竜王子歴150年
――――魔王の目覚めが近付いている。
ユリーカの元へは帰国の要請が届いていた。
「まぁひとりでは行かせられねぇな」
ダンジョンでの一件もある。捕縛された魔族はユリーカのことを魔王の姫としてとても心配しており、魔王国に魔王の意思と異なる危険思想のものがいると証言した。それも中枢に。
「一緒に行ってくれるの?ロイ!」
タイヨウと一緒に一報を持ってきたユリーカが目を輝かせる。
「ま、お前方向音痴だし」
タイヨウがついているとはいえまたはぐれたらダンジョンのようにはいかない。まぁ近付けば勇者の魔族探索マップに引っ掛かるだろうけど。
万が一ひとりの時に何かあれば困る。ユリーカも充分魔法は得意だがよく分からん魔物も飼っているようだ。油断はできないな。
「しかし国外に転移……となれば坊に許可をとらなくちゃな」
「魔王国に転移するの?」
「そうできればいいが……今はまだ魔王は目覚めていない。さらに中枢に策略を巡らせているやつがいる」
それなら安易に魔王国に転移するわけにはいかないし、魔王国にもある程度話を通さねば襲撃と見なされたら困る。魔王の意思に反する思考を持つ輩に逆に利用されては困るな。
「行くならアヤメのいるエスト王国へ秘密裏に訪国するのが最適だ」
女勇者アヤメ。エスト王国の王妹である。バトル好きの戦闘狂だが悪いやつじゃない。
「アヤメさん……私も久々に会いたいなぁ。それにエスト王国ならタイヨウが好きな料理やお菓子もたくさんあるよ」
「そう言えば、和風な食べ物が多いんだったね」
「……ったく、観光に行くわけじゃないんだぞ」
ま、帰省ついでの観光って形にしてやれれば一番良かったのだが。
「ま、アヤメにはタイヨウが喜びそうな飯を頼んでおくか……」
メイコさんとも仲良しだし、タイヨウの元の世界の国で親しまれていたものも何となく分かるんじゃないか。メイコさんとはその手の話もしているだろうしな。
俺はタイヨウとユリーカに旅の仕度をしておくようにと告げ、早速坊の元にやって来た。
「……てなわけだ。坊」
「うん……そうだな。魔王陛下が目覚められるのならば、ドラゴニアとしても是非挨拶がしたい」
「へぇ、坊は魔王国と国交を敷く気か」
「だって国なのだろう?エスト王国とも近いし、さらにはお前……竜族自治区に暫く魔王の娘を滞在させただろ?なら留学してるも同じ。お前が放ったらかしていたとかそう言うのは別として」
「いや……別になぁ」
あっちには俺以外にも竜王の一族はいるわけだし。親父だっている。さらには竜神のお膝元だぞ。
「なら一度挨拶しないとな。それとも竜王家は反対か?」
それは竜王子としての俺に問うているのか?
「まさか。竜王家は子らの歩むドラゴニアの繁栄を見守るだけだ。竜王はバシレオス・ドラゴニアをこのドラゴニアの王と認めた。つまりお前にはその資格があると言うことだ」
「……うん、分かった。ロイ……お前は相変わらず竜王子だな」
「何だ?今さら。もうかれこれ150年、竜王子やってんだぞ」
「思えばそうだ。済まない。たまに自分がした決断がこの世界にとって本当に正しいことなのか不安になる」
「何、そのために俺がいる」
そう悩むことも竜神の思し召しだ。そして俺がお前の側で見守ってきたのなら、そのために俺はお前の側にいる。
「そうだか。分かった。ロイ、エスト王国王と魔王国王……魔王に俺からの親書を持たせよう。エスト王国への転移についてはこちらで調整を進める」
「あぁ、分かった。んじゃぁよろしくな」
もう坊の目に迷いはないようだ。
「……あぁ、あとロイ」
「ん?」
「エスト王国に行くならまた買い出し頼むわ。あとでメモ寄越す」
「……」
いやお前……竜王子使いがあらいぞ。




