しいんですか?」


「あー……何か好きみたいで集めてんだよ。エスト王もそれに感銘を受けてな。重要な式典の際に刀や装備品を土産にくれるらしい」

ドラゴニアとエスト王国はさほど頻繁に交流していたわけじゃない。ドラゴニアは旧フローライトとの交流の方が多かったからな。これほどエスト王国と交流を持ったのも坊の影響だ。

そしてエスト王は坊がエスト王国の食べ物や武器装備品が好きと知り、一気に仲良くなったようだ。ま、自国のものが好きと言われて嬉しくない王はいないってことだな。


さらにドラゴニアと関係を深めることは……魔王国やアートルム、旧フローライトと何かがあった際にも頼れるからエスト王国にとっても利点がある。


「え、陛下すごい!見てみたい……けどさすがに陛下だから無理かなぁ」

「大丈夫ですよ、ロイさんを保護者に連れていけば多分快諾してくれます。前に陛下ご本人が言ってましたので」

おいダニエル、お前いつの間に坊からそんなこと聞いたんだよ。そして何故俺つき……絶対クエストやらお使いやら押し付ける気だろ!?




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